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31日目に君の手を。  作者: 篠宮 楓
26日目~28日目 原田視点

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慌てる原田の対照的に、さっきまで挙動不審だった岸田の方が反応を楽しんでるこの状況。

原田は脳裏に浮かんだ三馬鹿……じゃなかった、同級生を思い浮かべて握りしめる拳に力が入った。



「あいつらか、あの阿呆達か」

「えー? 原田くんからだよ?」

「俺?! わけないだろ? 言ってねぇよ!」

「昨日言ってたじゃない。“アオの存在”、ばれたくなかったんでしょ?」


――!


瞬間浮かんだのは、井上への罵倒。

あいつが話題に出しやがったから!!


「ちゃんと言っておいた方がいいよ。井上くん、背後にも注意! ってね」

語尾に音符でもついてしまいそうな楽しそうな声に、井上への怒りが膨れ上がる。

が、背後を気にしなかったのは自分も同じで。

同じように自分への怒りも膨れ上がった原田は、真っ赤になって岸田を見た。

「……頼むから、忘れろ」

「えー。こんな原田くん見れるとか、あんまりないしなぁ。ネタ的にはおいしいんだけど」

にっこり笑って申し出を不可にされてしまった原田は、恥ずかしすぎて穴があったら入りたい……なくても掘り返して埋まりたい位の羞恥にさいなまれていた。


「岸田」


懇願にも近いその声に、岸田の表情からふざけた雰囲気が消えた。

そして微かに口端を上げる。

「じゃあ、聞いてもいい?」

「……何を」

不貞腐れにも近い顔で問い直せば、岸田は目を細めた。


「アオさんって人の事、そんなに好きなんだ?」



「なっ……、なんでそんな事っ」


口ごもった原田に、追い打ちをかけるように岸田は言葉を重ねる。

「純粋な興味かな。だって、あの原田くんがここまで動揺するなんて」

「興味かよ」

「答えてくれたら、もう言わないから。どう?」


なんで今日は、こんなに岸田は強気なんだ!

そう心中叫んでも、どうにもならない。


微笑んでいるようなそんな表情で見られていること自体に耐えられなくなってきた原田は、ちらりと岸田を見てから小さく頷いた。


「声に出てないよー」

「……これで勘弁してくれよ」


自分の突っ込みに情けない声で返答した原田を、岸田は仕方ないなぁとでもいう様に両肩を上げた。


「いやー、珍しい物が見れました」

「やめろ、その敬語。お前、辻かよ。」

余計遊ばれている気がする。

そう続ければ、まぁね、と岸田は笑った。

「じゃ、私食堂に行くから」

くるりと踵を返す。

けれどすぐに立ち止まって、顔だけ振り向いた。

「写真もいいけど、見つからない内にそこから出なきゃ駄目だよ」

それだけ言うと、岸田は振り向かずに建物の中へと戻って行った。


原田はその姿が見えなくなるまで見送って、やっと強張っていた体から一気に力が抜けた。

「なんだよ、なんなんだよ……」

あの三人にも遊ばれて、岸田にもって……。


それにしても、いつになく強気で饒舌だったな。

そんなに人のそういう話は、女子にとって格好の話題なのだろうか。

煩く騒ぎながら楽しんでいた、母と姉を思い出す。


特に姉の方は、合宿から戻ってきたら俺を脅してでもアオに会いたいとかのたまわってたな。


「面倒くせぇ」


まぁとりあえず井上は戻ったら合宿後練習決定だな、と八つ当たり気味の不穏な決定を脳内で下しながら、写真の続きを撮ろうと足を踏み出したその瞬間。




「……っ!」




ぐらりと揺れた視界にとっさに携帯を持っている手を、高く上げた。


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