115. リモート会議
このところ新型ウィルスでステイホームが呼びかけられ、WIZM企画プロダクションでも出来るだけのリモートワークが続けられている。
毎朝ミーティングが全社員リモートで行われ、要所要所で各部署の打ち合わせも続けられている中、その日の朝も企画部の打ち合わせが始まっていた。
「みんな、どうよ? 家で何してる?」
社長でもあり企画部員でもある広樹が呼びかけると、部長の彰良が子供を抱えて言った。
「家族サービスしてるよ。いつも出ずっぱりだから疎まれてるな」
冗談交じりに言った彰良だが、所帯持ちのため残業を嫌うため、リモートワークは嬉しい様子である。
「僕は料理始めましたよ。仕事ほぼゼロ状態ですからね……先の締め切りのやつも終わっちゃいましたし」
そう言ったのはカメラマンの俊二だ。
「私はたまにですけど、人がいなそうなところへ一人でお散歩に行ってます。カメラ買っちゃったんで、いろいろ撮ってます。あ、でも企画いくつか考えてみたんで、あとで共有フォルダ見てみてください」
今度は万里がそう言って手を振った。
「感心だなあ。鷹緒は?」
広樹が黙ったままの鷹緒に尋ねると、鷹緒は苦笑する。
「俺も持ってた仕事は全部終わっちゃったから、写真の整理とかしてるよ。結構いいのが出てきたから、俺も共有フォルダ入れといた。あとで見て」
「あ、僕もう見ました! すごい写真ばっかりですね。あれニューヨーク行ってた時のですか?」
俊二に言われて、鷹緒は頷いた。
「ああ。ほとんど海外で撮ったやつ。あまりに暇だから原型留めないくらいレタッチした」
そんなやり取りを聞いている中で、一同は社内共有フォルダを見る。鷹緒が入れておいた写真は、まるでファンタジーのように美しい写真だった。
「こりゃすごいな」
「ホームページとかに使えるなら勝手に使って」
広樹の言葉に、鷹緒が言った。
「いや、うちはこんな壮大な会社じゃないでしょ……でも何かに使わないともったいないなあ。賞でも応募してみたら?」
「そうだな……うちで活用出来ないなら、考えてみるよ」
「じゃあ、私の企画も見てもらえませんか? カメラマン企画あるんです!」
万里がそう言ったので、一同は万里の企画案を開く。
「じゃあ説明してくれる?」
「はい。うちってカメラマンもモデルもいるのに、自粛するのもったいないじゃないですか。だから自主企画出来ないかなって。たとえば前からやってはいますけど、自社雑誌を出すとか、限定で撮影会をやるとか」
万里の企画は前々からあるものだが、確かに自社で抱えるタレントたちがいるため、他社の仕事がなくなっても需要はあると考えられる。
その時、俊二が手を上げた。
「それとはちょっとずれますけど、鷹緒さんのレタッチ講座とか、撮影の基本講座とかどうっすかね? それなら動画でいいですし」
そう言われて、鷹緒は眉を顰めた。
「それなら俊二も出来るだろ。なんで俺なんだよ……」
「鷹緒さんのほうが名が売れてますしうちの花形じゃないですか。最近は素人でもカメラにこだわったり、セミプロも多いでしょう? それに僕が聞きたいんですよ。鷹緒さんの技術講座」
熱弁を振るう俊二に、広樹がにやりと笑う。
「じゃあ、その企画は俊二に任せるよ。俊二がやりたいように鷹緒を使っていいよ。その代わり、カメラや編集まで俊二がやれよ」
そう言われて、俊二は明るい笑顔で頷いた。
「はい! わかりました」
鷹緒が反論する間もなく決定した動画は、それから何本か撮影されWIZM企画プロダクションのホームページを賑やかせたという。