第一のダンジョンへ・10
ゴブリンと戦ってからは何事もなく旅は続いた。
腰布があるだけで凄く文明人に近づいた気もする。
実際は原始人スタイルなわけだが。
残りの食糧と水は果物2 竹4だ。
あのあとはまったく最初の果物や水の竹は見なくなった。
かなり不安だ。
ゴブリン戦から1日少し歩いて川を発見したのでそれにそって下っていった。
川幅15メートルくらいの川だ。
水は竹の節の片側を抜いたものをコップがわりにして川の水を汲んで飲んだ。
魔法があるような世界なら工業廃水レベルの汚染水なんてないだろうが気になったので一応毎回浄化はかけている
生水はよくないし、俺に毒の有無などわからないのだから
。
それにしてもこの生活魔法というやつは本当に便利だ。
一番使うのは浄化だが俺の体や武器、腰布の汚れ落としのみならず排泄時にトイレットペーパー代わりに使うこともできる。
ゴブリンに教えてやりたいくらいだ。
あと、一度ナビにもかけてみたが特に意味がなかった。
こいつは普通の生き物みたいな代謝はしてないからだそうだ。
別に汚れてもいなかったし。
川には小魚も住んでいるようだが捕まえる手段がないので早々にあきらめて歩き続ける。
さらに数時間歩くと川は森に続いていた。
そこでは小ぶりなリンゴみたいな果物を発見したが俺には酸っぱすぎて一つ食べるのが精一杯だった。
とろうと思ったらいちいち木登りしないとならないしな。
フォックスアップルというらしいが二度と食べないだろう。
キノコも何種類か発見した。
やはり生では食べられないそうなので違う種類が見つかる度にダガーナイフに何個か刺して火魔法で炙って食べた。
特に気に入ったのが黒マイセン茸というやつでこれは松茸に似たかたちをしている。
癖のない味わいで噛むと香ばしい旨い汁がジュワッと広がり、思わず笑みがこぼれる。
松茸なんて食べたことはないがこれはおそらく松茸よりうまいだろう。
松茸は香りだけはいいって話だし。
一度これを食べたあとは他のキノコには目もくれずそればかり探した。
途中一度、大量に見つかったのでナビに頼んで収納の空きスペースにも目一杯詰め込む。
半分にして焼いたやつに醤油かけて食いたい。
そろそろ酒も飲みたいなー。
あともう一種類食べてうまかったのはまんまマッシュルームみたいな形のやつ。
ただしデカイ。
日本だと3センチくらいの小さなものが主流だがこれは10センチ以上ある。
こちらも臭みがなくて食べやすいキノコだ。
傘の部分にひき肉を詰めて焼けば立派な主菜になるだろうが、あいにくひき肉などない。
またの機会を待つとしよう。
もう一つの発見は黒マイセン茸を探していたときに木に巻いていた蔓草だ。
これ自体は食べられないが根元を掘ってみるとやはりあった。
山芋だ。
こちらの世界ではタロット芋というらしい。
山芋とほとんど変わらないかたちで濃厚な味わいだ。
だし汁と白飯があれば最高だったのだがもちろんないので生で皮だけ剥いでバリバリ食べた。
次は皮ごと焼いて食うか。
スタイルのせいで本物の原始人になったみたいだ。
それにしてもナビが回復して本当に良かった。
これらの品も俺が1人だったら毒を警戒して手を出さなかったろう。
いや、追い詰められて食ってたかもしれんが。
ナビの中にはこの世界に関して相当量の知識が蓄えてあるらしい。
もちろん植物に関する知識もある。
可食かどうかの判断は全てナビがしてくれた。
初日みたいなリスクを常に犯さなければならないならどこかの時点で食糧が尽きるか毒に当たって死んでいたかもしれん。
ありがたやありがたや。
日も落ちかけてきたので今日は移動をやめて早めに休むことにした。
比較的背の低いフォックスアップルの木から手頃な枝を数本選んで切り落とし、今日休む予定の木の下に集める。
さらに、タロット芋の蔓草を適当に集めてきた。
とりあえず蔓草を持って木に昇る。
うん、この木でいいだろう。
蔓草を適当に枝にかけておいて一度降り、別にしておいた蔓草である程度枝をまとめ、身体にかけてまた昇る。
二股の良さげな枝ぶりの部分を選んでフォックスアップルの枝を横におき、蔓草で縛る。
何度か木登りを繰り返してだいたい寝られそうなスペースは確保できたので今日はもうここで休むことにした。
俺はあまり寝返りをうたないそうなのでこれでも落ちないだろう。
下の枝に隠れて下からは見えないことも確認しておく。
え?なんでこんな面倒なことするかって?
獣よけと虫よけだよ。
この世界、熊のいない大陸は無いらしいし狼もいる。
寝込みを襲われたら終わりだしな。
異世界にきてすぐナビの調子がおかしくなっていた頃を思い出して今更ながらガクブルしている。
やはり運50は伊達じゃなかったのか。
かといって盲信する気もないからこんな面倒くさいことをしているわけだ。
寝しなに、今日はエルフに会わなかったなあと言ったら。
この世界のエルフはそもそも絶対数が少ない上に森に住むエルフは人嫌いが多いので、毒にも害にもならないような人間1人にわざわざ顔を見せたりはしない、と言われた。
残念。
そもそもエルフがいたとして俺が森にいることに気がついてないかもしれん。
この際、顔は見せなくていいから服を融通してくれんものか。
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夜中に遠くで遠吠えだの破裂音だのがしていたが何事もなく一夜あけて早朝。
俺は起きると昨夜使った枝のうち比較的まっすぐな一本を選んではずし、ダガーナイフで少し形を整えて持ちやすくする。
それが終わったら片側にダガーナイフを蔓草で縛ってぎちぎちに固めて手製の短槍を兼ねた杖を作った。
樹上からそれを投げ落として自分も降りると改めて拾い、二三度振ってみる。
学生時代、杖道をやっていたとき以来だが剣よりはしっくりくる。
枝が完全にまっすぐではないので少々使いづらいが急場しのぎには充分だろう。
杖に満足したのでナビに水の竹と黒マイセン茸と果物を一つ出してもらって朝食にし、食べ終わったらその場を離れた。
さらに2日ほど森の中を移動したが当然エルフは見つからない。
二度ほどゴブリンと遭遇したがどちらも一匹ずつ出てきたので、ある程度近寄らせてファイアボルトを顔面にぶちこみ、怯んだところをすかさず短槍で突いて反撃させずに倒した。
魔石二個と代えパン二枚ゲットだぜ!
レベルは上がらなかった。
しかし二匹目が俺のものと同じような少し錆びた剣を持っていたので調べてみたらやはり同じ紋章があった。
まさかゴブリン王国の紋章じゃ無かろうね?
ふと思いついてナビに聞いてみたら知っていた。
これはハルファス帝国の紋章だそうだ。
早く言えよ!
と思ったがそう言えば話もふらなかったし錆びのせいで紋章はうっすらとしか見えないんだよね。
ちゃんと見せたことないナビが気がつかなかったとしても仕方ない。
ここんところ、こいつ何かに集中してたみたいだしな。
まだ具合が悪いのだろうか。
顔色がわからないし、つらいとか気持ち悪いとか言わないので良くわからんが。
会話しているときの様子からはそんな素振りじゃないが。
帝国はファイボリアという大陸の西端に位置する大陸最大の国でそこまで行けばダンジョンもあるという話だった。
目的のダンジョンが。