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31日目に君の手を。  作者: 篠宮 楓
31日目 原田視点

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原田視点と言いつつ、三和視点が途中から後半を占めます。

お、同じ原田という事で……(殴

今回3000文字近いです。

お時間のある時に、ご覧いただければと思います。


原田はベッドに寝転がりながら、夕方要さんに言われた言葉を思い出していた。


――青を生み出す藍なのか、それとも藍から生み出された青なのか


どう思うって、聞かれたけれど。

はっきり言おう。


「分かるか、そんなもん」


吐き捨てる様に呟いて、ごろりと寝返りをうつ。


流石に要さんを目の前にしてそんな事なを吐けるわけもなく、何も言えなかった。

そのまましばらく世間話をして、辞したわけだけれど。



家に戻ってきて飯を食って、風呂入って。

寝ようとベッドに横になっていたら、だんだんイライラしてきた。


今日、アオの居場所を聞き出したいって意気込んでたはずだよな。俺。

何で自分の知らない事を本人からじゃなく他の人から聞かされた上に、よく分かんない事聞かれなきゃいけないんだ?

ただでさえ、アオの行動にもやもやしてるっていうのに、それ増やされてどうすんだよ面倒くせぇ。



アオが青とか藍とか、そんなんどっちでもいい。

大体、俺はまだ本名さえ知らないってのに。

ふざけんな。



アオが泣いていたのが要さんの言う自分を見失っていたってのが理由なら、それは本人から聞きたい。

しらねぇよ、見失ってた理由とかそれを取り戻したきっかけとか。

少しは俺が関与できてればって思ったけど、本人、さくっといなくなるし。


「ふざけんな」


思わず声に出てしまい、誤魔化す様にもう一度寝返りを打った。

ベッドが原田の体重を受けて、みしりと音を上げる。

それを聞きながら、原田は部屋の隅にたたまれているジャージとタオルに気付いた。

電気を消した後だというのに、暑いからと開けていた窓から入る外の光でぼんやりと青い色が浮かび上がる。


「あお……」


アオに話しかけたのは、一日中同じ場所でぼんやりしていた彼女を心配したから。

なくしたものを探すかのように、じっとベンチに座って風景を見つめていた。

けれどアオが一番最初に興味を惹かれたのは、俺じゃなくて、きっと――


「タオル……っていうか、青い色?」


綺麗な色って、よく分からない執着を見せた。

それまでになかった強気な態度で、俺からそのタオルをかっぱらっていった。


アオ。

青い色。

要さんの、言葉。


「――」


じっとタオルを見つめていた原田は、肺の中の空気を追い出すかのように大きく息を吐き出した。



「だから、分かるかそんな事」


察しの悪い子供で悪かったな。

大体そこまで言うなら、全部言え。

居場所から何から全部吐け。


そう内心呟くと原田は無理やり眠りにつこうとして、何度も寝返りを打っては見たけれど。

明け方まで、眠りがやってくることはなかった。









「あらま、何その酷い顔」


翌朝リビングに入ってきた弟を見て、ソファに座っていた三和は少し呆れた様に持っていたマグカップをテーブルに置いた。

「……うるせぇ」

原田は三和の方を見ることなく、冷蔵庫から麦茶の冷水ポットを取るとグラスに入れて一気に飲み干す。

空になったグラスをシンクに置くまでの一連の動作を見ていた三和は、横に置いてあったクッションを胸の前で抱え込むとその上に顎をのせた。

柔らかいクッションに顔が半ば埋もれるような状態で、すぐそばのダイニングテーブルにつく原田を目で追う。

制服を着ていつも通り起きてきた風を装っているけれど、目の下にうっすらくまが出来ているのが見える。


「……」


もくもくとテーブルに用意されている朝食に手を付ける弟の様子に、クッションに埋もれている口がにんまりと弧を描いた。

「うっとうしい……」

見られている事には気が付いている原田は、眉間に皺を深く刻んで顔を逸らす。

本気で嫌がっているのがありありと見えるけれど、三和はにやける口元をクッションに沈めてむふふと笑った。

自分の思い通りに事が進んでいるのが面白くて、この後の展開を考えてしまえばにやけるのがとまらない。

「なぁに、眠れなかったの?」

「三和には、関係ないだろ」

怒ってるなら応えなければいいものを、変な所で生真面目な弟は問いかけを無視することが出来ない。

即答するその様子に、三和はローテーブルに置いておいた紙を手に取った。


それは原田が熱を出して寝込んでいた日、帰宅する際にアオから受け取ったものだ。

作りすぎてしまったという野菜スープをありがたく頂いてきたのだけれど、その中に一緒に包まれていた紙。

大学名の印字されている、小さなチラシ。


アオちゃんが自分の過去を離していた時、最後に言っていた描き上げた絵。

その絵を、学祭に出展するらしい。

時間があったら見に来て下さい、と小さなメモ書きが同封されていた。


私に渡して弟に渡していない所を見ると、ホントけじめがついたらすぐにでも会いに来る予定だったんだろうな。

ま、状況が許さないのは分かったけど。

ごめんねー、アオちゃん。

アオちゃん来るの待ってると、この状態がまだ一週間くらいは続くって事だからね。

それはね。


面倒☆



「なーおや」


朝食を食べ終えたのか立ち上がった原田の背中に、声を掛けた。

「今日って、木曜日だよね」

「……そうだな」

足を止めて不機嫌そうに三和を見下ろす。

眉根を寄せているその表情は無表情とも相あまって、あえていうなら怖い。

けれどまったく何とも思わない三和は、ぴらりと手に持っていたチラシを揺らした。

「この大学の学祭、明日からなんだって」

「……は?」

何を言いたいのか分からずいらいらしたように問い返す原田に、三和はにんまりと笑った。


「アオちゃんにもらったのー」


間延びした三和の声に、原田は目を丸くして動きを止めた。

「よければ来て下さいねって。可愛いわよねぇ」

「……え?」

やっと言われたことを理解したのか、三和の手からチラシを奪い取る。

「なぁに? その反応って事は、あんた誘われてないの?」

「……っ!」

原田はチラシを握りしめると、ばたばたと大きな音を立てて二階へと駆け出していく。

あまりにも大きな音だったからか、洗面所にいたのだろう母親がリビングに顔を出した。

「なぁに、今の騒音」

「んー? もっかいくるから、耳塞いでおけばー」

三和がそう言うか言わないかのタイミングで、階段をバタバタと降りてくる足音が響いた。

「直哉、静かに降りなさい。壊れるでしょう」

この状態でも怒鳴らない母親を凄いと思いながら玄関に向えば、既に靴を履き終えている弟の姿。


「アオちゃん、苛めちゃだめよー」


三和の声に何も答えることなく、原田は玄関から飛び出して行った。



「……なんなの、一体」

「直哉が学校サボるに一票」


首を傾げている母親にそう告げれば、少し驚いたように目を見開いた。

「直哉がサボリ? 珍しい事もあるものね」

「うん、ねー?」

機嫌のよさそうな三和の姿に、母親は呆れた様にため息をついた。

「また、あんた何かしたの?」

「んー? まぁね~」

語尾に音符でもついてしまいそうな声音に、帰ってきたら怒らないとね……と母親らしい言葉を呟きながら洗面所へと戻っていった。


三和はくすくす笑いながら、自分の部屋へと外出の支度をするために階段を上がっていく。

そうして一言。



「要さーん、ご協力ありがとうさまでした」


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