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31日目に君の手を。  作者: 篠宮 楓
8日目~11日目 原田視点

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「……」

なんとも気まずい感情のまま、原田はアオの家の近くにたたずんでいた。

あと十メートルくらいでアオの庭の前なのだが、どうしても先に進めない。


“監視だってぇ、やーらしー原田”

「違うっ」


脳内にぐるぐる回るのは、佐々木の声。

思わずそれに声を出して否定して、慌てて口を押えた。

とたんぐらつく自転車を、すんでのところで両手で押さえる。

スタンドを立てていないのだから、手を離せばそりゃ倒れる。

そんな事さえ思いつかないほど、原田は佐々木の言葉に憑りつかれていた。

「……今日は寄るの、よすか」

別に約束をしているわけじゃない。

中村先生と約束した食事監視も、昨日で終わってるんだし

そう決めて気づかれないように違う道を行こうと踵を返せばいいものの、それさえもできず原田は自転車を傍らに挙動不審全開男に陥っていた。


別に、佐々木の言うような意味で監視してたわけじゃないし……!

だから気にせず、飯食ったかーって顔出せば……。


アオの家の庭先に、目を向ける。

もしかしたら、また泣いてるかもしれない。

携帯が鳴って、アオが……


「あいつらが余計な口出しするから……っ」


誰が聞いても八つ当たりにしか聞こえない文句を口にした途端、横を数台の自転車が通り抜けた。

「口だけじゃないよぉ」

そんな声を残して。


「は?」


すり抜けて目の前を走っていく自転車は、三台。

制服を着ているその後ろ姿は……

さぁぁっと血の気が引いた原田は、勢いをつけて自転車に飛び乗った。

「おっお前ら! 待てっ、何する気だぁぁっ!!」

なんであいつらがチャリに乗ってる!!

しかも、何処に行こうとしてやがる!

慌てて追いかける原田をしり目に、三台の自転車はそのままアオの家の庭先に乗り入れて停めた。


「こんにちはーっ」

「初めましてーっ」

「失礼します」


三人三様の挨拶を口にしながら、縁側へと歩いていく。

原田は自転車のスタンドを立てる事さえせずに乗り捨てると、その後を追った。

「はーい?」

三人の声が聞こえたのか、台所に繋がるドアから姿を現したアオが驚いたように目を見張る。

「え、何ごと?」

さすがの不思議女も驚くような、不思議光景だったらしい。

そりゃそうだ。見も知らない男子高生が、庭先に入ってくれば。


縁側に辿り着いた三人の後ろから駆け寄った原田は、手近にあった佐々木の首に腕を回した。

「お前らなんでここにいるんだよ、帰りか? 帰り途中だよな!? よし、駅まで連行してやろう!」

そう言いながら引きずって行こうと力をこめたら、井上が爆弾を落としやがった。


「こいつに監視されてるんですか?」

「だぁぁぁっ!」

あまりの驚きに佐々木を拘束している腕から力が抜けて、緩んだその瞬間を逃さず奴は腕を振りほどいて縁側に両手をついた。

「おねーさん、いい匂いです!」

「……変態?」

コテンと首を傾げたアオが佐々木を指さして原田を見て、それに答えた声は違う言葉で同じ意味三人分だった。


「変態」

「間違いなく」

「その通り」


返ってきた言葉に、思わずアオが笑う。

「あはは、面白いねぇ。ななしくんの友達」

「あ」

次に発せられたのは、異口同音。

「「「ななしくん??」」」

三人の疑問の声。


そりゃそうだ。

いきなりななしくんとか呼ばれてれば。


「えーと、……お前、ななしなの?」

首を傾げながら聞いてきたのは、一番冷静な辻。

けれどそれに答えたのは、アオだった。

「うん、ななしくん。ねぇ、いい匂いなら上がっていく?」

辻に答えていたアオの言葉は、途中から佐々木に向けられた。

「上がらせて頂きます!」

「って、ちょっと待て!」

なんの遠慮もなく上がり込もうとする佐々木の襟を掴んで、グイッとひっぱる。

「変態を簡単に部屋に上げるんじゃない! 警戒心を持て警戒心を!!」

アオにそう叫べば、一瞬驚いた表情を浮かべたもののすぐに面白そうに笑い声をあげた。


「パンのお礼に夕ご飯作って待ってたんだよ。君、それの匂いでしょ?」

「はい! とりの竜田揚げとみました! 生姜醤油、味濃いめ!」

「……ある意味怖いわ、この子」


……匂いって、飯の事かよ……


脱力して掴んでいた襟を離すと、縁側に上がった佐々木がにんまりと俺を見下ろした。



「何の匂いだと思ったのぉぉ?」


「……っ」


その言葉に、他の三人もいい玩具を見つけたかのようににやりと口端を上げる。


「「「「ななしくんってば、やーらしー」」」」

「うるせぇっ! アオまで!」



今日一日、夢にまで見そうだなと内心原田はため息をついた。


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