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31日目に君の手を。  作者: 篠宮 楓
26日目~28日目 原田視点

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「あーあ」


岸田は建物の中に入ると、小さく溜息をついた。

声が出てしまったのは、ご愛嬌だ。

今、ものすごく落ち込んでいるんだから。


廊下を見渡してみるも、人影は見えず。

そのまま壁に背をつけながら、ゆっくりとしゃがみこんだ。

腰高の窓は、座り込んだ岸田を外から完全に隠す。

これで、原田にこの姿を見られる心配はない。


少なくとも、“アオさんの為”に写真を撮っている彼は、すぐに戻ってくることはないだろう。



立てた両脚の膝に腕を置いて、顔を伏せた。

瞑った視界に浮かぶのは、普段ないくらい焦る原田の姿。

一年から同じ部活で接してきた岸田でさえ、好意に気が付いた時には既にその姿を目で追ってしまっていた自分でさえ、見た事がないくらいの狼狽ぶり。


その態度で、もう、分かってしまった。


そこまで原田が、思いを寄せているのだと。

自分の想いを口にしても、無駄だという事を。

それ以上に――



原田をきっと、悩ませてしまう事を。




生真面目な原田は、きっと呆然として、理解して。

――そして……謝るのだろう。



気づかなくて、悪かった、と。


口先だけではなく、心からの謝罪で。



その言葉を、聞きたくなかった。

ずっと抱き続けてきた想いを、そんな言葉で終わりにしたくなかった。

ずるい事をしたなんて、自覚、あるに決まってる。

自分の気持ちは口にせず、原田の口から終わらせてくれる言葉を誘導したのだから。


――それでも。


声も出さずに小さく頷く原田の姿に、もう、気持ちの辿りつく先はない事に気が付いたから。

自分の好きな人が、それだけの想いを向けている相手がいる、それを知る事がこの気持ちの終わりだったのだと思えたから。




「これでよかったんだよ、ね」



「俺としては、粉々に砕けて欲しかったんだけどね」



――え?



「……っ!」




突然返ってきた言葉に、岸田は飛び上がらんばかりに驚いて顔を上げた。

そこには。


「つっ……、つ、じく……」

「その区切り、なんか微妙なんだけど」


さっきこの場所で別れたはずの辻が、同じ目線にしゃがみ込んでこちらを覗き込んでいた。

あまりの驚きに息をのむと、妙に大きな音で。

気づいたのかどうなのか、辻が小さく首を傾げた。

「なんで岸田さんは、優しいんだろうねぇ。俺だったら、そんな仏心出さないのに」

この状況をなんでもないように話を進める辻に、遠くに行きそうになっていた意識を慌てて引き寄せて、上擦りながら岸田は口を開いた。


「ちょ、待って。え、仏心とか……え、なんで」


さっき別れて顧問の所に行ったはずの辻が、なぜここにいるのか。

そして、その口ぶりは……

辻は当たり前のように指先を横に向けた。


「あれだけ岸田さんを煽っておいて、言葉通り顧問の所に行くと思った?」

「え?」

「そこ、備品部屋から見えるんだよね。池」



その言葉に、答えを悟った岸田はぎゅっと両腕を掴んで自分を押さえる様に、辻を睨みつけた。


「原田くんが、そこにいるの知ってて? わざとあんなこと言ったの!?」


自分の意志で行動していたつもりが、辻に掌で転がされていた?


辻は岸田が言わんとしていることが分かっているのか、困ったように目を細めた。

「原田がそこにいたのは、偶然。さっきは岸田さんについ本音を言い捨てておいてきちゃったらから、気になってすぐ戻ってきたんだよね。そうしたら、外にいる二人が見えたものだから……」

ちょっと備品部屋でストーカーしてました、そう告げる辻は少しも悪びれた雰囲気がない。


岸田はその言葉が本当かどうかさえ疑りたくなるようなタイミングの良さに、視線を強くした。

辻は困惑した表情一つせず、ただ目元に柔らかい笑みを浮かべている。


「よかったの? 何も、言わなくて。聞くだけで」


端的なその言葉に、全て会話を聞かれていた事を悟る。

公共の場での行動なのだから、聞かれていても仕方ない。

けれど、全てを見通されているようなこの状況、その視線が岸田の心を昂ぶらせる。


――悪い方に。


「仕方ないじゃない、言わないわよ! ……言えないわよ」

思わず叫んでしまってから、トーンを落として溜息をついた。

何を言っても、自分の事なのだから。

辻に何の思惑があって自分にここまで過干渉をするのかよくわからないけれど、彼に八つ当たりすることは間違ってる。

それだけは分かる。


「言えないの?」

「……言えないわよ。原田くん、優しいもの」


困惑して、きっと自己嫌悪に陥るだろう。

それならば、知らない所でこの気持ちを終わらせるだけだ。

そうすれば、原田との友人関係は続いていける。

告白して一刀両断に切り捨てられるよりは、緩やかにそのポジションを友人に戻していく方がいい。



原田の為と言いつつ、結局は自分可愛さなのだ。


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