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31日目に君の手を。  作者: 篠宮 楓
26日目~28日目 原田視点

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やっとななしターン回帰。

この後はアオターンになるまで、原田単体でいくと思います。

っていっても、この章、もうすぐ終わりますが^^;



「誰か出ろって……っ」

吐き捨てるような懇願にも関わらず、携帯からは呼び出し音がただひたすら流れている。




原田はだいぶ間抜けな姿で、池の中に埋まっていた。

そう、埋まっていた、のだ。



足を踏み外して池に落ちた原田は、最初に考えていたよりも浅い水深に安堵したけれど、それはほんの一瞬だった。

携帯を持つ右手だけを上げた状態で左手を池の底につき、横向きに倒れ込んだ状態のまま立ち上がろうとしたら。


ずずっ……


音のない音が、体に響いた。

慌てて顔を下に向ければ、舞い上がった泥の中に埋没している自分の左手。

そう。

水深は浅くとも、泥の溜まっていた部分はそれなりの深さがあったのだ。

左手と左足が力を入れた所為で泥に沈み込み、引き抜けなくなってしまった。

はまったとはいえ水深が低いため命の危険があるというわけではないけれど、右手を使えない今、起き上がるすべがないのだ。

よしんば右手を使えたとしても、泥にはまった身体を引き抜く事が出来るか些か不安だが。


暫くどうしようかと考えていた原田は唯一助けを呼べる携帯から、着信履歴を呼びだしてとにかく通話ボタンを押した。

確実に出るだろう誰かとか選ぶ余裕はなかった。

少しでも体勢を変えると、バランスを崩して余計深みにはまりそうだったからだ。


どのくらい呼び出し音を鳴らせば出るんだ、直近俺と喋ったやつは!


八つ当たりにも似た……いや、思いっきり八つ当たりをしながらしばらく助けを待っていた原田の耳に、いたって普通の電話の音が聞こえてきた。

音楽ではないこれは……


「辻か!」


頭を音のする方に向ければ、呆れた表情でこっちに走ってくる辻の姿が見えた。

建物の中から出てきたという事は、態々探してくれたってことか?

ありがたいけど、先に携帯出てくれよ。



「何やってるの、原田ってば」

傍まで来て足を止めた辻は持っていた携帯をズボンのポケットにしまうと、原田の手から携帯を取って濡れない場所に置いた。

「いや、ちょっと足踏み外したというか……」

「まったく、アオさんのことばっか考えてるからこうなるんだよ」

なにやら棘のある辻の言葉に口ごもりつつ、差し出された手を掴む。

「ま、言い返せないよね。まさか立ち入り禁止の池の中にはいるとか、後輩に見せられない姿だよね」

「あ、う……」

「佐々木が見たら写メ思いっきりとられそうだけど、せめて井上とか呼びたくなるよね」

「え・あ」

「ていうか、アオさんに見せるために一枚撮っておこうか」

そう言うと掴んでいた原田の手をあっさり放して、ポケットの携帯を取り出そうとする。

原田はそんな辻に、必死の表情を見せた。


「つか、マジで早く引き上げてくれって! 体がかなり冷え切ってんだよ」


もうすぐお昼の時間とはいえ、この場所は建物や木々で日陰になっている。

また池の水は山の湧水を利用しているようで、池の中は温いよりも冷たいのだ。

特に、泥の中。

辻は少し驚いたように離した右手を、もう一度つかんだ。


「合図したら引っ張るから、いい?」

「頼む」


せーのっ



やっと原田は、池の中から脱出した。










「……大丈夫?」




あの後シャワーを浴びた原田は、さほど変わらぬ様子で食堂に現れた。

そのままいつも通り食事をとって、二時間後、バスで合宿所を後にした。



そして、いま。



「あぁ」


窓際の席でブランケットに包まっている原田に、辻が小声で問いかける。

すると目を瞑っていた原田が、億劫そうに目を開いた。

けれど大丈夫と発した言葉自体、あまり元気のあるものじゃない。



さっきまでなんでもなさそうだったのだが、どうも体を冷やしただけじゃなく、ここ数日の疲労が一気にでてしまったらしい。

バスに揺られて約一時間、顔色が悪い事に気が付いた辻が強制的にブランケットを原田に被せた。

他の奴らは暑さから冷房をかけていたが、この列と前はさっき止めるように伝えた。

一番後ろの座席だから、迷惑を被るのは最小限だろう。


微かに開けていた目を、再び原田は閉じた。



……背筋が、寒い。



ぼんやりとする頭で、そう呟く。

あと数時間もすれば学校について、解散する。

そこから自転車で駅まで行くつもりだから、アオの家は帰り途中に寄れる。

だから……それまでに治んねぇと……。


「着いたら、起こして」


それだけ辻に向けて呟くと、意識を手放した。



次話、アオがやっと出てきます(笑


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