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31日目に君の手を。  作者: 篠宮 楓
29日目 アオ視点

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「……大丈夫、かな」


目を向けたそこには、三和さんと村山先生で無理やり着替えさせられたスウェット姿で、布団に横になるななしくんの姿。

さっきよりかは幾分落ち着いてきた、けれど通常よりははるかに辛そうな息遣いが絶えず聞こえてくる。


私は邪魔にならない様に少し離れた部屋の隅に小さな机を持ってきて、そこでななしくんを見つめていた。

壁にかけてある時計が、もうすぐ二時を指す。

もちろん、夜中の、だ。


最小限の光量に落とした部屋の中、スタンドだけを傍に置いて。


「八月……三十一日、か」


ぽつりと、呟いた。








寝転がった後、目を覚まさなかったななしくんの様子がおかしい事に気が付いて、慌てて村山先生を呼びに走った。

診断結果は、急性扁桃腺炎。

あとでお姉さんの三和さんに聞いた事だけれど、元々扁桃腺が弱いらしくて。

疲れた所に体を冷やして、抵抗力が弱まってしまったという事だ。

半日近くの短時間で一気に熱が上がるらしくて、前にも一度高熱で倒れた事あるのよとけらけら笑っていた。

うん、なんとなくななしくんの人格形成の要因を見た気がする。


本来なら自宅に戻るのが一番いいとは思ったんだけれど、両親不在の上三和さんが料理が出来ないという事が判明した。

それならばとななしくんをここで看病することを提案し、どこか予定調和のように三和さんは頭を下げた。


「うちの弟、本当に迷惑かけます」


……名前を言わないのは、デフォルト?

それとも、事情を聞いてるのかな……。


こんな風に考えること自体、夏が始った時の自分とは違うと実感できる。



帰る村山先生を見送って、そのまま三和さんを送り出す。

また明日来ますと言って、なんの躊躇いもなく三和さんは車で帰宅した。


弟を置いていく割に、物凄いこのあっけなさ。

予定調和の様に……と思った勘は、外れてないのかもしれない。



ななしくんの元に戻ってみれば、彼はなんとか薄目を開けている状態で。

もう少しすれば解熱剤が効いて楽になると思うからという、村山先生の言葉に心中で縋る。

真っ赤な顔で、荒い息を吐き出すななしくんを見ているのが辛かった。




だって――




そこまで考えて、ふ……と隣の部屋へと続く引き戸に目を向けた。

正確には、その“向こう”に。



ななしくんが合宿に行っていた間、私が描いていた……一枚の絵。

描き終えてから今日……もう昨日か、それまで見ないで封印していたキャンパス。


昨日、そのキャンパスを見て。

私は、決めてしまったのだから。





働かない思考で、動かない体で、一生懸命私を気遣う言葉をくれるななしくんを見て、罪悪感が渦巻いた。

ななしくんの気持ちに、気付かない様にしてた。

自分の気持ちを、口にしない様にしてた。


でも、自分を見つけたの。

だから。



自分の体調を後回しにして私を気にかけてくれるななしくんを置いてでも、私は今までにけじめをつけたい。

そうでなければ、進めない気がしたから。

ななしくんに、何も伝えられないから。


本当の私を、見て欲しいから――



だから、








「ごめんね」




無意識に呟いた声が、私の思考を引き上げた。

視線の先には、相変わらず荒い息を吐くななしくんが横になっている。

起こしたかと様子をうかがってみたけれど、何の反応も見せず深く目を瞑ってる。


こんなに体調が悪い状態で、自分の所に来てくれたななしくんへの気持ちが心の隅で微かに震えた。

けれど、それを消すわけでもなく見ない振りをするわけでもなく、宥めるように口端を上げる。




「八月……三十一日、か」



呟いて、携帯を手に取る。

何か操作をするわけでもなく、ただぎゅっと握りしめて額にそれをつけた。



今日は、金曜日。



要さんが、帰ってくる――

ちなみに、急性扁桃腺炎は私の十八番です。

半日で、35度台から39度台まで上がる恐怖( ̄Д ̄;)

そして解熱剤を飲んで、一気に37度台まで下がる恐怖((((_ _|||))))

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