48. 妖しい二人?!
出社前、鷹緒は広樹とともに喫茶店で新聞を読んでいた。
「そろそろ行こう」
広樹の言葉が聞こえていながらも、鷹緒は新しい煙草に火を点ける。
「先行けよ」
「なんで?」
「あのなあ……ガキじゃねえんだ。毎日一緒に出社することはないだろ」
顔を顰める鷹緒に、広樹は苦笑した。
ここしばらく広樹は家の事情で鷹緒の部屋に居候している。最近は出社前に喫茶店で食事することが多いため、出社するのも同時刻だ。
居候していることを社員たちも知ってきてはいるのだが、また妖しげな噂がいつ立つかもわからない。
「それこそ恋人じゃないんだから、わざわざ出社時刻ずらすのもおかしいだろうよ」
「どうだろうな……」
それ以上のやり取りが無意味に思えて、鷹緒は煙草を揉み消して立ち上がる。
二人はそのまま会社へと向かっていった。
「おはよう」
同時に言った鷹緒と広樹に、すでに出社している社員たちが驚きの表情を見せる。それは毎日でも新鮮な表情である。
「あのな……いい加減、慣れてくれる?」
ぞっとしたような鷹緒の態度を見て、受付の机を拭いていた牧が笑った。
「無理ですよ。流行のボーイズラブみたいで鼻血出そうです」
からかう牧に、笑いながら広樹は去っていく。だが鷹緒はスルー出来ない様子で、顔を顰めて苦笑した。
「おまえにそういう趣味があるとは知らなかった」
「趣味じゃないですけど、リアルのお二人なら萌えるのわかりますね」
「気色悪い……」
「まあ、ひどい」
牧の言葉をもう受けずに、鷹緒は自分の机へと向かっていく。
そこに、広樹が社長室から顔を出した。
「鷹緒!」
あまりに大きな声に、鷹緒は怪訝な顔をする。
「はい?」
「今日の夕飯、何がいい?」
沸き上がる声援に、鷹緒は顔を赤らめて口を開く。
「ヒロ、てめえ!」
「アハハハ。たーのしー!」
あからさまに拒否反応を示す鷹緒は、珍しく社員たちにからかわれている。その首謀者が広樹だということに苛立ちながらも、社員たちの喜びようは嬉しくもあり、鷹緒はもう何も言わずに苦笑していた。