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同じく、翔太が自殺した翌朝。
和也は会社の椅子を2つ使い、横たわって寝ていた。仕事はもう終わっている。
それは翔太の通夜の為でもある。
和也はゆっくり起き上がり、ふわぁとあくびをし、パソコンを閉じて帰宅しようとしたら、マナーモードにしておいた携帯がブブッと震えた。雅美からのメールだ。
『ニュースを見て』
和也はしょうがなく、頭をボリボリ掻きながら喫煙室のテレビを付けると、翔太の死体発見現場をニュースキャスター が歩き回りながら翔太の死体の状況を説明しているのが映っていた。
次に献花台が映し出され、たくさんの献花が置いてある事を証明し、『翔太くんは人に愛された人間』というオチが付け加えられた。
くだらない、どうせいじめなんだ。
和也はその理由しか考えられないと断定し、テレビを消した。
和也が喫煙室から出ると、後輩の同僚がもう出勤していた。
「先輩早いですね」
「ああ、泊まってた」
「すごいですね。あ、爪の垢くださいよ。煎じて飲みますので」
「努力だ。努力」
「そうですよね、はは」
後輩が自分の机に向かう時。
「頑張りすぎもどうかと思いますけど」
とこぼした。
和也は聞いてない振りをしている自分に腹が立っていた。
「じゃあ、ここでよろしいでしょうか?」
「はい、お願いします」
葬儀屋によって運ばれた翔太の遺体は、リビングの隣の和室にあらかじめ敷いておいた布団に寝かせ、雅美が布団を掛けた。翔太の首には、傷跡が見えないように、純白の包帯が巻かれていた。
私の目の前で寝ている翔太は、もう起きない。理論上、翔太はもう生きている証明を失った人間。それがただ私が産んだ子だっただけ。
雅美にはそんな思いしか産まれなかった。
その夜、また新しい利用者リストをインプットするためにパソコンにデータを打ち込んでいる和也に、また新たなメールが来た。雅美からだった。
和也がうざったそうに携帯を開くと、メールの内容からたった一言こう書いてあった。
『今日お通夜だから帰って来て』
そのメールを見た途端、和也はキーボードを指先から手のひら、手のひらから拳に変え、バンバン叩き出した。
「なんだよ…!死人の隣に寝るために帰って来い!?ふざけんな!!」
和也は八つ当たりするように、パソコンを両手で強く突き飛ばし、壊れたのか液晶画面は真っ暗になった。
一人息子の自殺という落書きを、仕事 という消しゴムで消していたが、雅美のメールというボールペンで、和也に翔太が自殺したというデータがセーブされた。