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スキル実験及び王都探索

「ほらよ、受け取れ」


 レスターがこちらに向かって指で弾いてきた何かをキャッチする。

 金貨だ。これを使ってスキルを発動させてみろってことか。


 ……どうやって発動させるの? そこらへんの説明は受けてないぞ。


「その小金貨が金闘士下限ギリギリの1万ペル相当だ。さっそくやってみな」


「どうやって使うんですか?」


「あっ? そんなこと俺が知るわけねぇだろ」


 呆れた様子で返答するレスター。どうにもこの金髪碧眼のイケメンは人をいらつかせる才能があるらしい。

 俺だって知らないのに、どうすりゃいいんだよ……。


「自分のスキルの存在を意識してみて」


「えっ?」


 イシュタルがアドバイスをくれる。

 試しに目を瞑り、俺の宿している《金闘士》スキルを強く意識してみる。

 ……あれっ、なんかイメージが湧いてくる……そうか、こういうことか。


「変換・1万ペル」


 浮かんで来たイメージを頼りに、その言葉を口にする。

 手にしていた金貨が一瞬光を放って俺の手から消える。それと同時に俺の身体が淡い光に包まれる。どうやら上手くいったようだ。身体中から力が湧いてくる。


 これが俺のスキル……《金闘士》か!


「ほぉ……ちょっと神々しいじゃねえか」


 レスターはそんな俺の様子を見て感嘆の声を漏らしている。イシュタルとカイルの顔にも多少驚愕の色が見える。

 神々しいって真顔で言われると、なんかこそばゆいものがあるな。

 

「ノボル。試しに数回打ち込んできてみて」


 そう言って、再び距離を取って剣を構えるイシュタル。

 これは闘いってわけでもないし、遠慮なくいかせてもらおう。


「行くぞ」


 強く地を蹴り、イシュタルに向かって突進する。

 距離が詰まったところで、防御の姿勢を取っているイシュタルへと剣を振り下ろす。


「へえ……悪くはない」


 涼しい顔をしながら、打ち込まれた俺の一撃を褒めるイシュタル。

 イシュタルに言われた通り、数回打ち込んだ後、俺は剣を下ろす。


「どうだ?」


「うん……明らかに強くなってる。少なくともさっきよりはずっと。これなら闘技大会でもかなり良いとこまで行けると思う」


 俺に関する感想を求めるレスターに、称賛の言葉を以って返すイシュタル。

 俺自身も明らかに強くなった実感があった。

 

「下限額でもそれなりの効果は得られるんだな。次は一気に上限額を試すぞ……と、言いたいところだが」


 一拍置いて、レスターは続ける。


「さすがに実験で10万は使えん。後はぶっつけ本番だな」


「そりゃそうですよね」


 いくらなんでもそれは贅沢が過ぎるというものだ。俺とて浪費は好きじゃない。使えって言われても使う気は起きないだろう。


「下限額でもイシュタルのお墨付きだ。優勝だって充分狙えるだろうさ……さて、お前自身何かわかったことはあるか?」


 レスターが問いかけてくる。

 さっき意識をスキルに集中させたときに湧いてきたイメージから、いくつかわかったことがあった。


 制限時間は、金を変換してから5分間。

 制限時間内にさらに金を変換することはできない。

 使用された金は消失するのではなく、世界のどこかに還元される。

 そして、制限時間を短縮させることにはなるが、ある技が使える。


 とりあえず、現時点でわかっていることはこのくらいだ。


 このことを説明すると、レスターが最後の部分に食いついてくる。


「どんな技だ?」


 試しに使ってみてもいいのだが、残念なことに《金闘士》を発動してから5分はとうに過ぎている。見せるためには再び1万ペル以上の金を使わなくてはいけない。


「ざっくり言えば、変換した金の力を放出するって感じですね。闘技大会で試してみようと思います」


「ふむ……今見てみたくはあるが、それだけのために金を使うのもな」


 レスターが少し残念そうに呟く。

 これには俺も同意せざるを得ない。無駄金はなるべく出したくない。例え、自分の金でなかろうとも。ましてや、俺は2億の返済義務を背負う男。無駄金になるなら弁済に宛がってほしいというのが本音だ。


「よし、だいたいわかった。後は好きにしてていいぞ」


 そう言って、レスターは練兵場から去っていく。

こうなればここに残っていても仕方ない。


 そう思い立ち、大人しく自分の部屋に戻ろうとしたところ、肩をトントンと叩かれる。振り向くと、ニッコリ笑うイシュタルの姿がそこにはあった。


「お昼には部屋にいてね」


「えっ?」


 何をする気なんだろう?

 疑問の答えはすぐに返って来た。


「街に行こう」


 ◇


 俺はイシュタルと共に街へと繰り出すことになった。

 部屋でゴロゴロしていても退屈なので、イシュタルの誘いに乗ったのだ。


 なだらかな丘の上にある王宮から少し歩いて見えてくるのはレンガ造りの街。

 日本ではまずお目に掛かれない街並みに目を引かれる。


 王都フォルトレア。

 街の名はイシュタルが教えてくれた。


「しっかし、イシュタルは勝手に街へ出て大丈夫なのか?」


「大丈夫大丈夫」


 口調軽めに答えるイシュタル。

 これ大丈夫じゃないような気がするんだけど。

 俺は俺で問題あるのかもしれないけど、イシュタルの方も王宮に仕えている以上は勝手に抜け出して良い立場ではないはずだ。

微妙に不安に駆られているところに、イシュタルが釈明する。


「基本的に私は有事の際以外は自由にしてていいって条件で仕えているから」


「……緩いな」


 そんなことを認めれば他の従者たちの不満を買うことになりそうだけど、それでもイシュタルを手元に置いておきたいということか。

 あれだけ並外れた戦闘力を持っているなら、おかしな話でもないのか?


「それに私がいたところで大して役に立たない」


「おい、このポンコツ」


 言葉だけ見るならともかく、偉そうにふんぞり返って言うものだからつい突っ込みをいれてしまう。

 本当につかみどころのない娘だな……。


「ていっ」


「おっと危ね」


 イシュタルが繰り出してきた手刀をひょいと躱す。

 ポンコツって言葉に反応したんだろうか。


 そんなたわいもないやり取りをしているうちに、人混みが目に入ってくる。

 

街を歩いていると、あることに気づく。


「妙に視線を感じるんだけど……」


 さっきから道行く人にやたらと見られている。最初は気のせいかと思ったけど、どうにもそうではないらしい。

 一応心当たりはあるけどさ。


 俺の言葉を受けて、イシュタルが口を開く。


「ノボルみたいな黒髪は珍しいから」

 

「銀髪褐色も相当珍しいと思うがね」


 おそらくどちらも原因であるのだろう。イシュタルが美少女であることも無関係ではないかもしれない。ジロジロ見られるのは正直気持ちのいいものではないけど、こればかりはどうしようもないか。


 ある建物の前まで来て、不意にイシュタルが足を止める。


「ここでお昼にしよう」


「了解っと」


 ここは料理店か。あえて王宮で出る昼食を取らずに来たってことは期待してよさそうだ。 


「……って、ちょっと待ってくれ。俺金持ってないんだけど」


「私が誘ったんだから私が出す」 


そう言って、イシュタルが扉を開けて店に入る。

ここは素直に好意に甘えておこう。俺もイシュタルの後に続いた。


「いらっしゃいませー!」


 女性の快活な声が聞こえてくる。お昼時なだけあって、それなりに広い店内は賑わっていた。空いているテーブルを見つけ、腰を下ろす。


 お品書きを探していると、店員らしき女性がやって来た。


「あらっ、イシュタルちゃん。そちらの方は?」


 俺の方を見て、イシュタルに説明を求める女性。イシュタルの顔馴染みか。

 イシュタルはどう説明するか困ったのか、少し悩む素振りを見せた後、口を開いた。


「……迷える子羊?」


「なんだそりゃ」


例えにしても雑に過ぎるというものだろう。ほら見ろ、店員さんも困った顔してるじゃないか。


「彼氏とかじゃないの?」


 口角を上げて、そんなことを聞いてくる店員さん。

 なるほど、そう来たか。確かに、歳の近い男女がいっしょにいればそう見られることもあるだろう。


「結婚を前提にお付き合いさせていただくことになった」


「へえ、本当!?」


「嘘です」


 店員さんが誤解しないよう即座に否定する。さすがに根も葉もない嘘をつかれてはたまったものではない。

 いや、額面通りに取ればすごく嬉しいんだけどね。イシュタルはすごい美少女だし。


「な~んだ……イシュタルちゃんはいつものやつでいい?」


「うん」


 店員さんが注文を取る。

 今までのやり取りからなんとなくわかっていたけど、イシュタルはここの常連のようだ。俺もイシュタルと同じものにしておくか。


「俺も同じもので」


「かしこまりました!」


 注文の確認を済ませ、厨房の方へと去っていく店員さん。

 

 そうして待つこと十数分くらいして、注文の品が運ばれてくる。

 運ばれてきたのはパンにサラダ、それにステーキ。そのステーキなんだけど……。


「デカくね?」


 思わずそう呟いていた。

 これ800グラムくらいあるんじゃないか? 少なくとも一人で食べる量ではない。


「王宮では楽しめないこの肉厚感……素晴らしい」


 イシュタルは思いっきり口元を緩めて喜びを表現する。

 お前、いつもこんなもん食べてるのか。これ、俺に食いきれるかなぁ……。しかし、店員さんも確認してくれたってよかったよな? 後、これ絶対けっこうなお値段だろ。


「いただきます」


 手を合わせて食前の挨拶をして食事を始める。

 ステーキをナイフで切り分け、大きな一切れを頬張る。

 ……美味いなこれ! 噛みしめるほどに旨味が湧き出してくる。


 ちらっとイシュタルの方を見る。彼女は肉を頬張り、これ以上ないってほどに幸せそうな顔をしている。

 ああ、良い顔してんなぁ……。


 俺も気合を入れて食べるとしよう。知らなかったとはいえ、注文した以上は残すわけにはいかない。




「うっぷ……」


 食事を終えて、俺たちは店を出る。

 さすがにあのサイズはきつかったが、なんとか完食することができた。イシュタルはペロリと平らげ、今も平然とした顔……というか、満足げな顔をしている。大した胃袋お化けだ。


 再び街を歩いていく。途中にあった服屋、武器屋、道具屋等々興味を引かれたところに寄ったりしながら。お金がないから冷やかしでしかなかったけど。


「フフフ……私のお気に入りの場所を教えてあげる」


 意味深な笑みを浮かべてイシュタルはそう俺に言った後、路地裏の方へと入っていく。

 わけもわからずその後を追う。いったい何があるというんだろう?

 そこにいたのは……。


「……猫?」


 俺もよく知る哺乳動物である猫が何匹もそこにいた。

 イシュタルが猫たちと戯れている。


「お~、よしよしよし」


 イシュタルは茶色い毛並みの猫の頭を優しく撫でている。なんとも微笑ましい光景だ。

 俺の下にも一匹の猫が近づいて来た。白黒で可愛い顔をしている。人懐っこいやつらなんだな。俺は屈みこんで、猫の頭を撫でてやる。ゴロゴロと喉を鳴らす白黒。ああ、良いなぁこういうの。


 俺たちは少しの間、猫たちと戯れていた。


 その後、明日の闘技大会の舞台となる闘技場含めイシュタルにひとしきり街を案内してもらった後、王宮への帰途に着く。時間が経つのも早いもので、王宮に戻って来たときにはもう夕暮れ時になっていた。


イシュタルと別れ、自分の部屋に戻る途中でレスターに遭遇する。


「よう。どうやら街に行ってたみたいじゃねえか」


 咎めるような口調ではないことに少し安心する。好きにしてていいとは言われたけど、勝手に王宮の外に出歩けば文句の一つも言われるだろうかという心配があったからだ。


「イシュタルに案内してもらってました」


「ふぅん……問題は起こしてねえよな?」


「はい」


「ならいい。さっさと部屋に戻ってろ。夕食が来るぞ」


「あっ、夕食は軽めのものでお願いしたいんですが」


 昼に馬鹿食いしたせいで、まだ胃がもたれている。重いものは食べたくない。


「そんなことは侍女共に言え」


 なるほど、それは最もだ。レスターが給仕を行っているはずもないのだから。


 侍女の人に頼んだ結果、夕食は肉団子入りのスープだった。


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