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ダンジョンを破壊せよ  作者: ゆず胡椒
はじまり
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プロローグ

今日も一日目一杯働いたな…。

帰っていつものぬるい缶ビールを一缶、つまみのスルメはそろそろ買い足さないと…。


特に意識を向けることなく、流れるように閉店作業をしながら帰宅してからの予定モドキを考えている、すでにルーチン化した日常生活。

大学を出てからずっと続けていた仕事なので特に頭を使わなくても仕事の手が止まることはない。

身体に染み付いてしまっているのだ。


俺は島田 優一、30才、独身。

居酒屋チェーン「タワミ」華川南支店長だ。


支店長とは言っても時給1150円、サービス残業・早出が当たり前のブラック企業勤務の身。

まともな月給なんか貰っちゃいない。

カツカツの給料でどうにかこうにか生きてるだけだ。

一日12時間の労働に対して8時間分しか払われない給料。

計算してみてくれ。

かろうじて北海道の最低賃金を上回るレベルだ。


大学から付き合ってた彼女とは去年別れた。


市役所務めの公務員と見合い結婚するんだ、と

別れ際に言われた。


くそっ。


どうせ俺は社会の底辺のクズさ、嫁さん子供を養えるほど稼いじゃいない。

だけど筋は通してきた。

付き合ってる相手がいるのに別れもせず見合いして。

そっちが上手くいきそうだからといってハイ、サヨナラなんてこと、一度だってやっちゃあいない。

いつだって彼女のことを第一に考え、浮気なんて誘われてもお断りだった。

そりゃ誰だって人生しくじりたくはないけどさ

お前にとって俺って一体何なのよ?


くそっ。


まだ学生だったとき、かわいい後輩からの誘いを断るんじゃなかった。


ちなみにその娘は去年不倫バレして離婚されたんだけどな。


閉店作業を終わらせ自分個人の日報とPCの営業管理シートに本日分の書き込みを終えると照明を落とし、施錠して店を出る。

もう少し日報がたまったらサビ残の分をまとめて請求してやる!そして居酒屋の店員なんか辞めてやるんだ…!


俺は暗い怒りを胸に愛車(ママチャリ)に跨がると自宅に向かってゆっくりとペダルをこぎはじめた。

夜中の路側帯を愛車(ママチャリ)で走りながら少し将来のことを考える。


貯金も少しまとまった額がたまってきたし会社を辞めて

失業手当てをもらって。

サビ残の支払いは法律事務所ア○ィーレに間に入ってもらって会社を訴えて絶体とりかえしてやる。

そして……。


そして……、


そしてどうなる?

人生をやり直す?

それもいいな。

今度こそ、信頼できるパートナーと一緒に……見つかればだけど……。


苦笑しながらペダルをこいでいたとき、前方からくるダンプに気がついた。


おっと危ない、気を付けないとな。


ダンプの方もこちらに気がついているようだ。

幸い対向車などもなく、少し中央線寄りを走ってこちらをやり過ごすつもりのようだ。

ドライバーの気遣いに少しだけ感謝する。


俺とダンプは何事もなくすれ違うハズだった……。

そのとき起こったことをなんと言えば良いだろう?

事故に遭った?

運が悪かった?

神様の思し召し?


ははっ笑える。



甲高い金属音が田舎道に木霊するとダンプの巨大なタイヤが外れて高速回転しながらこちらに飛んでくる俺のすぐ脇をすり抜けないでハンドルにかすった!俺はあっという間にバランスを崩しながら回転するダンプの車体と



ぐちゃ。


あ?


……



………………




ん……。


なんだ?



気がつくと俺は何も無い白い空間にいた。

上半身を起こして何となく手を見る。


あれ?

俺、事故にあってダンプと……!

その瞬間よみがえった事故の記憶にゾッとして自分を抱き締める。

あれ?さわれるってことは生きてるわけで……。


夢かよ……?


俺がほっとしかけた瞬間だった。


「夢ではありません」

「うわっ!」


いきなり後ろから話しかけられたせいでびっくりした。

慌てて振り返ると白いゆったりしたドレスをきた外人女性が俺を見下ろしていた。


ハリウッド女優のシャーリー・ズセロンみたいな凄い美人だ。

いやこっちのほうが遥かに美人だ。

胸も大きい。

ただ、髪の色が緑色なんであからさまに違和感があるが。


甘い、えもいわれぬ薫りが漂う……。


「あの…夢じゃないって…。てかあなたは誰です?なん、何で俺の考えてることが…」


美神(びじん)を前にした緊張感で俺は噛んだ。

これはカッコ悪い。


「私は調和を司る女神リーガイルです。夢でも何かの間違いでもなく、あなたは事故で亡くなりました」


あんな目にあえば動揺して当然ですから何もカッコ悪くありませんよ、と女神は微笑んだ。


筒抜けじゃん……。


やだ……恥ずかしい……。


でも感じちゃう……ビクンビクン。



女神様は座り込んだ俺に合わせてひざまずくと、羞恥心(?)でしゃべれなくなった俺の手を両手で握って話しかけてくれた。


真っ直ぐにお互いの目を見つめあう。


凄く、イイニオイガシマス……。


そして女神は語った。

間違いなく、俺はあの事故で死んだこと。

ここが世界と世界のはざまであること。

俺にしてほしいことがあること。


そのやさしく諭すような話し方や女神様の眼から、俺は感覚的に理解していた。

その言葉には労りが。

その目には寛容と慈愛が満ちている。

嘘なんか欠片もない。

俺は死んだ。

それにこの人は本当に神様なんだ、って。

半分くらいは目じゃなくて谷間を見てたわけだけど。



「その…何で俺に?自分で言うのもなんだけど特に頭がいいわけでも、善人でもないですよ?」

「あなたを選んだのは私ではありません。調律の神ベレアージがあなたを推薦したのです」


人間はみんな、死ぬとその世界で輪廻転生するか神様の手伝いをするか聞かれるらしい。

特に俺だから、というような理由は無いそうだ

可能性がありそうな全員に話をするんだと。


「それで、俺に何をさせたいと……?」


迷宮(ダンジョン)を破壊してください」

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