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31日目に君の手を。  作者: 篠宮 楓
8日目~11日目 原田視点

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23/118

体育館を出たすぐ横にある水飲み場に、佐々木はいた。


傍に駆け寄って、頭を下げる。

「ごめん、気を付ける」

「そだな、気を付けて」

たったそれだけ言うと、佐々木は蛇口をひねって水を出した。

「あちーな、しかし」

水を両手で受けて、ばしゃばしゃと顔を洗う。

原田はその姿をじっと見つめ、肩を落とした。

「本当に悪かった。少し、頭冷やしてく……ぐぇ」

申し訳なさそうに言った原田の言葉が、不自然に途中で途切れた。

不自然な、呻き声と共に。


首にひっかけるように回された腕を掴んで振り返れば、ニヤニヤと笑う井上の姿。

「んでー? 何考えてたわけぇ?」

「は? お前には関係な……」

「言え。言えば許す。言わねば許さぬ、恋の道」


「……」


こ・い?


呆気にとられた俺の前で、後から来た辻が何言ってんだかと井上を小突いた。

「なんで俳句、意味わかんない」

「いやぁ、最近土方歳三にはまって。よくねぇ? しれば迷い しなければ迷わぬ 恋の道☆ もじってみました」

「なんか、もじり方がわかんない……」


二人の言い合いが続いていたが、それさえ頭に入ってこない状態で井上の言葉を反芻していた。



恋って、俺がアオに?



いや、違うだろ。まったくもって違うだろ。

ただ、ほら中村先生に食事改善の監視を命じられただけで。

ちゃんとアオにも、“監視されたいのか?”って言ったし。

監視してるだけで、会いたくて会いに行ってるわけじゃ……

そうだ! 恋愛感情なんて、無いはず……!


愕然としている俺をそっちのけで、辻と井上の言い合いは佐々木も加えてなぜかヒートアップしている。


「大体、現国も古文もできない癖に、いちいちそういうのに例えるのが面倒くさい」

「うるせーなぁ。辻は潔癖すぎんだって。俺の事なんだから、どーだっていーだろーよ。お前は俺の監視員か」

「はぁ? 監視なんてしないよ。面倒くさい」

「っていうか、監視するとかされるとか、やーらしー♪」



へ?


思わず、聞き流していた三人の会話に思考がストップした。


「監視がやらしい?」

そういえば、アオもそんな事言ってたな。

原田が口にした問いを聞いて首を傾げつつ、佐々木がそれに答えた。

ニヤリという、悪魔の笑みを浮かべて。



「なにお前、あのおねーさん監視してるわけ?」

間違っていない。監視してた。

けど、なんか頷いてはならないという本能的危機感が!!

是も否も言わない原田に、ますます笑みを深める。

「それで心ここに非ずって? やーらしー、原田やらしー」

「いや、別に監視なんてしてないけど。それとやらしいと、何にも関係ないと思ってだなっ」

否定の言葉がやっと口から出たけれど、遅かったらしい。

いつの間にか言い合っていた辻と井上まで、こっちを見てにまにまと笑ってる。


「あのな、原田。いいか、よく聞けよ?」

「お、おう」


佐々木は人差し指を立てて、にっこりと笑った。


「“おねーさんを監視してる、原田です”。はい、脳内で繰り返してみ」


アオを、監視してる、俺?

アオを監視……


ようやっと佐々木が言いたい意味が分かって、一気に顔に血が上る。


「伝わってくる意味は、どー考えてもぴんくだろ!!」


佐々木のどや顔に、原田は地面に突っ伏した。

コンクリートだったのは幸いか。

頭の上では、うひゃひゃひゃと笑い声をあげる三人が自分を見下ろしているのが分かる。



うあぁぁぁぁっ!

そういう事か! そういう事か!!




「……何してるの? 原田くん」

少しして聞こえてきた岸田の声に、原田はびくりと肩を揺らして上体を起こした。

佐々木に何を言われるか!

慌てた原田より先に、佐々木が口を開いた。

「原田がやらしーのが発覚☆」

「は?」

「ちょっ、待て! 佐々木!」

逃げ出した佐々木を追いかけていく原田を見ながら、岸田が傍にいた辻を見た。


「なんなの、一体」

不思議そうな表情の岸田に、辻は肩を竦めて困ったように笑う。

「いつものじゃれあいだよ。ホント、子供だから」

「……?」

なんでもないように言い切られたその言葉に、首を傾げて岸田は原田へと視線を戻した。



それを見ながら辻と井上が何かアイコンタクトをしていたのは、他の三人のあずかり知らない事実。

はい、ストック切れました<(_ _)>

少しもぐります、すみません。


土方歳三の句集、豊玉集より、下記引用しています

しれば迷い しなければ迷わぬ 恋の道

ちなみに私は「梅の花 一輪咲てもうめはうめ」好きです(笑

合理主義というか端的というか、「うんその通り」と思って頷いてしまいました^^

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