私、後釜狙ってます! いけいけおせおせ(▼∀▼)ニヤリッ
目の前の光景に呆然としていても、そんなの他の人達には関係なくて。
すれ違う人が肩にぶつかって、意識が戻った。
「あ、気づいた」
隣で中野さんがのほほんとそんなことを言っているけれど、それを無視して私の体は無意識に動き出した。
主任の元へ。
助けた女性の腕を掴んだまま何かをこんこんと説教をしている原田主任に、後ろから声をかける。
「原田主任、今お帰りですか?」
「……?」
不思議そうな表情で振り向いた原田主任は、私を認めると微かに眉間に皺を寄せた。
ちょっとくじけそうになったけど顔に力を入れて、表情が崩れないように頑張る。
「あぁ……八坂さん達、まだ帰ってなかったんだな」
「はい、今からご飯でもって話していたんです。一緒にいかがですか?」
原田主任の眉間のシワが、おもいっきり深くなった。
そんな原田主任をじっと見ていたら、その隣からほやんとした今この場にそぐわない声が上がった。
「な……、原田くん。そしたら、私、戻ってようか?」
……原田くん?
呆気にとられているのは私だけじゃないらしい。
眉間に皺をよせていた原田主任も、その表情をどこかに置き忘れたようにぽかんと隣の女性を見下ろした。
「アオ?」
問いかけた名前に、その人……アオさんはにへらと笑って私を見る。
「初めまして、高坂といいます。な……、原田くんの同僚の方ですか?」
挨拶をしてくれているというのに、思わずぴくりと口端が引きつったのはお願い許して。
さっきからいちいち「な」を名前の前に言い間違えるの、私への牽制ですかそうですか。
原田主任の事、いつもお名前で呼んでるわけですね。
直哉さんと。だからさっきから、「な」ばっかり……。
ちょっとだけ挫けそうになっていた私の嫉妬心は、一気に燃え上がった。
もし原田主任の彼女に会うことがあったら、そんなことを考えて何度も繰り返したシュミレーション。
それを今こそ発揮する時よ!
私は口端を上げて表情に余裕をのせて、軽く会釈をした。
「はい、私は八坂と申します。原田主任にはとてもお世話になっています。もしよろしければ、彼女さんも一緒にいかがですか?」
後ろで吹き出す声が聞こえたけれど、気にしなーい。
あくまで、彼女さんがおまけだから!
私じゃないから!
「……八坂さん」
きょとんとしている彼女さんには、私の意図が通じていないらしい。
けれど原田主任には通じているみたいで、心持ち低い声が私を呼んだ。
「はい、なんですか原田主任」
明るく笑顔で問い返せば、困ったように眉間に皺を寄せる原田主任の姿。
少し逡巡した後、ため息をついて私を見る。
「……自宅に夕飯の用意ができてるから、悪いけど」
それこそ大歓迎!!
私は今までの不遜な態度を改めるかのように、彼女さんに笑いかける。
「彼女さんの手料理ですか! 羨ましい! 是非、私もご一緒したいです!」
「「は?」」
原田主任と中野さんの声が重なる。
けれど彼女さんはぱちぱちと瞬きをするだけで、嫌ともいいともなにもその表情からは読み取れない。
それをいいことに、ぎゅっと彼女さんの両手を握った。
「原田主任のお弁当、いつも美味しそうだと思っていたんです! でも、欲しいって言ってもくださいませんし。是非、頂きたいです!!」
軽く、いつも一緒にお昼ご飯を食べてますアピール!!
本当は、数えるだけだけどね! 私が騙してね!
「……」
彼女さんは私と握られている自分の手を幾度か視線を往復させてから、私を見上げた。
「私のご飯でよければ」
にっこりと満面の笑み付きで。
「……」
青筋たったかと思った、私。
ナニコレ、余裕? 余裕ですか、私なんか歯牙にかけるほどでもないと。
へーほーふーん。
「アオ」
少し焦ったような原田主任の声に、彼女さんは不思議そうに首を傾げる。
「大丈夫だよ、たくさん作ってあるから。明日来る佐々木君たちの分がなくなるだけで」
「それはいいけど、それにしたって……」
「ありがとうございます! 嬉しいです!」
原田主任が何か言う前に、それを遮るように声を上げた。
「ささ、そうと決まれば早く行きましょう! ね、中野さん!」
くるりと振り向いて笑いかければ、巻き込まれるわけぇ……という中野さんのボヤキが聞こえてきたけど全力でスルーした。
アオは、ななしくんと呼びたいだけ……(笑




