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31日目に君の手を。  作者: 篠宮 楓
8日目~11日目 原田視点

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26/118


食べ残してある、パン。

その横に、二段重ねのお重。

中に詰めてあったのだろう物の欠片……、竜田揚げの衣の欠片と油を吸った紙が敷き詰められている段。

その下も濡れているから、今夕飯として出されたものが入っていたのだろう。


そしてお重を入れようとしていたのだろう紙袋に、俺のタオル。

綺麗に畳まれて、青いタオルが入っていた。



ここに来た時。

夕飯の準備のために台所に入るのを、止められたこと。



そこから考えられることは。





「あれ?」


居間に戻ると、なぜか三人とも立ち上がって荷物を持っていて。

「ごちそーさまでした、おねーさん!」

「片づけは、ななしにさせてください!」

「突然、お邪魔しました」

三人三様の礼をアオに向けて言うと、頭を下げて縁側に出ていく。

いきなりの行動についていけずとりあえず後をついていくと、辻がにこやかに笑って原田の横に目を向けた。


「じゃ、ななしくんをよろしくね。おねーさん」

「はぁ?」

なんでヨロシクされてんの、俺。

いつの間にか傍に来ていたアオが、にっこり笑ってひらひらと手を振る。

「うん、よろしくされる」

帰り気を付けてね、そう続けたアオに他の二人も手を振った。


「ばいばい、おねーさん!」


そのまま三人は、自転車に乗って行ってしまった。





「なんだったんだ」

「なんだったんだろうねぇ」


思わず呟いた言葉に、アオの声も重なる。

くすりと笑ったアオが、原田を見上げた。


「いいお友達だねぇ」

「……そうか?」


純粋に問い返すと、そうだよとアオは頷いた。

「ななしくんが悪い女に騙されてないか、見に来たんでしょう?」

「悪い女って自覚があったのか!」

「面倒な女だなって自覚はある」


……それにもびっくりだ

っていうか、本当にあいつらそんなこと考えてたのか?

面白がって見に来た、の方がしっくりくるんだけど。


思わず否定の言葉を口にしようとしたが、原田はそれを止めて体を部屋の方に向けた。


「まぁ、いいや。残りはありがたく頂いていく」

そう言って、台所に入る。

そこにあるお重を手に、居間へと戻った。

「でも、食べ残しだよ?」

「いい、俺が全部食べるから」

そう言いながら、残っているおかずを端からお重に詰めていく。

どうせ、両親は今日も遅いのだ。

俺の分が一食うけば、喜びこそすれ怒る事はあるまい。



「重箱は、明日持ってくるがいいか?」

「明日?」

あらかた詰め終わってふたを閉めてから聞くと、アオは不思議そうに首を傾げた。

なんで不思議そうなんだ? もう来るなってか?

「そう、明日」

「でも、明日って部活休みなんでしょう? さっきの子達が言ってたけれど」

「……そうだった」

言われて気が付く、明日の予定。

明日休みで明後日は部活、その後盆休みに入る。


思いっきり明日の朝もアオの所に来ようとしてたとか、俺どんだけ……。


ちらりとアオを見てから、原田は差し出された大判クロスでお重を包みながら息を吐き出した。

「いや、来る。だから、あのパン残しといて」

「ななしくん?」

あのパンを食べに、お重を返しに。

理由をいくつも提示する。


アオに、会う為の。


その後、食器洗いを手伝ってから原田はアオの家を後にした。







台所で見た、紙袋とお重。タオル。

そして、パンの残り。

元々甘いもので食事を終わらせていたアオが三日間食べていた量も、そんなに多くなかった。

パンを無理して食べようとして、頑張りすぎたのだろう。




だから気付いた。


本当は俺と一緒に夕飯を食う予定だったのではなく、俺に持たせるために大量のおかずを作っていた事。

誰かにやるわけじゃなく、俺の為に。



それだけで、気持ちが軽くなっていく。


だから、気付いた。





「あー、マジかよ……」






今日の朝、部活中。

あれだけ違うと否定していたのに。




こい。





そう気付いてしまえば、何かしっくりくるこの感情。



まだよくわからないけど。

アオが、他の奴らの為に何かをするのは嫌だと思う。

アオが、他の奴らに何かされるのは嫌だと思う。


独占欲と言われればそうだけど、その根底は、もしかしたら。




……井上の言う通りなのかもしれない。




「いや、何かの勘違いって事もまだ……」



そんな乙女チックな事を考えながら帰宅の途に就いた、十八歳男子高生原田だった。

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