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31日目に君の手を。  作者: 篠宮 楓
番外編

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私、後釜狙ってます! 遭遇。

長いので、お時間のある時にお読みいただければ嬉しいです^^

「ずーっと私がしゃべってばっかだったけど、幸せでした~」

主任から頼まれた仕事を私に流してくれた中野さんと、お礼方々終業後に夕飯を食べに来ていた。


私達は営業部のサポートを担当する、営業事務課に所属している。

雑貨をメインに扱っている私達の会社は営業部の中が三課に分けられていて、原田主任が属しているのは法人営業課、通称二課。

私が属しているのは営業推進課という三課で、有体に言えば一・二課の営業サポートがメイン。

営業部にいるけれど、営業をするのではなくそのサポート。

で、私はその推進課のサポートなので、忙しければ一・二課の手伝うのも業務として課せられている。

故に今回の原田主任のお手伝いは、誰にも文句言われないんだよね。

別に競争率高い人じゃないし。


テーブルを挟んで赤ワインのグラスをくるくる回して遊んでいる中野さんは、二課担当の営業事務。

私より五つ年上の中野さんは原田主任にとっても先輩にあたるから、今日みたいなことがあっても文句が言えないらしい。

原田主任は体育会系の部活だったらしくて、中々上下関係にうるさいらしく融通が利かないとたまに噂で聞く。

でも筋を通す人だからか不思議と嫌悪されることもなく、かといってものすごい好意を向けられるわけでもなく、原田主任大好きーな私にとってはとてもいい人間関係を築いてくれちゃってるのだ。


赤ワインくるくるに飽きたのか、中野さんはグラスをテーブルに戻すと頬杖をついて私を見た。

「あのさー、原田のどこがそんなにいいの?」

憂いを含んだその表情、素敵です中野さん!

という内心の雄叫びは置いといて、私はずいっと身を乗り出す。

「全部です!」

私の勢いに押されたように一度口を噤んだ中野さんは、小さく首を傾げる。

「全部……ねぇ。まぁうん。あんたの言うこともわからんでもないのよ、見た目はあれだけど付き合えばすごくいい奴だってわかるし」

「見た目もいいです!」

「あぁ……まぁ、悪かないよね。眉間に皺寄せてても無表情ばっかりで威圧感ばりばりでも、ある程度整っているといえば、うん」

「どんだけ上から目線!」

私のツッコミに中野さんは頬杖をやめて、椅子に背をもたせかけた。

「いや、どっちかというと原田の友達の辻さんという人が私的好みで。並んでるところ見たら、なんかもう……ねぇ?」

あんたも見たことあるでしょ? と続けられた言葉に頷く。


確かに一度見たことはある。

たまたま新規取引先の営業窓口が、その辻さんだった。

挨拶にみえた辻さんを見た途端、原田主任の口がぱっかりあいて唖然として……可愛かったなぁ。

辻さんはそうなることを見越して、原田主任に内緒にしていたみたいだけど。


つらつらと脳内で辻さんのことを思い出してから、中野さんに視線を戻した。

「確かに優しそうで王子さまっぽい外見の人でしたけど」

少女漫画ならバラしょってそうな感じの、二十歳後半とは思えない人だった。

「でも、あの人、絶対お腹の中真っ黒だと思います」

「……やめて。私の理想像を崩さないで」

「それに、もう結婚してるそうじゃないですか」

「好みの話よ。それを言うなら、原田だって同棲してる彼女いるでしょ?」

「結婚と同棲は違います! 別れちゃえば解消できるんですよ!」

思わず立ち上がって声を上げた私は、半個室のお店とはいえさすがに目立ったらしく店員さんにちらりと見られて慌てて座る。

そんな私を呆れたように中野さんはため息をついて、ワイングラスをあけた。

「別れちゃえばっていってもねぇ。原田達、同棲は四年でも付き合いは七・八年になるはずよ?」

「遅すぎた春って言葉知ってますか?」

「……ああいえばこういう……。まったく、原田も面倒な後輩に目をつけられたものね。まぁ、頑張ってみなさいな。あんたのその無鉄砲無計画な性格、嫌いじゃないわ」

そう言って、席を立つ。

続くように椅子から腰を上げると、歩き出した中野さんの後ろを追った。

「中野さんは私の味方ですもんね。これからも応援よろしくですよ!」

会計を済ませて外に出れば、初夏の暖かい風がふわりと春コートを揺らす。

中野さんは後ろを歩く私に視線を向けると、小さく肩を竦めた。


「別に味方じゃないわよ、ただ見てるのが面白いだけ。どうせ諦めなさいって言ってもいうこと聞かないだろうから、見事玉砕して次の恋に行きなさいな」

「酷い! 素敵! ありがとうございます!」

なんなのよそれ……、中野さんの乾いた笑いに私は満面の笑みを返した。



駅までの道のりを、中野さんとしゃべりながら歩く。

話題なんて簡単なものだ。

仕事の話や夏コーデ、社内の噂。

ほぼ私が話題を上げている気がするけれど、脳内は原田主任でいっぱい。

私達が会社を出る時も、まだデスクにいた主任。

差し入れとか持っていったら、受け取ってくれるかなぁ。


そんなことを考えていた私の視界に、ちょうど会社から出てくる原田主任の姿が映った。


「原田主任だ!」

「え、は? あらほんと」


いやんもー、これって愛の力? 愛の力だよね!?

ちらりと腕時計を見れば、まだ時間は八時前。

食事に誘ってもいい時間だよね!?


「いや、あんた今食べたばかりじゃない」

どうやら心の声が口から駄々漏れだったらしく、中野さんが呆れたように首を傾げた。

私は、大丈夫! と拳を握る。

「原田主任とご飯食べられるなら、二食とかちょろいです! むしろお腹すきました、がっつりすきました! ご馳走様です!」

「……あんた、いったい何に対してご馳走様とか……」

「行きますよ! 中野さんがいれば、原田主任も嫌とは言えまい!」

「えー、私ってば巻き込まれるわけー」

ぶつぶつ言う中野さんの手を掴んで、早足で原田主任に近づく。

会社を出たところできょろきょろと周囲を見回しているのは、きっと私を探しているのですね!

「わけないでしょ」

「心の歓喜に答えないでください」

「なら口閉じなさい」

嫌です!


あと数メートルの所まできて声を掛けようと口を開いた、その時。

「原田しゅ……」

「アオ!」

周囲を見渡していた原田主任が、一直線に走りだした。

それは本当に一瞬の出来事で。

次の瞬間には、転びそうになった女の人をすんでのところで支えていた。


「あらまー」

私の隣では、中野さんがのんびりとした声を上げていて。

私の心の中は呆然とその姿を映していた。


「まったく、あんたはいくつになっても危ないな! 動くときは細心の注意を払え。手首足首、その後行動だって昔から言ってるだろう!」


原田主任の焦った顔。怒鳴る声。でも……


「アオ、怪我してないか?」


優しさの混じった、甘い声。


私が聞いたことのない、見たことのない、原田主任がそこにいた。

アオは、大人になってもアオでした^m^

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