108. 些細な幸せを感じる朝
朝方。ふと目が覚めた沙織は、目の前にあった鷹緒の顔に驚いた。
(わっ……迫力……)
無防備な寝顔を見るのは初めてではないが、突然飛び込んできたその顔に、沙織の顔は赤くなる。
(そうだ。昨日は鷹緒さんの家に泊まったんだった……)
じっと鷹緒の顔を見つめながら、沙織は寒さに身じろぎした。すると、鷹緒も体勢を変える。
(やだ、起きないで。もう動かないから……)
昨日も仕事を持ち帰ってきた鷹緒は、沙織が眠ってからベッドへやって来た。今日もお互い仕事があるため、時間ギリギリまでは寝かせてあげたいと思う。
沙織はぴたりと動きを止めて、鷹緒を見つめた。
愛しい人の顔がすぐそこにある。些細なことだが幸せを感じて、沙織はふっと微笑んだ。
その時、パチッと音がするくらいに突然鷹緒の目が開き、途端に沙織と目が合った。
「うわっ!」
お互いにドキッとして、声を漏らす。
「……びっくりした……起きてたのか?」
寝ぼけながら鷹緒が尋ねると、沙織もドキドキした心臓を押さえるようにして深呼吸した。
「う、うん……ちょっと前に……」
「見つめてんじゃねえよ……」
「ごめん。起こしちゃった?」
沙織の言葉に、鷹緒は軽く伸びをした後、沙織をそっと抱きしめた。
「いや……大丈夫」
「ごめんね?」
「いいよ。俺も昨日、寝る前に散々おまえの寝顔見てたから」
それを聞いて、沙織は驚いて鷹緒から離れた。
「えっ?」
「よく寝てらしたんで」
「は、恥ずかしい……」
顔を赤らめる沙織の頬を、鷹緒が優しく撫でる。その瞳は沙織にもわかるくらい優しい。
沙織は先日、茜から聞いた話を思い出した。鷹緒と沙織が付き合っているとわかったのは、鷹緒が沙織に向ける優しい目だと……それを聞いた後に目の当たりにした沙織は、照れて鷹緒の胸に顔を埋めた。
「ん? どうした?」
しかし、顔を上げれば惚けた顔を晒すと思い、沙織は鷹緒にきつく抱きつく。
「なんでもない……」
「ハハ。なんだよ」
だが、もう何も言わずに、鷹緒も沙織を抱きしめた。