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31日目に君の手を。  作者: 篠宮 楓
21日目~25日目 アオ視点

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48/118

キャンバスに向かい始めて、既に三日。

真っ白だったそれは、すでに色の世界。




突然大きな音が鳴って、私は文字通り飛び上がった。

「なっ、何っ」

ばくばくと鼓動を刻む胸を押さえながら、音の発信源を探す。

それは、縁側に放り投げてあった携帯だった。


「……なんか、前にも同じことをやった気がするんだけど――」

そう呟きながら、持っていた絵筆をパレットに置いて立ち上がる。

その間、携帯はバイブレーションのまま大きな音を立てていた。

「そう言えば音楽に変えようと思って、すっかり忘れてたなぁ」

焦る事もなくそれを手に取ると、何気なしにサブディスプレイを見た。


見知った文字に、通話ボタンを押す。

耳に当てると、淡々とした声が響いた。

『やっと出たね』

それに少し苦笑を落としながら、私はその人の名を呼んだ。

「要さん?」

それは、この家の家主でもある祖母、要からだった。

『あぁ、元気かい?』

淡々と話す要さんは、ほんの少し疲れた色をにじませていて。

疲れてるの? の言葉に、深く溜息をついた。

『疲れたなんてもんじゃないよ。子守は十年単位の過去なんだ。まったく年寄りをなんだとおもってるんだろうね、うちの息子は』

微かに笑い声が聞こえるのは、話題に上がった“うちの息子”であるおじさんが傍にいるのだろう。


「でも、楽しんでるんでしょ。要さん」

私の言葉に、要さんはまあねと笑う。

『お前もいい声してるじゃないか。私を訪ねてきたときは、空っぽの人形みたいだったのにな。いい事でもあったのかい?』


どくり。

鼓動が高鳴る。


「……あのね、ここに来てよかったよ」


詳しい事は言わない。

でも、感謝の気持ちを込めて、言葉を紡ぐ。


「ありがとう、要さん」


行き先を誰にも知らせずにここに来た私を、何も言わずに迎えいれてくれたおばあちゃん。

その上、私に何も知らせず周囲にフォローしてくれていた。

両親は、私がここにいることを知らない。

おばあちゃんの知人の世話をしている、そう伝えていてくれた事を知ったのは、つい最近の事。


感謝の言葉に携帯の向こうが、しん……と静まり返った。


一拍後、要さんの声が響く。



『来週の金曜には戻るよ』



その言葉に、小さく頷いた。


「うん、分かってるよ。要さん」



私の返答に、そうかい……と淡々とした声が携帯から響いた。






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