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31日目に君の手を。  作者: 篠宮 楓
12・13日目 アオ視点

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「へぇ、中学からバレーボール一筋なんだ」

「それしか能がないと言われてしまえば、それまでなんですけれどね」

辻くんの話を聞きながら賞賛の混じった声音で呟けば、爽やかに笑って謙遜された。


うん、この子モテそう。

そんな事を思えるのは、多分すぐ傍にいるもう二人の子の所為だろう。



ななしが来なくて寂しいと思って! とふんぞり返った部長くんと、麦茶を一気に飲み干してお代わりを要求した伊藤くんは筆を取り合いながら攻防を繰り広げている。

「てめ、佐々木! 勝手に塗ってんじゃねーよ」

「井上はさぁ、思い切りが少ないんだよ。つまんねーよこんな配色」


……うん、ごめん。今気が付いた。

伊藤くんじゃなくて井上くんだね。

名前呼ぶ前でよかった。


内心ほっとしながら辻くんに視線を戻すと、にこにこと笑ってる。

なんだろう、この見透かされてる感満載な微笑みは。

そんな事があるわけないのに、なぜかそう思えてしまう。

ホント怖いよ、この子。



「煩くて、ホントすみません」

「うん? まぁ、元気があっていいことだねー」

「ものは言いようですね」

「……ななしくんとは違った意味で、キミはホントに高校生なのかな?」

「もうすぐ十八歳になります」


……ななしくんと違って、冗談も綺麗にスルーだし……。


苦笑しながら、三人が買ってきてくれたゼリーを一匙、口に入れた。



この子達がうちに来た理由は、井上くんの美術の課題をするためだった。

四人の中で唯一選択科目を美術にしていた井上くんが、盆休みに入る前の練習試合の時にななしくんから私の事を聞いたみたいで。

それなら教えてもらおうという事で、おやつ持参で来たらしいんだけど。



「だーかーらー! ここはこの色だろう」

「お前、勝手に塗るなって言ってんだろ!?」



うん、二人で好きに描いてるから、ここに来て描く意味あんまないと思うんだけどな。

微笑ましい二人のやり取りに内心笑いながら、ゼリーをすくう。


「ななしは、いい奴でしょう?」

サイダー味のゼリーを楽しんでいた私に、ぽつりと辻くんが呟く。

「世話焼きおかんの友達は、子煩悩おとーさん」

思わず呟いた言葉は小さくて、辻くんには聞こえなかったようだ。

不思議そうに私を見る辻くんに気付かれないように、目を伏せて頷いた。

「いい子だね。世話焼きおかんで癒しの子だよ」

癒しの子、に、部長と井上くんが噴き出していたけど辻くんは全く動揺しない。

「そうですか。ホント、いい奴なんですよ。でも……」

語尾が切れた事に気づいてゼリーに向けていた視線を上げると、笑みを浮かべた辻くんと目が合う。


「アオさんも、いい人ですね」

「私? あらまぁ、何か出さないと」

茶化して笑えば、同じように声を上げる。

「でも、あなた達もいい人だね」

そう切り返すと、少し驚いたように目を見開いた辻くんは今までとは違う笑みを浮かべた。



「バレてましたか」

「おねーさんを侮っちゃいけない。でも、私の為でもあるんでしょう? ありがとうね」


くすりと笑えば、それもバレましたかとくしゃりと笑った。


井上くんの課題を口実に、私の様子を見に来たんだろう。

ななしくんのいない時に、私がどんな人間か知る為に。

それは先日ここに来た時にも感じた事。

そして……


“もし体調が良ければ、庭先でお茶しませんか?”


さっき、ここに来た時にそう言った辻くん。

私が体調を崩した事を知らなければ、出てこない言葉だ。

ななしくんがしばらく来ない事を聞いたから、様子を見に来てくれたんだろう。


「優しいねぇ、ありがとね」

「いいえー。この前の夕ご飯のお礼という事で」


悪戯が見つかったようなその表情は、さっきまでの大人びたものとは違っていて年相応の子供らしい笑顔。

ななしくんは、いいお友達に恵まれているねぇ。


「ななしくんを捕獲したら、優しい子達まで釣り上げられた」

「僕たちは、友釣りの鮎ですか」

「あれ、友釣り知ってるの?」


絵を描いている二人を放って、辻くんと釣りの話に花が咲く。


そんなのんびりとした空気に、怪訝そうな声が響いたのはそれからしばらくしてからだった。


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