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54-3. 日帰りバーベキュー親睦会 (END)

 玲央は茶髪に日焼けをしており、両耳にたくさんピアスをした、濃い顔の青年だ。いわゆる見た目はチャラ男なのだが、沙織より少しばかり年上であることもあって、落ち着いた雰囲気を醸し出している。仕事の姿勢も真面目で、いつも明るい場を作ってくれる、鷹緒にとっても信頼出来るモデルの一人だ。

「玲央か。楽しんでる?」

 会社の人間としてそう尋ねるが、玲央は真剣な顔をして鷹緒を見つめていた。

「はい……すみませんでした。みんなの前で沙織に告白して……」

 そう言われて、鷹緒は苦笑する。

「べつに俺に謝られても……」

「でもなんとなく……諸星さんには言っとかないとと思って。沙織、諸星さんのこと好きみたいだし」

「……知ってて告白したなら、おまえも結構、罪深くない?」

 笑いながら言った鷹緒を見て、玲央は切なげな表情を浮かべた。

「付き合ってるんですか? あんまり諸星さんが、モデルに手を出すとか想像もつかないんですけど……」

 グイグイ来られて、鷹緒もまた引く気にはなれずに玲央を見つめている。

「そう見えるの?」

「……俺は沙織のこと気になってるから、沙織がどんな男としゃべってても、変に勘ぐっちゃうかな」

 玲央の言葉に、鷹緒は静かに笑った。

「俺とあいつは親戚同士だよ。だからモデルの中でも特別扱いしたくなるし、事実、親元離れてるから構うし、それが付き合ってるとかそうでないとか、そんな無粋な関係として言われても困る」

 しっかりと予防線を張る鷹緒を見て、玲央はバツが悪そうに俯く。

「でも、沙織は諸星さんのことが……」

「沙織が俺を慕ってくれるのは、あいつが赤ん坊の頃からだからな。今更そんなこと気にしてないよ」

「俺が気にします。諸星さんにその気がないなら、沙織のこともらってもいいですよね?」

 一瞬、重い空気が流れた。鷹緒は静かに俯くと、玲央を真っ直ぐに見つめ直す。

「許さない……って言ったら、どうする?」

 予想外の言葉だったのか、玲央は目を丸くした。

「え……」

 そんな玲央を前に、鷹緒は静かに立ち上がって微笑む。

「出来るもんならやってみろ。好きにしろよ……俺に言うことじゃないだろ。俺が沙織の保護者だったとしても、そんなの当人同士でやってくれ」

 鷹緒が醸し出す緊張と緩和の中で、玲央はふっと力を抜いた。

「そ、そうですよね。諸星さんに許可取ることじゃなかった……」

「でも、あいつのこと傷付けたら、絶対に許さないからな」

 射貫くように真剣な目で貫かれて、玲央は目を泳がせる。

「は……い」

「無理に迫ったり、執拗に追いかけたり、あいつのこと困らせるようなことしたら、どんな手を使ってでも、おまえをこの事務所から……この業界から追い出す」

 息を呑んだ玲央に、またも鷹緒の笑顔が緊張を切らせる。

「……なんて言ってみたりして」

 冗談交じりだが、鷹緒の本音が聞けたように、玲央の身が引き締まった。

「なんだ……親戚としてでも、沙織のこと大事にしてるんですね。肝に銘じておきます」

「ああ……まあとにかく大事にしてやって。モデル仲間だろ」

「ええ……」

 岩場に立つ二人を、未だ一緒にいた沙織と広樹が見つめていた。

 やがて鷹緒が振り向くと、複雑な表情を浮かべている沙織に微笑む。

「沙織。玲央とみんなで泳いでこいよ」

 後押しされたように、玲央は岩場から下りると、沙織に駆け寄っていく。

「一緒に行こう、沙織」

「……うん」

「やだな。告白したからって、そんなに警戒しないでくれる? 今、沙織の恐い親戚に釘刺されたところだし」

「え?」

 驚く沙織に、玲央は笑顔を見せた。

「ほら行こう。みんなも待ってるよ」

「うん……」

 沙織は鷹緒を気にしつつも、玲央と一緒にモデル仲間たちが騒いでいるほうへと向かっていった。

 広樹は一人になった鷹緒に近付きながら、釣り竿を垂らす。

「恋愛ごっこはおまえだろ、鷹緒……僕のこと、とやかく言う筋合いないくらい幼稚じゃん」

 そう言われて、鷹緒は苦笑しながら岩場に寝そべった。

「ガキの頃だって、こんな恋愛してなかったよ……」

「こんなって?」

「自分がどう見られてるのか、彼女がどう考えてるのか……相手の言葉に一喜一憂。ライバルが出てきてどうのとか……」

「ハハ。おまえにも感情があったんだな。いつも受け身ばっかだと思ってたけど」

「まあ、これだけ過去で失敗してると、そりゃあ慎重にもなるし、自分さらけ出してみたり隠してみたり……恋愛って大変だな」

 しみじみと言う鷹緒を横目に、広樹もまた虚ろに視線を落とす。

「おまえがしばらく恋愛してこなかったのわかるよ。苦しいだけの時もあるしね」

「……苦しいのか?」

 尋ねる鷹緒に、広樹は竿を引き上げる。

「切った髪の重さ分、たまに古傷が痛むくらいかな。僕はおまえと違って、恋愛は嫌いじゃないしね。そろそろ本当に、前へ進まないと」

 釣った魚をクーラーボックスに突っ込み、広樹はもう一度竿を垂らした。

「恋は盲目になれればいいんだけどな」

「へ?」

「現実に戻ると、どうしても引いちゃうよ」

 いつになく素直に見える鷹緒は、静かに立ち上がって遠くを見つめる。そこでは沙織を交えて、モデルたちが川遊びを楽しんでいるようだ。

「鷹緒……」

「恵美と遊んでくる。言い過ぎたって言わなくちゃ」

 去っていく鷹緒に、広樹は水面を見つめる。

「まったく不器用なやつ……いや、僕も大概同じか」


 やがて数人の社員が広樹の釣りに合流し、鷹緒はテントで後輩から仕事の相談を受けていた。モデルたちは相変わらず川遊びをする中で、日がだいぶ落ちてくる。

「帰りたくないなあ」

 ふと呟いた俊二に、一同は頷く。

「同感。月一でいいから、また来たいなあ。最近、飲み会だってしないじゃないですか」

 今度は牧がそう言ったので、鷹緒は椅子に座りながら空を見上げる。

「そんなしょっちゅう来てたら、あんまり意味ないだろ。たまに来るから楽しいんじゃん。いくら社員同士仲良くても、馴れ合うのは好きじゃないな」

 鷹緒の言葉に、万里が頷いた。

「私はたまにでも十分です。でもまたやりたい。すごく楽しかった」

「万里ちゃん、良い子」

 そんな万里の頭を撫でたのは、理恵である。

「副社長」

「やっぱり息抜きって大事ね。結束強まった気がするし、子供には日頃何もしてあげられないから、いい機会だし……」

 理恵の言葉でしんみりした一同を見て、鷹緒は微笑んだ。

「まあ頻繁じゃないにしても、また何かやろう。また企画案出せよ、万里」

 そう言われて、万里は嬉しそうに頷く。

「はい、頑張ります!」

 和やかな雰囲気になったところで、誰からともなく片付けが始まった。

「いい? チューインガム一つ忘れるだけで許さないからね?」

 広樹の言葉に、全員でゴミ拾いとなる。

「沙織……」

 その時、沙織に声をかけたのは綾也香であった。

「綾也香ちゃん」

「なんか最近ごめんね……」

 そんな綾也香に、沙織は瞬きをして首を傾げる。

「え?」

「私、沙織の事避けてたんだ。嫉妬しちゃって……」

 正直に言った綾也香だが、沙織は驚いた顔をしているだけだ。

「……私、何かした?」

 やがて言った沙織に、綾也香はバツが悪そうに首を振る。

「したのは私……鷹緒さんが入院した時、社長が沙織の事連れ出したでしょ? それがなんだか悲しくて……沙織のこと避けてたの」

 それを聞いて、沙織は綾也香に苦笑した。

「そうだったんだ……避けられてるのかなとは思ってたんだけど、私はまだ綾也香ちゃんと話せるくらいのモデルでもないし、私も調子悪い時とか人とあんまり話したくない時もあるから、そういう時期なのかと思ってた。私のほうこそごめんね。あんまりフォロー出来なくて……」

 沙織の言葉に拍子抜けしたように、綾也香はほっとして沙織を抱きしめる。

「もう、本当いい子だなあ、沙織。玲央に告られて、モテ期も到来だしね」

「そ、そんなことないよ……」

「でもよかった。鷹緒さんの言う通り」

 突然鷹緒の名前が出て、沙織は綾也香を見つめた。

「え?」

「沙織は度量が大きいから、直球で謝れば受け止めてくれるって」

 そう言われて、沙織は嬉しいよりも恥ずかしいが大きく感じる。

「どうせ私は単純ですよ……」

「アハハ。そうじゃないよ。信頼してるってことじゃん」

「……うん」

「じゃあ私、電車組だからもう行くわ」

 綾也香の言葉に、沙織は俯いた。自分は帰りも広樹と同じ車で帰ることが申し訳なく思える。しかし先ほど鷹緒に怒られたばかりなので、綾也香に席を譲ることも出来なかった。

「……綾也香ちゃん。私、ヒロさんのこと何とも思ってないから……」

 そう言うのが精一杯の沙織に、綾也香は微笑む。

「うん。私も沙織のこと信用してるし……社長のことは、もういいの」

「え?」

「そろそろ前に進まなきゃ。じゃあね」

「うん、また……」

 去っていく綾也香を見送って、沙織は自分の荷物を背負いながら車へと戻っていく。

 鷹緒は彰良の車に荷物を詰め込んでいた。

「彰良さん。これも持って行ってもらっていい?」

「勝手に乗せろ。バカヤロー」

「ハハハ。こんなデカいワンボックスに乗ってるのが悪いんですよ」

「おまえがスポーツカーなんて乗ってるからいけないんだろ。人しか乗れやしねえ」

「十分でしょ。二人乗りじゃあるまいし……じゃあ、荷物その他よろしくお願いします」

「はいよ」

 大きな車に乗っている彰良のところに一通りの荷物を詰め込むと、鷹緒はそばにいた恵美の頭を撫でる。

「恵美。今日は楽しかったか?」

 そんな問いかけに、恵美は満面の笑みを浮かべた。

「うん! またバーベキューやるかな?」

「そうだな。忘れた頃にな」

「忘れた頃か……じゃあまだ先だね」

「またやるよ。それまでいい子にな」

「はーい」

 鷹緒は恵美を車に乗せると、走り出す彰良の車を見送った。またしばらくは会う機会もない恵美だが、楽しそうでよかったと思う。

 自分の車に向かうと、広樹がトランクにゴミを押し込んでいた。

「入る?」

「入らなきゃ困るよ。彰良さん帰っちゃったんだろ」

「おまえがギターなんか持ってくるからだろ。ギター抱えりゃ入るよ」

「盛り上がったからいいだろ」

「シーンカットされてたけどな……」 (※事実です(苦笑)。 by作者)

「もういい。無理矢理入れる」

 荷物と格闘する広樹を尻目に、鷹緒は煙草に火を点ける。遠目に最終的な後片付けをしている沙織と麻衣子、万里の姿が見えた。最終チェックはこのメンバーらしい。

「よし、なんとか入った……」

 広樹の言葉を聞いて、鷹緒は車の灰皿に煙草をねじ込むと、大きく息を吸った。

「そろそろ帰るぞ!」

 そんな鷹緒の声が届いて、万里たちは戻ってくる。

「ゴミや忘れ物などのチェック、オーケーです」

「じゃあ乗って。帰るぞ」

「あ、鷹緒さん。私運転しますよ」

 万里がそう言ったが、鷹緒は首を振った。

「べつにいいよ。大して疲れてないし。早く乗れ」

 鷹緒の言葉を受けて、女性陣は行きと同じく後部座席に乗り込む。そして広樹を助手席に乗せて、鷹緒は車を走らせた。


「やあ、楽しかったね。バーベキューも美味しかったし」

「またやりましょうね、社長!」

 広樹の言葉に、万里が言った。

「うん。あれだけみんな喜んでくれたら、やる価値はあるよね。それにモデルちゃんたちも呼べたし、それは大きな成果かなあ」

「みんなはしゃいでたねえ。こんなに泳いだの久しぶりだし。沙織、ちょっと焼けたんじゃない?」

「嘘? 日焼け止め塗ったのになあ……あ、万里さんも、鼻の頭剥けちゃってる」

「やだ、どうしよう……」

 麻衣子と沙織も、まだ元気そうに話している。女性陣が盛り上がる中で、広樹は運転している鷹緒の横顔を見つめた。

「運転大丈夫? 変わろうか?」

「いいよ。行きはおまえが運転してくれたんだし……それより、みんなを駅で降ろしたら、俺は地下スタ寄りたいから、おまえそこから車で帰ってくれる?」

 鷹緒の言葉に、広樹は口を曲げた。

「おまえ、これから仕事するつもり?」

「俊二もやるって言ってたよ。俺もあいつも今、写真集抱えてるから……俺はともかく、あいつ大丈夫かな……」

「他人のことより自分のこと心配しろよ」

「放っておくと、最後にしわ寄せ来るのこっちだからな」

 苦笑する鷹緒に、広樹は遠くを見つめる。

「僕も手伝おうか?」

「いいよ。それより車の中とか家の物置とか、ちゃんと片付けておけよ」

「それはやるけど……」

 その時、バックミラー越しに、鷹緒と沙織の目が合った。鷹緒がこの後も仕事と知ってか、心配そうな目で見つめている。

 そんな沙織に、鷹緒は優しく微笑んだ。

「さて、さっさと帰って仕事するか」

「諸星さん、仕事の話するの早い」

 鷹緒の言葉に突っ込んだ麻衣子に、一同が笑う。

「ハハ。でも楽しかったから、今日は仕事捗りそう」

「うちらもリフレッシュ出来たよね。明日から仕事頑張れる」

「そりゃあよかった」

 帰りの車も終始和やかのまま、一同は都内へと戻っていった。

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