表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31日目に君の手を。  作者: 篠宮 楓
1日目 アオ視点
1/118

 目を上げれば、真っ青な空。

 前を見れば、キラキラ光る水面。

 ゆっくりと流れる川には、のんびりと鴨が浮いていて。

 岸には背の高い草が、たまに吹く風に緩やかに揺れている。



 世界は、こんなに綺麗なのに。

 世界は、こんなに明るいのに。


 

 私は、色の抜け落ちた世界にいる――






 暖かだった風が、少しずつ冷たい風に変わる。何も考えずにぼうっとしていた意識が、ゆっくりと頭をもたげた。



 どのくらい、ここにいるのだろう。

 時間の感覚さえ、分からない。


 明るかった風景が、どんどんと翳りを帯びる。綺麗な青だった空が、濃いオレンジに変わっていく。






「……やる」





 その言葉とともに、無音の世界から現実に引き戻された。そして、鈍っていた感覚が呼び起こされる。



「――え?」



 風景だけだった視界が、急速に傍にいる人影を目に映した。



 ……高校生?



 すぐ横に、自転車を傍らに持った男子高生が立っていた。目が合うと、その子は目を細めて私の手元を見る。

「とりあえず、拭けば?」

「は?」

 拭く?

 手元に視線を落とすと、そこにはペットボトルの紅茶とスポーツタオルが一枚。それを確認してからもう一度その子を見上げると、いいから拭け、と無言で威圧された。


 拭くって……


 意味が解らないままタオルを手に取って首を傾げると、その手の甲にぽつりと冷たいものが落ちた。

「え……?」

 それを見つめていたら頭の上からため息が聞こえて、タオルを奪われる。

「?」

 思わずそのタオルの行方を視線で追うと、突然視界が真っ白に変わった。そのままぐいっと顔を拭かれて、タオルが視界から消えて、膝の上にふわりとそれが落とされる。

「なに?」

 いきなりの行動に瞬きを繰り返しながらその子を見上げると、呆れたような声が振ってきた。


「何って、こんな所で泣きながら呆けてる女の方に、俺は聞きたいね。もし動いた記憶がないなら、半日はそこにいると思うんだけど。あんた、気付いてるわけ?」

「半日?」

 鸚鵡返しに答えてから、ゆっくりと頷いた。

「……あぁ、それくらいになるかも」

 だって今はもう暗くなってきてるけど、さっきまで真っ青な空だったもの。

 私の返答に、やっぱり……とため息をつかれた。


「何があったか知らないけどさぁ、とりあえずそれ飲んで家帰りなよ。一応女なんだから」

 一応女……、その言葉に、なるほどと頷く。私の顔なんて、そこらへんにいそうなアレだもんね。

「いや、そこで頷かれても困るんだけど。つーか、俺、面倒な女に声掛けたなぁ。とにかくもう帰れよ。このままここにいて、なんかあったら俺が気分悪い」


 不機嫌そうに顔を顰めるその子を見ながら、私は軽く握った拳を口元に当てた。

「あー。どこの誰とも分からないそこの君」

 名前を知らないから。

「――別にいいけどムカツクな、なんか」


 いいならいいじゃないか。

 そう心の中で反論しながら、ペットボトルを持って立ち上がる。思いの外、上の方にある顔を見上げて頭を下げた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ