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31日目に君の手を。  作者: 篠宮 楓
12・13日目 アオ視点

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31/118

何も疑問に思わず、ただただ自分の感情のまま日々過ごしていた。

傍にいるあの人が、何を考えているのかなんて知る事さえしようとせずに――












「描く時は、無心だよ」


大学の部室で、私はにこやかに言い放った。

何も考えない。何も疑わない。

目に映り心に映り込むその風景その感情のまま、キャンバスにのせていく。

「でしょう?」

そう問い返すと、彼は目を細めて笑う。

「君が言うなら、そうなのかもしれないね。でも、もう少し自分の心を込めてみて?」

「心を込める? それ、最近ずっと言われてる気がする」

言われて少し考え込む。

一度自分の描いていたキャンバスを見てから、彼を見上げた。

椅子に座ったまま立っている彼と話しているから、どうも首が痛い。

そんな関係ない事を思い浮かべながら、それでも答えが見つからず首を傾げた。


「心なら、込めているつもりだけれど。おかしいかしら」

頬に手を当てると、冷たい感覚にすぐ離した。

何時もの事だ。

無意識に絵具のついている指で、顔を触ってしまう。

立っていた彼はくすりと笑って、指を伸ばす。

「絵を描き終える頃の君は、まるで絵具で化粧をしているような感じになりそうだね」

「後で洗うからいいの。でも……ねぇ? 私、心を込めて描いているつもりなんだけど……」

彼の発した言葉が、どうしても気になる。

「いつも言ってるけれど、自分で考えないと駄目だよ、ね? あぁ、僕用事があるからもう行くけれど、あまり遅くまで残らないようにね」

「え、あ……っ」

彼はぽんと、軽く私の頭に手をのせるとそのまま部室を出て行ってしまった。



音をたててしまったドアを見つめて、溜息をついた。


「分かんないよ、聖ちゃん」

ポツリ呟いてキャンバスに向き直ろうとした時、そばの机に置いてあった雑誌が目についた。

自分の名前が、でかでかと書かれている表紙に思わず眉根を寄せる。


「……他人に認められても、聖ちゃんに認めてもらえなきゃ意味ないよ」



ずっとずっと、私を見守ってくれた聖ちゃん。

聖ちゃんが背中を押してくれたから、頑張ってこられたのに。


学生の自分に浴びせられる分不相応な賞賛に竦んでいた私を、諭して前を向かせてくれた母方の従兄。

年は離れているけれど、幼い頃から仲のいい親戚だった。

けれど、ある日学校で描いた私の絵を見て、その関係は変わった。


私にはわからないけれど、聖ちゃんはなぜかその絵をものすごく褒めてくれた。

美大に進学していた聖ちゃんは、よくわからない専門用語を駆使して褒めてくれた。


よくわからなかったけれど、何を言ってるのかどこがいいのか全く分からなかったけれど。



それでも。



聖ちゃんに特別にみられることが、嬉しくてたまらなかった。

ずっとずっと抱いていた憧れに、希望が見えた瞬間だった。




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