騎士団の健康診断と恋の話
ウォルヴァンシア騎士団に健康診断の季節がやってきました。
隊長格のクレイス→カイン→隊長格のアイディアンヌ→クレイスの視点で進みます。
「次の人~! 診察室に入ってくださ~い!!」
騎士団の稽古場を待合室代わりにしていた団員達に呼び出しの声が響いた。
診察室というのは、今日この日限定でその役割を果たしている騎士団長執務室の事だ。
年に一回ある騎士団員達の健康診断が行われている、と言えばいいかな?
「(はぁ……今年は『どっち』に当たるかなぁ……)」
俺は稽古場を出て、騎士団長執務室へと向かい始める。
毎年、この瞬間が一番緊張すると言ってもいいだろう。
俺達団員を診察してくれる王宮医師の人は二人いて、
そのどちらに診て貰えるかは診察室に入るまでわからない。
双子の姉であるセレスフィーナさんに当たればラッキー。
弟のルイヴェルさんに当たれば、一気に気分は急降下だ。
出来るなら、綺麗で美人な女神さまのような女医さんに診て貰いたいのが俺の本音だからね。
――……。
――シャー……。
二つある診察コーナーの内、左側の方へと案内された俺はカーテンを開いた。
さぁ……、女神がほほ笑むのか、それとも……!!
「そんなに真剣な表情で毎年カーテンを開けられてもな」
「のぉおおおおおおおん!! また、ルイヴェルさんかよおおおおお!!」
キィィ……と回転式の丸椅子に座って呆れたように俺に視線を向けたのは、
女神でも美人女医さんでもなく、ルイヴェルさんだった。
あぁ……、今年で五年連続女神と縁がない……。
「ただの健康診断で何をそこまで気を入れる必要があるのかわからんが、
さっさと座れ。他が順番待ちで溜まってるんでな」
「は~い……、ううっ、あがっ」
「口をちゃんと開けろ。診察が行えないだろう」
「ふ、ふみみゃへんっ」
項垂れる俺とは反対に、ルイヴェルさんは涼しげな顔で診察をテキパキと行っていく。
腕は良いから信用はしてるんだけど……、はぁ……女神じゃない。
――シャー……。
「ありがとうございました~……」
また今年も、セレスフィーナさんの診察コーナーに行けなかったなぁ……。
毎年どっちがどっちのカーテンの向こうにいるかわからない仕組みになっていて、
俺以外の団員達も必要以上に緊張しながらここに足を踏み入れている。
「……あれ? アイディアンヌ、そっちだったのか?」
ふと、横を見れば俺と同じ隊長格の一人、炎のように赤く長い髪を纏った女性隊長が、
セレスフィーナさんの診察コーナーから出て来た。
「あぁ、クレイスじゃない。ふっ、何? また今年も女医さんじゃなくてショック受けたわけ?」
「……それは、お前もだろ……。
毎年、ルイヴェルさんの方の診察コーナーに行きたがってるのしっ」
「ちょっと黙んなさいよ!! 聞こえちゃうでしょ!!」
アイディアンヌは俺の口を塞ぐと、ズルズルと引き摺って診察室を駆け足で出て行こうとする。
頬はわかりやすく恋の色に染まっていて、彼女もまた、俺と同じように目当ての医者に当たれなくて
内心落ち込んでいる事がよく伝わってくる反応だった。
そう、アイディアンヌは王宮医師のルイヴェルさんの事が好き……『だった』のだ。
普段は勝気で俺に対しても喧嘩を売ってくるような性格なのに、
ルイヴェルさんの前でだけは違う。借りてきた猫の子状態という奴なんだ。
だけど……アイディアンヌは何年か前にルイヴェルさんに告白をしてフラれている。
そして、俺は最悪な事に、その現場を見てしまった唯一人の目撃者で、
アイディアンヌがどれだけ傷付いて泣いたかも、当然知っている。
出来るなら、そんな彼女の傷には触れない方がいいんだろうけれど、
売り言葉に買い言葉で、ついそれをネタにアイディアンヌの一番痛い部分を刺激してしまう時がある。
――ウォルヴァンシア王宮・稽古場裏手側。
「アンタねぇっ!! あんな所で言うことないでしょうが!!」
「つい、ぽろりと……」
「ぽろりじゃないわよ!!
私はねぇっ、もう表向きはふっ切れた事になってんの!!
もし、まだ好きだなんてバレたら重い女に見られちゃうじゃないのよ!!」
「ちょっ、首締めるなって!! ぎぶっ!! ぎぶぅぅっ!!」
俺の首を容赦なく真っ赤になったまま鬼の形相で締めようとする恋する乙女っ。
ぐぅっ、こいつ、自分がどんだけ力強いのか自覚してないんじゃないか!?
「けほっ……うぅっ……。
あのさぁ、そんなに好きなら、もう一回告れば?」
「一回フラてんのに、そんな事出来るわけないでしょ!!」
「時が経てば、感情も変化するって言うだろ?
健康診断終わったら行って来いよ」
「……無理っ」
トサリと地面に腰を下ろしたアイディアンヌが、壁に背を預けて呟いた。
丁度俺の右側に座った彼女は、膝を抱えて顔を隠した。
「何度告白したって、ルイヴェルさんは私を見ないよ。
あの人ね、いつもどこか遠くを見ているような気がするんだよね。
誰かを待ってるっていうか、入っていけない何かを感じたんだよ」
「弱気になるのは、らしくないんじゃないか?
お前が思い込んでるだけかもしれないし、
もう一回告白すれば、ルイヴェルさんもお前の気持ちをわかってくれるかもしれないだろ」
「だからっ……、無理なんだって。
私じゃ……、あの人の心の中には入っていけないんだものっ」
いつも前向きに強い姿勢を見せているアイディアンヌらしくない言動だ。
まぁ……、恋をしている場合、弱気になる事も仕方ないんだけど、
ここまで無理だと言い張っているとなるとなぁ……。
俺は自然と左手を持ち上げて、彼女の頭を撫でようとした……その時。
「お前ら、こんな所で何やってんだ?」
急に現れて俺達を見下ろしていたのは、意外な人物だった。
イリューヴェルの第三皇子、カイン・イリューヴェル皇子だ。
座り込んで元気がないアイディアンヌと、俺の行き場を失った手を見ている。
「あ、えーっと、な、なんでもないですよ!!
ちょ、ちょっとアイディアンヌが具合が悪くなっちゃって、休ませてたっていうか!!」
俺は立ち上がって、背後に座るアイディアンヌの表情が見えないように隠した。
まさか、恋話してましたとは言えない。
ここはひとつ、どうにか誤魔化してカイン皇子にここから立ち去ってもらわないと!!
「具合悪ぃなら、中に王宮医師がいるだろ?
一緒に連れてってやろうか?」
その親切は、今だけは勘弁してください!!
もし今、ルイヴェルさんの方にでもアイディアンヌを連れて行かれたら、傷口に塩をすり込む行為になってしまう!!
「ってか……、そいつ、泣いてねぇか?」
「え!?」
後ろを振り返ると、さっきの話で心の傷が疼いたのか、
アイディアンヌが肩を震わせて泣いているような声が聞こえた。
ちょっと待て!! なんで今泣くんだよ!!
仮にも隊長格が人前で泣くって、あっちゃならないだろう!!
いや、地雷を踏んだのは俺だけど!!
「か、カイン皇子!! 俺、アイディアンヌを部屋で休ませようと思うので、
つ、連れて行きますね!!」
「いいのか? 一応医者に診せといた方が……」
「だ、大丈夫ですから!!」
俺はアイディアンヌの許可を取らずに、座り込んでいる彼女を抱き上げた。
横抱きにして、その場からダッシュで走り始める。
「ちょっ、クレイス!! アンタ何すんの!!」
「あんな所で泣くお前が悪いんだっての!!
とりあえず、部屋に戻るから、しっかり掴まってろ!!」
泣いたまま驚いて抗議してくるアイディアンヌに、
俺は止まる事も出来ないまま稽古場の外庭を抜けて騎士団寮へと走っていく。
本当に、なんであんな所で他人に弱みを見せるんだか……。
――ウォルヴァンシア騎士団・診察コーナー。
~side カイン~
「やっと休憩か? ルイヴェル」
「あぁ、お前か。とりあえず、午前の人数分が終わったからな。
また一時間後に、診察開始だ」
「じゃあ丁度良かったな。ユキからの差し入れ持ってきてやったぜ」
診察される側が座る方の椅子に腰かけた俺は、ユキからの預かり物を袋から取り出した。
ルイヴェルとセレスフィーナが、今日は診察業務で忙しいことを知ったアイツが、
休憩中に食べられるようにと作った焼き菓子だ。
ついでに、飲み物も二人分預かってきている。
俺は向こうの診察室にいるセレスフィーナを呼んで、それを三人で食べる事になった。
「ふぅ……、年に一回とはいえ、朝だけでも疲れたわねぇ」
「この騎士団、無茶苦茶人数いるもんなぁ……。
サージェスの野郎でも呼んで手伝わせりゃいいんじゃね?」
サージェスというのは、ガデルフォーンにいる、その国の騎士団長の事だ。
本名、サージェスティン・フェイシア。
騎士でもあるが、医者としての腕ももつ爽やかドSの事だ。
「さすがに、それはちょっと……」
「一応、他国の騎士団長殿だからな。
それに、アイツに健康診断などやらせたら、女はともかく、
男共は面倒な目に遭わされるぞ」
「あ~、確かに……」
真面目に診察をやるかどうか、怪しいところだよな。
「と、そういえば……、さっき稽古場の裏の方で、
隊長格のクレイスと、あと……赤い髪の女が一緒にいたんだけどよ」
俺は、裏の方で見た話を二人に聞かせた。
どうやら具合を悪くしたらしい赤髪の女を抱き上げて、クレイスが全速力でその場を去った事。
何故だか、女の方が泣いているように見えた事を伝えた。
「……アイディアンヌか」
「なんだ、お前知ってんのか?」
「当然だろう。この騎士団の奴は毎年俺達が診ているんだ。
しかし……、ふぅ……。あの時聞こえたのは空耳じゃなかったか」
「どういうことだ?」
「カイン皇子、それは、彼女のプライベートな事が絡みますので、
あまり聞かないで頂けると有難いです」
セレスフィーナが悲しそうに表情を曇らせて、詮索を拒否した。
ルイヴェルが聞いた空耳というのは良く分からないが、
なんかモヤモヤとしたもんが心に残る言い方だ。
「カイン、お前だって詮索されるのは嫌だろう?」
「まぁな。心の中に土足で踏み込まれるのは、俺も気に入らねぇよ」
「ならば、さっきの二人の事に関しては見なかった事にしておけ。
それに、クレイスがアイディアンヌの傍にいるのなら、心配はないだろう」
「確かに、すげー気遣ってるっつーか、
アイディアンヌって奴に情があるようだったな」
アイディアンヌを抱き上げ、急いで俺の前から逃げ去ったクレイス。
あれは、俺に深く関わらせないようにという意図があったんだろう。
「クレイスは、アイディアンヌの事が好きだからな」
「ルイヴェル、勝手にバラしちゃ駄目じゃない。
一応本人は周りにバレてないと思っているのに」
「周知の事実だろう。構わないさ。
クレイスはアイディアンヌに喧嘩を売られても、
最後には負けてやっているようだしな。惚れた弱みというやつだろう」
クレイスって奴は、隊長格としての能力は確かだが、
他の団員達にいじられては涙目になっている事が多い奴だ。
所謂、ヘタレの部類に入るというか、まぁ、そんな感じの男なんだが、
なるほどな、ヘタレなフリしてたってわけか。
「ただし、他の団員からのいじりに関しては、
本気で負けているぞ、あれは」
違うのかよっ。てっきり全員に対して負けていじられてるフリをしてんのかと思ったじゃねぇか!!
やっぱりアイツ、ヘタレかよっ。
「アイディアンヌは強気に見えて、脆い部分もあるものね。
それをちゃんとわかっているのが、クレイスというか」
「気遣ってばかりで、好きだと言えないようだがな」
「なんか、焦れったい二人だな」
「ふふ、ゆっくりでいいんですよ。
いつか、アイディアンヌも、クレイスの気持ちに気付く時がきます。
それまでは、私達は静かに見守っていましょうね」
ユキからの差し入れのお茶を飲みながら、セレスフィーナは笑みを浮かべた。
俺自身は焦れったいのは好きじゃねーんだが、まぁ、本人同士の問題だしな。
かくいう俺も、ユキと両想いの道まで、まだまだ長い道のりを感じている。
そういう意味では、クレイスは同士と言えるだろう。
焼き菓子を頬張り、俺は騎士団寮へと駆けて行った二人の姿を思い浮かべた。
―― side アイディアンヌ
「もう!! 下ろしてよ!!」
騎士団の稽古場裏で、急にクレイスに抱き上げられたと思ったら、
凄いスピードで騎士団寮の私の部屋まで駆けこまれてしまった。
……私が、自分の中の気持ちを抑えられずに泣き出したのが原因だ。
確かに、あそこで泣くのは隊長格としてどうかとは思う。
だけど、隣にいたのがクレイスだったから、事情も知っている奴だったから……。
つい、気が緩んでしまったのだ。
「よりによって、カイン皇子の前で泣くなよなぁ」
「うっ……、し、仕方ないじゃないっ」
「はぁ……もうさ、やっぱり泣くほど好きならルイヴェルさんに告ってこいよ。
んで、フラれるか両想いに成功するかで、すっぱり気持ちにケジメ着けてきたらどうだ?」
「だからっ、出来ないって言ってるでしょうが!!」
と、大声で叫んだ瞬間、私はクレイスの腕の中から寝台へと放り出された。
こいつ、今容赦なく乱暴に投げ捨てたわね!!
「隊長の地位にある奴が、出来ないとか言うなよ。
好きでたまんないんだろ? 泣くぐらい好きなんだろ?
放っておいたら、どんどんその気持ちでかくなるんじゃないのか?」
確かに、ルイヴェルさんの事はまだ好きよ……。
だけど、最近は数年前に感じていた感情とは違い、ただ切なさが残るものに変わっていた。
どんなに好きでも、あの人は私を見てくれはくれない。
そんな虚しさと切なさの方が大きくて……。
好きだけど、もう諦めなきゃな……という矢先に、クレイスの馬鹿が傷口をつついてくれたのだ。
「どうせ、もう諦めようと思ってたところだったし、告白なんて……必要ないのよ」
「それでお前の心は納得するのかよ?」
「うるさいわね……っ。私の事なんだから放っておきなさいよっ」
「お前が心の整理をつけてくれないと、……俺が困るんだよ」
「は?」
な、なんで急に……、そんな真剣な表情で私を見下ろしてくるのよっ……。
私の隣に腰かけたクレイスは、頭をがしがしと掻いて罰が悪そうに呟く。
「新しい恋に踏み出してもらわなきゃ、困るって……話だよ」
「……新しい、恋?」
「お前の中にルイヴェルさんへの想いがあるうちは、
次の恋に進めないって事だよ」
「次の恋なんて……、いらないわよ。
ルイヴェルさんの事を諦めたら、隊長職を極めるんだからっ」
そうよ、私はウォルヴァンシアの騎士団隊長格の一人なんだから。
剣の道を極め、騎士団に貢献する人生を真剣に歩んでいくの。
そうすれば、胸に抱えたこの想いも、いつかは穏やかに消えていくはずだわ。
だから、次の恋なんて……。
「だから……、困るって言ってんのに……」
「何がよ? 私が次の恋をするかどうかなんて、アンタには関係ないじゃないっ。
あ、もしかして……、賭けでもしてんじゃないでしょうね!?」
「お前がルイヴェルさんの事を好きなのを知ってるのは、極一部の奴だけだっての。
賭けなんかして、仲間を傷付けるような事するかよ」
「じゃあ、なんで困るのよっ。説明してくれなきゃわかんないじゃないっ」
私がそう怒って聞くと、クレイスは横にプイッと向き、ボソボソと独り言を言い出した。
小さく呟いている内容が、私への悪口だと思うのは気のせいかしら?
言いたい事があるなら、正面から堂々と言ってほしいものだけど、
クレイスは全くこっちを見ようとせずに呟きを続けている。
「アンタねぇ、私に喧嘩売ってるわけ!?
言いたい事があるなら、こっち向いて言いなさいよ!!」
クレイスの肩を掴みこっちを向かせようとすると、
驚いて振り向いたアイツの顔が見えて、私は目を丸くして動きを止めてしまった。
「な……なんで、そんな……真っ赤……なのよ?」
「ば、馬鹿っ、こっち見るなっ!!」
見るなって言われても……、見えちゃってるし……。
クレイスの顔は、今まで見た事もないぐらうに真っ赤に熟れた果物のようで、
少し、情けない表情になっている。
「な、なんて顔してんのよっ」
「う、うるさいっ。……もう帰る」
「はぁ? アンタやっぱり喧嘩売ってるわよね!?」
「~~っ、お前って本当……」
「何よ!! きゃっ!!」
呆れ果てた眼差しと共に、クレイスは頬を染めたまま、
私の頬をむぎゅっと両手の指先で抓んで左右に引っ張ってきた。
ちょっ、何してんの、こいつ!!
「自分の恋心だけじゃなくて、他人の気持ちにも気付け、馬鹿!!」
「はああっ!?」
思いきり引っ張られたと思ったら、今度は怒った顔で勝手に寝台から飛びのいて去って行く。
い、一体何なの……、アイツはっ。
勝手に怒鳴りつけて、言いたい事だけ言って部屋を出て行ってしまった……。
「本当に……、何なの?」
―― side クレイス
本当に……、なんであんなに鈍感なんだろうな、アイツは。
ルイヴェルさんばっかり見て、周りの男にはまるで気をやろうとしない。
俺としては、すっぱり今の恋は終わらせてもらって、こっちのターンに回してほしいものなんだが。
生憎と、アイディアンヌは本人無自覚の鈍感気質だ。
その上、俺とは喧嘩友達的な間柄でもあるため、さらに気付いてもらえないこの切なさ。
「やっぱ言わないと無理だよな~……」
「だろうな」
「……え?」
稽古場の手前辺りまで来た時、ふいに俺の発言に答えるかのように声がした。
眼鏡の奥の深緑の双眸が、俺を面白そうに見ている。
「る、ルイヴェルさんっ、け、健康診断はっ」
「今は休憩中だ。そろそろ戻る時間ではあるがな」
「そ、そうなんですか……。えっと、お疲れ様、です」
「……で?」
「は?」
「アイディアンヌを連れてどこかに消えたと聞いたが、
少しは進展したのか?」
なっ、ななななな、何をいきなり言い出すんだこの人は!!
今、俺がアイディアンヌを連れて消えた事を聞いたって言ったよな?
カイン皇子か!! あの人がバラしたのか!!
俺は平常心を忘れて、また顔に熱がのぼるのを感じていた。
「し、進展って、何の事ですかね~っ。
俺はただ、具合の悪いアイツを部屋まで送って行っただけで」
「……アイディアンヌは、言わなければ気付かないタイプだぞ。
いつまでも相手に任せていないで、少しは自分で動くんだな」
なんだろうな、この人は……っ。
アイディアンヌに好かれているくせに、お見通しだという口振りで俺をけしかけようとする。
決してアイディアンヌを疎ましく思っているわけじゃないのはわかるけれど、
恋敵的な意味では、あまり嬉しくはない。
まぁ、ルイヴェルさんに張り合えるかって言ったら、……無理だけど。
「余計なお世話です! 俺は俺のやり方で……振り向かせますから」
「ふっ、そうか」
今はまだ無理かもしれない。
だけど、俺だって……入団した頃からアイディアンヌの傍にいるんだ。
たとえまだ、この気持ちを知ってもらえなくても……、
俺はずっとアイツの傍に居続ける。
「それより、ルイヴェルさんの方こそ、大丈夫なんですか?
最近、……ユキ姫様に避けられてますよね?」
「……」
こっちばかりがいじられてたまるか!
そんなノリで投げかけた言葉だったんだが……、ヤバイ。ルイヴェルさんが思いきり無言になった!!
白衣を翻して俺に背を向けると、一度だけこちらを振り返る。
「クレイス……、後でお前には、特別な健康診断の追加分を与えてやろう」
「――!!!!!!」
いや、ちょっと待って!!
俺はただね!? 最近、ルイヴェルさんの姿を目にしたユキ姫様が猛ダッシュで逃げるのを見かけたから、
あ~、もしかして喧嘩中か何かかな~とか!! ただね? そう思ってネタでけしかけただけであって!!
決してそんな、絶対零度の魔王の視線を頂きたかったわけじゃああああ!!
「(もしかして、本気でユキ姫様に避けられてるのかっ)」
そりゃあなぁ、愛情表現で人をからかったりいじるのって、さじ加減が難しいよな~。
きっとやりすぎたんだ、ルイヴェルさん、ユキ姫様に避けられるぐらいにやりすぎたんだっ。
そんで、俺はそんなヤバイ地雷に、その場のイラつきとノリで踏み込んじゃったわけだ!!
――その日、夕方の診察コーナーに、
俺の断末魔の叫びが響き渡ったのは言うまでもない(涙)
だからあれほど口には気を付けろと……クレイスよ(遠い目)
幸希が差し入れをカインに頼んだのは、
ルイヴェルにいじり倒されて、拗ねているからです。
でも、健康診断で忙しい二人の事を思って差し入れをした模様。