表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/173

49. さらに妖しい三人?!

 ある夜、鷹緒が帰ると、すでに広樹が帰宅していた。リビングにあるパソコンに向かいながら、仕事でもしているようである。

「おかえり。お風呂あるよ。ごはんもあるけど先に食べる?」

 まるで妻のような広樹の言葉に苦笑し、鷹緒はバッグをソファに置く。

「先に風呂入る。汗びっしょり」

「ああ、洗濯もしておいたよ。おまえ、最終的には全部クローゼットに入れるから、畳まなくていいんだよな?」

「うん……」

 そう言いながら、笑いを堪えきれないように、鷹緒は目を細める。そんな鷹緒を見て、広樹はきょとんとして首を傾げた。

「え、なに?」

「いや……一家に一台、ヒロがいてもいいかな」

「僕はロボットじゃないんですけど」

「ハハ。洗濯物多い時期だし助かるよ。しかしおまえ、兄弟多いからって面倒見良すぎだろ」

「しょうがないだろ。一応、居候の身なんだし、これくらいはね……」

「まあ助かるよ」

 そう言って、鷹緒は風呂場へと消えていく。

 再び広樹はパソコン画面に向かうと、部屋の固定電話が鳴った。しかしすぐにファックスへと切り替わり、仕事の資料が届いているのが見える。

「これは休めないわな……」

 帰ってからも休む暇がない鷹緒の日常を知り、広樹は苦笑した。

 その時、もう一度部屋の固定電話が鳴った。今度は電話のようである。


 一方、風呂場では鷹緒が風呂に浸かりながら、一日の汗を洗い流していた。すると電話が鳴り、鷹緒は風呂場に備え付けられた通話ボタンを押す。

「はい、諸星です」

『五城だけど』

 このところよく電話をかけてくるようになった同級生の五城は、鷹緒にとっては今でも楽しい飲み仲間となっている。

「おう。おつかれ」

『今日も飲まないか? 昨日まで出張行ってて、おまえに土産があるんだけど』

「飲むのは良いけど、今風呂入っててさ……今日はもう外に出たくないって感じなんだけど」

『じゃあ、おまえんち行っていい?』

 そう言われて、鷹緒は考えた。

「うーん。俺はいいけど、今うち居候がいるからなあ……」

『居候? 彼女か?』

「いや、男。おまえも知ってたか、木村広樹」

 高校時代から腐れ縁の広樹は、当時から鷹緒と仲の良かった五城とも面識があるはずだ。

『ああ……おまえのバイト先で一緒だったっていう……』

「今は会社の社長だよ。社会人になってからも何度か会ったろ。訳あって今一緒にいるんだけど、よければ来いよ。あいつもいいって言うだろうし」

『うーん。そうだな……』

 突然、渋った様子の五城に、鷹緒はバスタブから抜け出して立ち上がる。

「ああ、気が乗らないなら、また別の機会に……」

『いや、生モノだから今日がいいな。やっぱり行くだけ行くよ』

「そうか。じゃあついでに酒買って来て」

 そう言って電話を切ると、身体を拭いて鷹緒はリビングへと出ていった。


 鷹緒がリビングに戻ると、広樹は仕事を終えたらしく、ソファに座ってテレビを見ている。

「おかえり。電話そっちで取った? ファックスも来てるよ」

「ああ。今から五城が来るんだけど、ここでちょっと飲んでいいかな?」

 そんな鷹緒の言葉に、広樹は天井を見上げる。

「五城って名前、聞いたことあるな……」

「中高時代の俺の同級生」

「ああ。あの切れ長な目の、おまえといつも一緒にいた……」

 広樹は思い出したようにした途端、顔を曇らせた。

「そう、そいつ。何度か会ったことあったよな?」

「うん。でも飲むのはいいけど、お邪魔だろうから僕は席外そうかな……」

 誰とでも仲良く飲める広樹らしからぬ言葉に、さっきの五城の態度も気になって、鷹緒は首を傾げる。

「あいつと何かあったのか?」

「何もないと思うけど……僕、彼に嫌われてる気がする」

「なんで? なんかやらかしたの?」

「それがわかんないんだよねえ。でも敵対心は抱かれていると、高校当時は感じてた」

 そんな広樹を見て、鷹緒も天井を見上げて思い当たる節を考える。

「うーん。単純なやつではないけど……思い過ごしじゃねえの?」

「まあ、彼がいいなら僕はもちろんいいけども」

「おまえがいるのわかってて来るんだから大丈夫だろ。気兼ねすんなよ。らしくない」

「あはは。まあね」

 やがて五城がやってきて、広樹は頭を下げた。

「こんばんは。お久しぶりです、木村です」

「こんばんは……五城です」

 他人行儀の二人に、鷹緒は座るように勧める。

「まあ座れよ」

「お邪魔します。これ、土産物の洋菓子。おまえ、甘い物好きだったろ。あと適当に酒買ってきた……木村さんも一緒に飲みましょう」

 五城の言葉に頷いて、広樹はキッチンへと向かっていく。

「ありがとうございます。じゃあ僕、軽くつまみでも作りますよ」

 そんな広樹を横目で見送り、鷹緒はテーブルにグラスを並べる。ソファに座った五城は、部屋をキョロキョロと見回していた。

「そんな見んなよ。面白い物なんてないだろ」

 苦笑する鷹緒に、五城も笑う。

「久々に来たからな……でも、あんまり変わってないか?」

「べつに模様替えする暇も、不便もしてないからな。それよりおまえ、この間飲んだ時の記憶ある? 俺、久々だよ。二日酔いになるの」

「アハハ。俺も次の日最悪で、午前休しちゃったよ」

「俺も。おかげでヒロにも怒られるしさ……」

 そこに、広樹が何品かのつまみを持ってやってきた。

「すげえ」

「鷹緒……おまえのすごいは聞き飽きた。五城君、遠慮なくどうぞ」

 明るく笑いながら勧める広樹に、五城はぺこりと会釈する。それを見て、鷹緒は口を曲げた。

「確かによそよそしいな……おまえ、人見知りするほうだっけ?」

 苦笑しながら突っ込む鷹緒に、五城は驚いたように目を見開いた。

「え? いや、そんなことは……」

「大丈夫だよ。こいつ、いいやつだから」

 親指で広樹を指差す鷹緒に、五城は大きく頷く。

「わかってるよ。いい人だっていうのは」

「うん。じゃあまあ、乾杯しよう」

「ああ」

「乾杯!」

 三人は各々好きな酒を飲みながら、つまみに手をつけた。

「うまい!」

 広樹の作ったつまみに、思わず五城からそんな声が上がる。

「口に合ったならよかった。どんどん食べてね」

 嬉しそうに微笑む広樹を見て、五城はふっと笑った。

「お母さんみたいだろ」

 切り込んだ鷹緒に、五城は思わず納得して頷く。

「うん。諸星の周りには、いつも世話焼きがいていいなあ」

「学生時代はおまえだろ」

「まあね。おまえ、ほっとけないもん」

「自分では自立しているつもりなんですけどね……」

 そう言いながら、鷹緒は早くも空いたグラスに氷を入れる。すると、広樹が自分のグラスを差し出した。

「僕もちょうだい」

「いいけどおまえ、あんまり飲み過ぎんなよ。明日も仕事なんだから」

「わかってるよ。嗜む程度にね」

「おまえの嗜みは度を超えてるんだよ」

 鷹緒と広樹のやり取りを見て、五城は酒を飲みながら微笑んだ。

「俺も諸星と大概長いけど、木村君も相当付き合い長いよね?」

 そう言われて、広樹は小刻みに頷く。

「高校時代からずっとだから……でもまあ、お互いの足りないところを補ってる感じはするかな。僕も社長とか言いながら、未だに独立してるとは言えないもんね」

「いや、すごいよ……諸星のこと、これからもよろしくお願いします」

 頭を下げた五城に、鷹緒は呆れるように口を開いた。

「俺はおまえのなんなんだよ……」

「学生時代の世話焼きが、現在の世話焼きに挨拶するくらいいいだろ」

「いや、僕は出来ることなら、鷹緒の世話なんて焼きたくないんだけどね……」

 苦笑して言った広樹に、五城が静かに笑う。

「俺、実は木村君に嫉妬してたんだよね……」

 突然言い出した五城を見て、広樹は驚いた顔を見せる。

「へ?」

「だって学校では、俺は諸星とずっと一緒にいたわけで……それがバイト始めた途端、付き合い悪くなってさ。木村君に諸星取られたって、あの頃は面白くなかったよ」

 それを聞いて、広樹はずっと抱いていたわだかまりの正体を知った。

「ええ! そういうことだったの?」

「ハハハ。お恥ずかしい……でも今は、ちゃんと木村君のことも友達だと思ってるんで。まあひとつよろしく」

「こ、こちらこそ……ハハハ」

 妙な雰囲気の二人を見ながら、鷹緒は飲んでいたグラスを置いて五城を見た。

「五城。おまえ……本当に俺のことが好きだよな」

 歯を見せて、からかうように笑う鷹緒を前に、五城は真っ赤になる。

「諸星。おまえな……」

「ハハ。まあそれは冗談だけど……二人とも、俺にはなくてはならない存在ですよ」

 冗談交じりに言った鷹緒だが、五城と広樹は照れくさそうに受け止めた。

「おまえに言われると気持ちが悪いな……」

 すかさず広樹がそう返すが、五城は顔を赤らめている。

「おい、五城。冗談に受け取ってもらわないと困るんだけど」

「冗談だってのはわかってるよ。俺だってそっちのケはねえ。でも……俺の人生で輝いてたのは、おまえといたあの頃だったからさ」

 青春時代を噛み締めている様子の五城を見て、鷹緒は苦笑する。

「輝いていた時代ね……俺も中学、高校くらいかな」

「僕もそうだな……駄目だな。あの頃を忘れちゃいけないよね。今を輝かせないとさ」

 ロマンチストの広樹は、自分の過去を振り返っているように遠い目をしている。

 それを見て苦笑しながら、鷹緒は煙草に火を点けた。

「まあ、いろいろあったよな……」

 しみじみ言った鷹緒に触発されるようにして、男たちは各々過去へと思いを馳せていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ