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31日目に君の手を。  作者: 篠宮 楓
8日目~11日目 原田視点

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「美味かったです、おねーさん!」

「あははー、この子いつまでこのテンション??」

「片づけ手伝いますね!」

「遠慮するわ」

「でも、準備も手伝ってないのに」

「台所は、女の聖域なのだよ!」


いつも二人でついている座卓に、むさい男三人追加中。

しかも部活が部活だけに、がたいのでかい奴が俺を含めて四人。


……うぜぇ


原田は内心ため息をつきつつ、山と積まれていた竜田揚げを口の中に放り込んだ。



あの後、各々アオに対して礼を口にしながら誰も遠慮という事をしなかった結果、男四人とアオというわけのわからない食卓を囲むことになった。

いつも通りノリのいい佐々木と井上が率先してアオに話しかけていて、それを微笑ましく眺める辻という光景が目の前で展開されている。

原田はと言えば、いつもの自分の場所に座りながらもなんとなく面白くない感情にもやもやとしていた。



なんでアオはこんなに警戒心がないんだ。


そのイラつきは、にこにこと笑いながら佐々木たちと喋っているアオに主に向けられていた。


初めて会う奴らだってのに、なんでそんなに普通に喋れるんだよ。

つーか、誰にでもこんなに愛想いいのか?

俺のいない間も、こんなに楽しそうなのか?


噛み締めた竜田揚げは、味が濃く、佐々木の言う様に生姜醤油で味付けしたんだろう。

美味い。美味いけれど。


目の前にこんもりと盛られた竜田揚げの量は、決して俺とアオの二人分ではない。

誰かが来る予定だったのか、誰かにあげる予定だったのか。



「ななしくん、聞いてる?」

「聞いてる」


思わず無表情のまま反射で答えてしまった。

聞いてない。全く聞いてない。

けれど、それをここで口にするのはまずいような気がする。

佐々木たちに遊ばれる。


アオは一瞬きょとんとした表情を浮かべたけれど、そっかぁと笑って箸でご飯をすくった。


……少ねぇ

箸の上に乗る、ほんの少しの白飯。

そのまま視線をずらせば、減っていないアオの前のおかず。

反対に、男四人の前にあるおかずはほぼない。

俺はまだ途中だが、他の三人はほとんど食べ終わっていた。

そりゃそうだろう。部活の後は腹が減る。


もう一度アオの手元に視線を戻せば、まだ口に入れられていない白飯。

そういえば、飯茶碗の中もほとんど減ってないな……


……あれ?



そこまで考えてから、ふと気が付いて立ち上がった。

「ななしくん?」

不思議そうなアオの声に何も言わず、そのまま台所へと足を向ける。

「なっななっ! ななしくん! そこは立ち入っちゃいけない聖域だよ!」

「朝入った」

慌てて立ち上がるアオを置いて、原田はさっさと台所へとつながる引き戸を開けた。


「……やっぱり」


そこには、朝、懐中最中の入ったお椀が置かれていたテーブル。

今、そこには。


「昼飯、無理したのか」


原田が置いて行った菓子パンが二つ、食べかけが一つ、袋に入ったまま置かれていた。

五つ置いていったから、二個半は食べたのだろう。

それを手に取りながら、アオを見下ろす。

ばつ悪そうに視線を逸らすその表情に、原田は息を吐き出した。

「悪い、俺が押し付けたからだな」

そう呟けば、焦ったように両手を振るアオ。

「そんな事ない! 全然ないよ、ななしくん!」

「そっか、うん。頑張ったんだな」

ぽんぽんと、頭を撫でる。

とたん、一瞬顔を歪めたアオが目を伏せた。

「なんでななしくんは、さらっとそういう事言うのかなぁ」

「アオ?」


俯いて口にした言葉は、原田の耳には届かない。

もごもごと何かを言っているアオの顔を、覗きこもうと上体を屈めた時。

「うん、頑張ったんだよ」

表情を一変させたアオが、にこりと笑いながら原田を見上げた。

少し驚いた原田だったが、すぐにそっかともう一度頷く。

「じゃあ、お茶でも飲んでろ。夕飯は無理して食うな」

頭を撫でたその手を背中に回して台所から出るように促すと、アオも何の抵抗もなく居間へと足を向ける。


原田はその後ろをついていきながら、もう一度台所を振り返った。



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