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31日目に君の手を。  作者: 篠宮 楓
2日目 原田視点
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翌朝、高校の最寄り駅から自転車をこぎだした原田は、ぎしぎしする肩をゆっくりと回した。

先月高校は夏休みに入ったけれど、原田の所属しているバレー部は初日から練習が始まった。

朝の十時から夕方五時まで。

間に昼休憩と午後休憩を挟むけれど、それ以外は動いて動いて動きまくる。

一年生の体力づくりと夏の大会がメインといわれているが、県大会にさえ届かない成績のうちの部活にとっては、確実に前者が最優先事項。

もうすでに二週間、八月に入って少し経つけれど、まだ体力が伴わないのか走らされてへとへとになっていた後輩の姿が目に浮かぶ。

三年もやってりゃ、慣れるけどなぁ。


息を吐き出しながら、ハンドルを右に切る。



原田はバレー部に入った一年の夏休みから、体力づくりと称していつもはバス通学の高校まで、駅から自転車で通っていた。

そのために、終業式は五駅離れている自宅から自転車で来て、駅の駐輪場においていったのだから。

片道二十分。

結構な体力を使う。特に、足。

金の掛からない、俺的素晴らしい体力づくり。

いや、駐輪場の金がかかるか。まぁ、それも安いもんだ。


確かに疲れるけどな。

特に帰りとか。


土手に乗り上げて、ゆっくりと自転車をこいでいく。

視界に入ってくる、比較的大きな川。

朝の冷たい空気、たまにしかすれ違わない人。

その中を自転車で突っ切っていくのが、とても気持ちいい。

前回は春休みだったから、きれいに桜も咲いていた。

満開になる前に、始業式を迎えてバス通に戻ったけど。

今は、生い茂った緑の葉が、日の光に透けて眩しい。



「……ちょっと、考えがくさいか、俺」


たまに、ロマンチストとか突っ込まれる自分の思考に、苦笑する。

身長が無駄にでかい……いやバレーやってるからもっと欲しいところなんだけど、目の前に立つと威圧感を与えるらしい。

そして後ろに立つと、恐怖感を与えるらしい。

そんなあんたがロマンチストとか、似合わないし! ……とは、クラスの女の言葉。

余計なお世話だ。


「……そう言えば……」

ふと、昨日会った変な女を思い出した。

朝、今日と同じ様に自転車で土手を走っていた時に見かけた、ベンチに座る女。

生気のないような呆けた顔で、じっと川面を見ていた。

風景に見惚れてるのか、ただ呆けているだけなのか。

とりあえず俺には関係ないと、そのまま前を通り過ぎた。


そう、関係ないはずだった。


まさか、夕方帰りにここを通った時、まだいるとは思わなかったから。

驚いて、少し手前で自転車を止めて少し様子を伺っていたら。

違う意味で、驚いた。いや、焦った。


……泣いていた


声も出さず、ただ静かに涙だけ流してた。

その姿は、夕日に照らされて綺麗で。

思わず息を止めた……


そこまで考えて、頭を横に振る。

これだから、ロマンチストとか言われるんだっ。

俺の脳内には、乙女思考がこっそり住み着いてるのか?!

まぁ、ちょびっとだけ見惚れたことは認めよう。

でもそれもすぐ終わったけどなっ。

話しかけたら、すげぇ面倒な女だったから。

くそっ、心配じゃなくて、見惚れた俺の過去を消してくれ!



ふはぁぁと、息を大きく吐いて前に向きなおした俺の視界の端に映った、人影。



今思い出していた記憶に、登場していた女――

「……無視してみても、いいだろうか」

思わず、声に出して呟いてしまった。


昨日とは違って、土手じゃなく自分の庭の敷地内に座ってるようだったけど。

話しかけなきゃ、ちょっとしたいい思い出だったのに……


よし、無視だ。

うん。


原田は何も口に出さず納得すると、思いっきりペダルをこぐ足に力をこめた。

その女の前を何も言わず、通り過ぎる。


……


よしっ通り過ぎ……


少し通り過ぎたところで、ブレーキをかけて片足を地面につく。

そしてゆっくりと、後ろを振り返った。


「……」

「……」



目が、合った。



篠宮です。いつもお読み下さり、ありがとうございます。

力試しに、投稿している連載小説でアルファポリスの恋愛大賞に挑戦してみました。

投票は市民登録をしておられる方のみに限定されてしまうのですが、バナー表示でもポイントが入るようなので(たぶん…)どうぞよろしくお願いいたしますm--m

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