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ウォルヴァンシアの王兄姫~番外編集~  作者: 古都助
~番外編~
1/85

帰ってくる君へ~レイフィード視点~

番外編1・ウォルヴァンシア国王レイフィードの独白です。

幸希がエリュセードに帰還する少し前の事です。


2016・02・11

改稿リメイク完了。

 ――僕には、とっても大切で可愛い可愛い姪御ちゃんがいる。

 王位を放棄した実兄の子供で、それはもう言葉では表現しきれない程に愛すべき女の子だ。

 叔父である僕の事を、『レイちゃん、レイちゃん!!』と、慕ってくれていて、笑った顔がすっごく可愛くて堪らない。

 僕にも四人の息子がいるけれど、女の子はまた別格で可愛い。

 そんな可愛らしい姪御の名前は、ユキちゃん。異世界においての綴りは、『幸希』。

 幸せと希望に恵まれた人になるようにと、ユキちゃんの両親が考えに考えて贈った祝福なまえだ。

 そんなユキちゃんは、お父さんである僕の兄上の故郷であるこのエリュセードという世界では暮らしておらず、普段は異世界の『地球』という星の中で暮らしている。

 本当はこっちで一緒に毎日を過ごしたいんだけどね……、兄上とその妻である女性が決めた事だから、僕には何も言えないんだ。

 だから、向こうの世界でのお休みの日を利用してこちらにも顔を見せてくれるんだけど……、まぁ、週末の場合がほとんどだね。

 それでも、全然会えないよりはまだマシだった。

 敬愛しているユーディス兄上と、その家族は僕にとってかけがえのない大切な人達だから。



 けれど……、ユキちゃんが七歳になる年のある日。

 ユーディス兄上は、悩みに悩んだ末に……、僕達が絶対にやめてほしいと願っていた事を、決めてしまったんだ。

 

『幸希の将来を考えて、あの子だけはこの世界と切り離して育てた方がいい』


 それを言えば、僕達がどんな思いをするのかなんて……、わかっていて、兄上はそう決めた。

 二つの世界の住人が交わって生まれた子供を彷徨わせたままではいけない。

 いずれは、どちらかの世界に軸をおいて育んでいかなければ、と。

 だから、兄上はそのどちらかを、……向こうの世界に決めてしまった。

 あちら側の人は、魔力も特別な力も持たない、ただの人ばかり。

 それに合わせて、兄上はユキちゃんも同じように生きられるようにと、生まれ持った魔力を封じると、何の迷いもない目で言い切った。

 しかも……、ユキちゃんと離れ離れになり、二度と会えなくなる僕達に追い打ちをかけるように、兄上はもうひとつの決断を突き付けてきた。


『エリュセードでの記憶は、ユキを向こうの世界での普通から遠ざけてしまう』


 ――だから、生まれてから今に至るまでの記憶までも、封じる、と。

 ユーディス兄上の事は変わらず敬愛しているけれど、やはりその当時は……。

 僕だけでなく、ユキちゃんを可愛がっていた王宮の面々は悲しみに表情を曇らせ、涙を堪えていた。

 たかが子供一人……、そう思われたとしても、僕達にとってはそのたった一人との別れが、耐え難いものだったんだ。

 けれど、兄上の考えは理解出来たし、その方がユキちゃんにとっても正しい事だと、そうわかっていたから……。

 ――僕達は、愛しき幼子の手を離した。

 あの子が幸せになれってくれるように、ただ、それだけを強く願いながら。

 そして、……悲しみに暮れた日々は徐々に小さな傷となり、僕達は幼子のいない日常に戻っていった。

 誰もが、ユキちゃんの事をあえて口にせず、最初から存在しなかったかのように日々を過ごしていく。……あくまで、表面上は。

 


 けれど、それから時が過ぎ……、愛しき面影はもう一度僕達の許へと戻ってきた。

 向こうの世界で生きる事を定めたはずの姪御。

 あの子が……、別世界での成人の儀を終えた、そのすぐ後の事。

 それまで元気に過ごせていたユキちゃんは、徐々に体調を崩し始めた。

 症状は日毎に酷くなり、ついには日常生活にまで支障を伴うようになったユキちゃんは、向こうの世界のどの医者にかかっても、原因不明だと診断され……。

 その症状と共にユーディス兄上から連絡を受けた僕は、ウォルヴァンシア王国が誇る医術と魔術の名門、フェリデロード家を頼る事にした。

 当主は仕事で不在だった為、その後を継ぐ次代の息子の力を借り、導き出された結論は。

 

(二つの世界から生まれた子供の行く末を決めるのは、本人や周囲ではなく、やはり……)


 そのどちらかの世界そのものの意思だったのかもしれない。

 僕の可愛い姪御は、……向こうの世界で生きて行くには不適合だと診断を下されたのだ。

 向こうの世界で叶えたい夢や、離れがたい友人達もいた事だろう。

 けれど、その診断結果は……、ユキちゃんからまた、多くのものを奪ってしまった。

 愛しいあの子から、何ひとつ奪いたくなどない。自分達が耐え続ければ済む話だと……。

 そう思っていたのに、――運命は酷く残酷なものだった。

 もう一度あの子に会えるという感動よりも、先にこの心を曇らせたのは……。

 叔父としての僕の胸の内は、とても複雑なものだった。

 だから、僕は決めたんだ。ユキちゃんの失った幸せに負けないぐらいの幸せを、この地で与えていこう、と……。

 それはきっと、僕だけの決意ではなく、彼女の帰りを待つ多くの者が胸に抱いた想い。

 

『だから……、もう一度、このウォルヴァンシアの地に戻っておいで』


 今度こそ絶対に、もう二度と、あの子から何かを奪ったりはしない……。

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