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13 今夜の献立


 既に今夜の献立は決まっていた。

 セーキヨ風キノコシチュー(状態異常抵抗微増)とバターロール(体力持続回復微少)の組み合わせだ。

 風で砂を被らないよう、念のために建物の中ほどまで進んでから、石の床の上で胡座を掻く。


 インベントリを操作し、お目当ての料理を取り出そうとして、一郎の意識がピキリと固まった。

 碁盤状に整然と並んだ升目の中に、ピカピカと点滅を繰り返す見慣れぬ物を発見したからだ。


《転移者用プレゼントBox》

《Lv.1達成報酬Box》


「うんえぇ~~」


 これは遊ばれている、もう間違いない。

 確かに運営からのメールには消耗品などの配布があると記載されてはいたが、もう少しやりようがあっただろう。


 ゲーム内でレベルが上がった時に報酬があるのは嬉しいものだ。それが取るに足らない消耗品の類いでも、頑張って次のレベルを目指そうという気にさせてくれる。逆に何も貰えないと“セコい運営だ”という評価につながる。


 しかし、このリアルな世界で実際にやられると、喜びよりも先に、やるせなさが込み上げてくる。地に落とした者の足掻きを高みの見物で愉しむ首謀者の影が見え隠れしてしまうのだ。

 転移者向けに用意された、ということは一郎以外にもこの世界に送り込まれた者がいるに違いない。それが世界がまだ健全だった昔のことなのか、それとも一郎と同じ時間軸なのか。遊び心満載のこの愉快犯は一体何を目的としてこんな真似をしているのか。


「まぁ、貰うんだけどね」


 支給された物に罪はない。道具は使われてこそ価値があるのだ。

 インベントリの枠に余裕があるのを確かめてから、一郎はプレゼントを開封する。


《転移者用プレゼントBox》

 非常食:カロリーなメ○ト、一日2箱×10

 天然水:どこかの湧き水ボトル入り、一日1リットル×10

 サバイバルナイフ:折れ難く錆び難い大事に使えば一生モノ

 スコップ:片手採取用、刺突にも使える

 ピッケル:片手採掘用、殴打にも使える

 見習い製作支援セット:困った時の自家生産用

 ミューズの息吹き:水の中でも苦しくならない秘薬、30分×50

 換金用宝石:カモられても補填はなし


 一郎のようにインベントリに物資を大量に詰め込んだ者ばかりではないはずだから、救済用としては妥当なラインアップだろう。一郎にとっても、刃物系は一切持ち合わせていなかったから随分と助かる品々だ。

 海は泳いで渡ることが前提なのか、と一抹の不安を抱きながら、もう一つのボックスも開けてみた。


《Lv.1達成報酬Box》

 初級体力ポーション:体力を気持ち回復する、×10

 初級魔力ポーション:魔力を気持ち回復する、×20

 成長の秘薬:魔物討伐時魔素吸収効率50%アップ、30分×10

 疾風の秘薬:移動速度が気持ち上昇する、30分×10

 見習いメイジの杖:魔法攻撃増幅5、物理攻撃12、耐久40

 見習いメイジのローブセット:魔法防御10、物理防御紙、耐久20


 ありきたりの、意外性も面白味もない品揃えである。一郎の性格からして、ポーション類は間違いなくインベントリの肥やしと化すだろう。


 ローブセットは唯一のこの世界準拠の服装として、人前に出る時に役に立つ。ただ、現在着用している前ゲームから持ち込んだ初期装備のチュニックの方が破壊不可属性が付与されている分、総合的な防御力は上になる。切れない破けない汚れない劣化しないの仕様がリアル世界ではどれだけ反則級か、容易に想像できた。ゲーム内では防御力お察しの初期装備でも、現実では神具並みの扱いになるだろう。


 見習いメイジの杖をインベントリから取り出してみた。

 外観的には野草のゼンマイを長く引き延ばしたかのような、何の変哲もない木製の杖だ。長さでいうと両手杖に分類されるだろうか。


 新しいモノがあれば早速試したくなるのは人の(さが)である。一郎もその例に漏れず、夕食は後回しに、嬉々として建物の外へと向かうのだ。


 周辺は綺麗に掃除済みだったから、初期装備でも安心して試し撃ちができる。

 密林の端まで、一番近い所で五十メートルくらいは離れていた。そちらに向かって、一郎は杖を両手で構えた。

 スムーズに魔力が通らない。かなりの抵抗を受けた。また上限があるのか、一定量以上の魔力が込められないように感じた。

 とりあえず、撃ってみた。


「ファイアーボール!」


 バスケットボール大の火の玉が、ギリギリ目で追える速度で飛んでいく。

 ボンッという音とともに太い幹に着弾し、一本のファイアーツリーが出来上がった。


「なんか……地味?」


 次いで、アクアボールやエアボールと他属性も試してみる。

 結果として判ったことは、属性杖よりもチャージ、発動までに時間が掛かる、同じ魔力量でも威力が小さい、だった。属性特化品と汎用品の差、と考えればいいのか。性能差が著しいので、この世界の装備品の能力が判明するまでは、人前での属性杖の使用は控えたほうがいいかもしれない。


 ふと思いつき、杖を仕舞って素手で構えを取る。


「ファイアーボール?」


 テニスボール大と見た目はショボかったが、一応魔法は発動した。むしろ、射出までに掛かる時間は杖装備時よりも早かった。飛行するスピードもプロ選手のドライブサーブぐらいはあったので、“いっそのこと、杖なしでもいいんじゃね?”と思ってしまう。


 残念ながら、火以外の属性については、あと一歩という感覚は掴めるものの発動までには至らなかった。一郎の今の肉体は完璧に火属性に特化しているらしい。


「んっ!?」


 視界の端で、黄色のビックリマークが点滅していた。

 開いてみると、新しいスキル獲得を知らせるシステムメッセージだった。

 自動で表示されたスキル枠のパッシブ欄で、初めて見る名称が明滅していた


  魔法攻撃:マスター

  魔法防御:マスター

  魔法詠唱:マスター

  魔力操作:マスター

  魔力回復:マスター

  両手鈍器:マスター


 Eartgald Online 内で培ってきた経験を、類似行動を取ることでこの世界のシステムが勝手に解釈して類似スキルに置き換えたのだろう。


 ほんの少しだけだったが、一郎は自分という存在がこの新しい世界に馴染んでいくのを実感した。


 ちなみに、メイジクラスがLv.1で覚える魔法はファイアーボルト(攻撃)とフローズンボルト(行動遅延デバフ)の2種類だった。




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