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「あー、すげぇ色だな」
裏庭に下りてきた原田は、池の色にうんざりと呟いた。
遠目で見た分には綺麗に見えたけれど、覗きこんでみれば何のことはない膝まで行くかどうかの水位。
子供でも遊べそうなくらいの水位に、下に積もっているのだろう泥が見える。
それでも飛び石のある水面は、風情を感じさせてくれると言えばそうだろう。
足で跨げるほどの柵を越えて、飛び石に片足を踏み出す。
丁度とんぼが目の前を横切って、少し先の岩の上にとまった。
「大したものでもないけど、まぁ、いっか」
ぶつぶつと呟きながら、携帯を構えたその時。
「何やってるの、原田くん」
「ん?」
突然かけられた声に少し驚きながら、原田は振り向いた。
そこには、マネージャーの岸田の姿。
焦ったような表情に、原田は自分のいる場所を思い出す。
……そう、この池は飛び石があるにもかかわらず、立ち入り禁止なのだ。
原田は気まずそうに笑って、手にしていた携帯を下ろした。
「悪い、ここ立ち入り禁止だよな? すぐ出るわ」
さすがに目の前で写真を撮る事は、ためらわれた。
誰のために撮ってるかとか、そんなこと聞かれたら軽く死ねる。
原田は踏み出していた右足を引こうとして、岸田の声に止められた。
「ちょっ、ちょっと待って。ごめん、そこにいていいから!」
「は?」
なんで?
立ち入り禁止の場所にいたから、岸田に声を掛けられたんじゃないのか?
岸田のよくわからない言動に、原田は首を傾げる。
けれどそこにいていいと言われれば、いるしかない。
原田はそのままの体勢で、岸田を見た。
当人である岸田は何を焦っているのか、原田から見ても挙動不審。
本来なら、原田の方がそうなるべき状況だと思うのだけれど。
そんな事を考えながら、岸田の言葉を待つ。
岸田はうろつかせていた視線を原田に戻して、ふっとその手元を見つめた。
「……写真、撮ってたの?」
ぎゅっと両手を前で握りしめてそう聞かれてしまうと、何か責められている気になるのはなぜだろう???
幾分気圧されたような変な気持ちのまま、原田は無言で頷いた。
「そっか。えと、何の?」
「……風景、とか」
「今まで、どこかで撮ってたの?」
「あぁ」
なんだ、この一問一答。
そう首を傾げた時だった。
満面の笑みを浮かべた岸田の、一言。
「そんなに大切なんだ、アオさんって人」
「……は!?」
その言葉に呆けて、そして一気に顔面が赤くなっていく。
脳内パニックに陥った原田は、口をパクパクと開けたり閉めたりするけれど何も言葉が出てこない。
そんな原田を見て、岸田は楽しそうに声を上げた。
「こんな原田くんが見れるなんて!」
「ちょっ、こんなって……! じゃなくて、おまっ、それ誰から……!!?」




