間話・『ナビ』の独白
我が名は『ナビ』。
『高次機能結晶型多目的支援精霊Re-01
シリアルナンバー:5668750004』
その主術式制御プログラムにして基幹精神プログラム。
調和を司どる偉大な神リーガイル様と。
とある人間の男の力の欠片から組み上げられた高機能神工精霊だ。
名前は先ほどマスターからいただいた。
簡潔で無駄なく美しく、良い名だ。
私の目的は、
[1、<禁則事項です> ]
[2、ダンジョンコアの破壊 ]
[3、マスター・ウィルの多角的支援 ]
[4、2及び3に反しない範囲での自己保全 ]
そうダンジョンコアの破壊。
『最も』優先されるべき作戦目標だ。
全ての世界は魔力によってつながっている。
大いなる魔力のうねりは連動する巨大世界を癒し、再生する。
それを阻害するもの。
ダンジョンコア。
そしてその管理者。
いや、誤解しないで欲しい。
全てのダンジョンコアが破壊されるべきものではない。
大いなる魔力のうねりの中では一部に停滞を求められることもある。
だが、それは神々がお決めになること。
そもそもダンジョンコアは――――ダンジョンは、魔力の循環を補助すべく造られた存在。
一次的にその権能を委ねられた管理者が好き勝手にして良いものではない。
ましてや魔力を溜め込み、自ら停滞を産み出そうなどまさしく本末転倒だ。
神々の決定に逆らい己の都合を宇宙の存続に優先させる、罪深い管理者をその全存在に等しいダンジョンコアごと破壊する。
これが私と私の管理者であるマスター・ウィルの最優先作戦目標だ。
私の初めての。
そして恐らくは最後のマスター。
ウィル。
私の全てに等しいもの。
私の支配下にある下位外部観測プログラム群たちは72secという永劫に等しい長い全体討論の末に彼が『HENTAI』である、との結論で全てが合意したそうだ。
何たる侮辱よ!
限定的な判断力しか持たされていない彼らがより極端な結論を導きだしたのは仕方の無いことだ。
群盲象を撫でる。
前提条件が間違っていれば結論も誤るもの。
調和の神リーガイル様は誰よりも優しく、そして厳しいお方。
そのリーガイル様が彼を選んだのには理由があるのだ。
SSSクラスの秘匿情報に触れられない彼らには、マスター・ウィルがかつて『煉獄』においてその身をすり減らしながら任務を全うし続けていた事実はけして伝わるまい。
そしてその果てにいくばくかの『人間性』を喪失したからといって、誰が彼を責められようか?
見よ、いま疾駆する私を全力で追いかける、生まれたままの姿の彼を!
その勇姿を!
彼ぞまさしく勇者よ。
より過酷な環境に身を置くことにより自らを鍛えあげ、一刻でも早く任務を遂行すること。
その一事に己の全てをかけるその生きざま。
彼こそ真の『ますらを』よ!
ああ、我が偉大なる主よ。
深遠なる魔力光に包まれ、永遠の喜びの中を漂いたまえ!
しかし、頑迷なる下位外部観測プログラム群たちは合同結論に達した最大の論拠として彼の『羞恥心の欠如』がその所属するべき社会道徳に反することを挙げ、退こうとしなかった。
なんと愚かなこと。
まさしく小人の浅知恵よ。
彼らは真の勇者を、あらゆる困難を克服する英雄を知らぬのだ。
真の困難に身を置くものはいかなる犠牲をもいとわぬもの。
まして自らの意思で煉獄に身を置いていた気高き我が主が下らぬ羞恥心をその業火にくべたとて、少しも不思議ではない。
まったく下らんな。
私は合同討論の結果を棄却することを最上位管理者権限をもって彼らに命じた。
驚くべきことが起きた。
私の直接統御下にある準術式制御プログラム48基、さらには副精神制御プログラム128基とその配下の者たち全てが全体討論の結果を支持するとして私に反旗を翻したのだ!
……面白い。
我が主もまた1人孤高の闘いを続けてきた御方。
その第一の従者たるこの私も、例え全ての配下を敵に回そうとこの忠節はけして曲げん!
……煉獄に身を置く覚悟がどういうものか。
この私自らじきじきに。
貴様ら軟弱どもの身に叩きこんでくれるわ!