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31日目に君の手を。  作者: 篠宮 楓
31日目 原田視点

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突き当りのドアを抜けて、思わず立ち止まる。

「……絵?」

そこは布を張り巡らせた、空間だった。

元は大きな教室なんだろうけれど、そこを長机や天井からつるしたフックに布を被せたり垂らしたりして、いくつかの空間を作り出しているらしい。

そこに、絵がいくつか飾ってあった。

黄緑色の布のこの場所に飾ってある絵は、ほとんどが風景画らしくて。

水彩画とか油絵とかよく分かんないけど、シンプルな額に飾られた絵が並んでいる。

ならアオの絵もあるんじゃないかと思ったけれど、名前を知らない自分が見つけられるわけもなく。

見慣れた土手の風景の絵があるわけでもなく。


「……」


むかつき二乗。


だーかーらー、阿呆みたいに素敵な名前とか言って偽名使ってんじゃねーよ、むかつく。

普通に名前言えねぇのかよ。


早々に掛けられている絵から視線を外し、作られた通路を歩いていく。

きっと、ここにアオはいる。

いや、いると思う。

……いるよな。

学校に来てれば。


焦る気持ちをそのままに、布の通路を抜けていく。

黄緑の次は、薄い青。そして薄い黄色……


最後突き当たったその壁には、真っ白な布がかけてあった。

誰もいない、白い空間。

一目見て理解できたけれど、諦めきれずにぐるりと周囲を見渡して……ぽつりと呟いた。


「いねぇし……」


思わず、床にしゃがみ込んでしまったのは言うまでもない。

ここまで勢いだけで突き進んできた原田は、自分の頭から湯気とか空気が抜けていってるんじゃないかと思うくらい脱力した。

「マジかー」

力が抜けて、そのまま床にしりもちをつく。

今まで感じなかったけれどズボンがぺたりと肌に貼りつく感触に、自分がかなり汗をかいていた事に気が付いた。

後ろに両手をついて、目を瞑って苦笑を零す。

「どんだけ、一生懸命だよ俺」


三和の言葉に、頭に血が上った。

自分よりも三和を繋ぎ止めたいと願われているようで、悔しかった。

でも、それ以上に……


「なんでいない……」


会えるつもりでここまで突っ走ってきたから。

期待が高かっただけ、落胆も大きい。


はぁ、と大きく息を吐き出して目を開けた。


途端。



「……え」



白に、浮かび上がる、絵。


自分にとって、見慣れた、風景。


その空を彩るのは、幾つもの色を重ねた――



「あお……?」



がばっと立ち上がり、その絵の前にある机に手をついた。



日本の原風景ともいえるような、懐かしさ。

川を向こうに望んだ、草の揺れる土手。

その手前に残された、庭。

けれど絵の大半を占めるのは、あおいいろ。

青空。



確信する。

これはアオの、絵だ。



何がっていうか、確かに風景を見れば一目瞭然なんだけど。

絵から受ける印象というか、絵そのものの雰囲気が。

アオの絵だと、アオの色だとそう伝えてくる。


それ自体が一枚の絵の様だった、縁側で、あおいいろに沈んでいたアオの姿。


「って、だからどこのお花畑だ俺」

自分の表現の陳腐さに思わず項垂れる。


そして、見つけた。



机に置かれた、小さなプラスチックのネームプレート。



「……」



そこには、一人のフルネームが表示されていた。



じっと、食い入る様に、見つめる。

じっと。

じっと。




「……あれ?」




そこに、ぽつりと聞こえた声。

近づいてくる足音。

ゆっくりと、そしてぱたぱたという音を響かせて。



けれど、原田の視線は、ただ一点で止まったまま。



じっと。

じっと。


――額に青筋が浮かぶまで。



乱れた足音は、原田の真後ろで止まった。

シャツを引っ張られて、微かに視界がぶれる。

それでも原田の視線は、ネームプレートから外されなかった。



「ななしくん、なんでここに……っ」



驚きと嬉しさの混じったようなその声に、やっと原田の視線がゆっくりと動く。

じろりという吹き出しが後ろに見えそうな眼光に、その声の主はぴきりと固まった。



「素敵だから、素敵な名前で呼べばいいよ……だっけか?」



地獄の底から響いてくるような重低音に、原田のシャツを掴んでいる張本人、アオは目を見開いて固まった。




次回、アオの名前が初とーじょー。

ひらがなにしようか、漢字にしようか悩んでいます。

漢字の方が意味通じるんだけど、

すっごい高名な学者のような名前になってしまう……アオのくせに(笑

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