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31日目に君の手を。  作者: 篠宮 楓
5日目~7日目 アオ視点

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翌日もななしくんに目を光らされながらの食事を取り、そして三日目。

ご飯監視員ななしくんの契約終了日、彼が朝食をとって部活へと行った後。


うちにあった白いタオルと引き換えに貰った(奪い去ったともいう)ななしくんの青いタオルを縁側の軒先にひっかけて、ここ数日の習慣ともいえるように青色でスケッチブックいっぱいに塗り潰していた。


だんだん、霧が晴れるように頭がクリアになっていく。

まだ思うところはあるけれど、それでも心がだんだんと穏やかになっていくのが自分でもわかった。


「ななしくん効果」

口うるさいななしくんを前にすると、……脳裏に思い浮かべると、胸に巣食うもやもやを思い出さないのだ。


だって、凄いと思う。

赤の他人……しかも自分でも分かってるけど、絶対私は面倒な女だ。

それなのに、たった数日の私の為にここまでやってくれるなんて。


ななしくんは、世話焼きオカンだけど。

ちゃんと私を見てくれる。

私自身を見てくれる。


だから、なのかな。


「あぁ、今日も綺麗な青だね」

濃淡、そして微妙な色合いの差。

初日は何の色も描けなかったけれど、たった数日で綺麗が増えている。

「ななしくん効果~♪」

もう一度呟いて、私は没頭していった。








無心に色を描いていた私は、部屋の隅に転がしておいた携帯が唸りだして、驚いて飛び上がった。

「えっえっ?」

驚いて音の発生源を見てから、外へと視線を走らせる。

青かった空が、すでにオレンジへと色を変え始めていた。

慌てて掛け時計を見れば、ななしくんが戻るまでそんなに時間がない。

やばい、ご飯! 怒られる!

そこまで把握してから、もう一度携帯に目を向けた。


「凄い音」

マナーモードにしておいたから、板敷きの床の間の上でものすごい音を上げたのだ。

音楽にした方が煩くないかもなぁ……

そんな事を考えながら、慌てることなくゆっくりと携帯へと足を向けた。


どうせ、かかってくるヒトは限られてるんだから。


母親か、教授か、もしくは講師か。

サブディスプレイを見るのも面倒で、誰からかと確認もせずに通話ボタンを押した。

「はいはい」

適当に返事をして、縁側へと踵を返す。

今からご飯を作るのは間に合わないかもだけど、せめて帰ってくるななしくんを出迎えてあげよう。

うしし……と、内心女らしからぬ笑いを上げながら縁側に座ろうとした私の耳に流れてきたのは。


{……やっと、出てくれた}


私の動きを止めるのに、充分なものだった。


携帯から流れたその声に、なぜ相手を確認してから出なかったのかと呆然となる。

頭から足元へと血が勢いよく引いていくのが、痺れそうな感覚で体を襲った。



優しく私を呼んでいた声は、私を包んでいてくれていた声は。


私を色のない世界に引き込む、恐ろしいものに変わっていた。


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