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31日目に君の手を。  作者: 篠宮 楓
3日目 アオ視点
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 ……冷たい。


 頬に触れる冷たい何かが、ゆっくりと目元を撫ぜる。擽るような柔らかい感触に、小さく声を上げた。すると、ピクリとして頬から離れていく冷たい何か。


 ……もう少し、触っててほしかったな。


 そんな事を考えながら、浮上しかけた意識がもう一度暗闇に沈み込んでいった。





「……ありがとうございました」


 ……ん?


 近くから聞こえた声に、意識が浮上する。

 ぽん、と、上に放り投げられたようなそんな感覚。それでもすぐに目を開ける事が出来なくて、代わりに音が一気に耳に流れ込む。


 いつも聞きなれている、蝉の声。川のせせらぎ。

 さわさわと揺れる、草々。これは多分、庭の。

 その音に混じって聞こえるのは、衣擦れの音。

 誰かが身動ぎしているくらいの、微かな音。


 そして……


「目、覚まさねぇな……」


「……!」


 その声に、ばっ、と目を開けた。

 すぐ傍に、私を見下ろす眉間の皺……を持つ男の顔。いきなり目を開けた私に驚いたのか、身を後ろに引いた。

「なんだその起き方、怖すぎるだろ!」

「……ななしくんじゃないですか」

 普通に出したはずの声は、思ったよりも掠れていて。その違和感に喉元に手を当てれば、熱い肌が指先に触れた。


 ななしくんは何か気が付いたように元の場所に座り直すと、起き上がれるか? と聞いてきたので小さく頷き返す。すると座布団を数枚持ってきてから私の身体をゆっくりおこすと、それを背中に当てて楽な姿勢をとらせてくれた。

「これ飲んで」

 ストローの刺さったペットボトルを手に持たされて、素直にそれを口に含んだ。


 スポーツドリンク?


 普段あまり飲まないその味を不思議に思いながらこくこくと飲み干せば、隣で盛大に息を吐き出すななしくんに驚いて目を向けた。

「どうしたの?」

 そう問いかければ、一瞬大きく口を開けたけれどすぐ閉めて頭をガシガシと掻く。なんか可笑しなスイッチ入っちゃったのかなーと思いながら見つめていたら、もう一度大きく息を吐き出したななしくんがゆっくりと私を見た。


「お前、ちゃんと寝てる?」

 ……は?

「飯は? 食ってんのか?」

「何これ、先生の家庭訪問?」

 いきなり問われた言葉に素直に聞き返せば、ぎろりとななしくんに睨まれた。

 怖いよー、顔。

「高校生にこんなこと言われている時点で、恥ずかしいと思え。お前、貧血と軽い熱疲労で倒れたんだよ。睡眠不足と栄養不足だと、先生が言ってたぞ」

「先生って、呼んできてくれたの」


 うちの家の並びには、個人経営のお医者さんが開業しているのだ。私を小さな頃から知っている、ほんわりしたおじいちゃん先生。

 驚いただろうなー。いや、私の体調じゃなくてななしくん見て。


 そんなことを私が考えているとか気付くわけもなく、ななしくんは眉を顰めたまま言葉を続ける。

「そりゃそうだろ、目の前で倒れられたら焦るし! 部活の手前熱中症とかの対処方法くらいは習ってたからまだ対応できたけど、頼むから少し自重してくれ」

 勢いよく私を窘めていた声が、弱々しく最後は小さな声になった。


 あれ? いつもと感じが違う。

 なんか、後悔しているような変な雰囲気。


 がくりと肩を落としたななしくんに手を伸ばして、ぽんぽんと頭を軽く叩いてみる。私の手と合わせて、ななしくんの頭が揺れた。


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