表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/173

20. 温かな食卓

「出来たよー」

 そう言って、私はこたつの上に鍋を置いた。

 私の部屋で料理。二人だけの食事。なんだか新婚さんみたいで嬉しい。

「おお。すげえな、沙織」

 彼はいつもの如くそう言って、嬉しそうに鍋を見つめる。夜食に近いので、鍋の他にはサラダと残り物の惣菜のみ。それでも彼は、嬉しそうに合図を待っている。

 私の彼氏の鷹緒さんは、まったく料理が出来ない。いや、きっと料理をする気がないんだろう。 私は料理が出来るほうじゃないけど、一人暮らしだし、なんとなくの自炊は出来る……そんな程度。

「めしあがれ」

 そんな私の言葉を合図に、彼は料理に手をつけた。

「うん、うまい」

 世の男性はその一言さえ言わない人がいるらしいけど、私の彼はちゃんと言ってくれる。そんな彼に、私は嬉しい反面、苦笑した。

「なに、その顔」

 苦笑する私に向かって彼が怪訝な顔をするので、私は首を振る。

「ううん。だって鷹緒さん、何作っても喜んでくれるから」

「……嫌なの?」

 きょとんとする彼に私は尚も苦笑する。もう、なんて可愛い人なんだろう。

「だからそういうんじゃなくて、私は料理が苦手だから助かるし嬉しいけど、なんか張り合いなくすっていうか……」

「そういうもん? 俺一人でいたら、皿に移すことすらしないしな……こんなに綺麗に並べられたら、そりゃすごいとか思わない?」

「あのね……今日は湯豆腐なんですけど!」

 料理と呼ぶにはあまりにも恥ずかしくて、私は目をつぶってそう言った。それでも鷹緒さんは、不思議そうに首を傾げてる。

「立派な料理だろ。べつにおまえが買ってきたものただ並べたとしても、俺は感謝するよ」

 なんだかこれ以上言うのが馬鹿らしく思えて、私は笑ってしまった。

「もう。本当に料理しないんだから……張り合いなくして、私まで料理しなくなっても知らないよ」

「自分が料理やらないから、おまえに強要することでもないんじゃん? でもそれは残念だな」

 最後の一言がずるいくらい愛しく思う。これからもっと料理の勉強をして、たくさん作って食べさせてあげたい。そしてもっと喜ばせたい。

「嘘だよ。これからも作るもん」

「……これからは喜ばないようにするよ」

 もう、わかってないなあ……むっとした私の真意がわかっているのか、鷹緒さんは優しく微笑んでる。もうすべて許してしまいたくなった。

「喜んではほしいんだけど……」

「じゃあまた作って。俺は本音しか言わないよ」

 その一言が嬉しい。

「じゃあまずくても、お手柔らかに……」

「ハハハ。うん……いつもありがとう」

 彼のために、明日も……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ