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第1章『再会編:未完成の少女と、捨てられた黒翼の王』

第1話:俺の創作キャラが異世界でラスボス化していた

俺がその世界に落ちた瞬間、まず感じたのは“懐かしさ”だった。

見覚えのある森。見覚えのある空。見覚えのある魔力の流れ。

そして、胸の奥がざわつくような、嫌な予感。

――ここは、俺が十七歳の頃に描いていた“黒歴史ファンタジー”の世界だ。

信じたくないが、目の前の景色が証明している。

木々の形、空の色、地面の質感。全部、俺がノートに描いた通りだ。

「……マジかよ。よりによって、あの世界か」

俺は二十代半ばの社会人。

仕事に追われ、創作からは遠ざかっていた。

だが、十代の頃は違った。

毎日ノートにキャラを描き、設定を作り、世界を作り、物語を紡いでいた。

その中心にいたのが――

《黒翼の魔導王ルシフェル》

俺が生涯で最も愛した創作キャラ。

そして、最も“痛い”キャラでもある。

黒い翼。

絶対魔法。

孤高の王。

世界を滅ぼすほどの力を持ちながら、孤独に苛まれる悲劇の魔王。

十七歳の俺は、そんなキャラに全力で入れ込んでいた。

「いやいや、まさか……いるわけないだろ」

そう呟いた瞬間だった。

空が裂けた。

黒い光が降り注ぎ、世界が震える。

風が逆巻き、木々がざわめき、地面が震動する。

そして――

「……久しいな、創造主」

空から降り立ったのは、黒い翼を広げた青年だった。

漆黒の髪。

血のように赤い瞳。

冷たい美貌。

そして、背中に広がる二枚の黒翼。

間違いない。

こいつは――

俺の創作キャラ、ルシフェルだ。

十七歳の俺が、寝る間も惜しんで描き続けた“推し”。

俺の黒歴史の象徴。

そして、今は目の前に実体として存在している。

「……なんで、お前がここに」

「問うのは私の方だ、創造主。なぜ、今さら姿を現した?」

声が低く、冷たく、そしてどこか怒っている。

嫌な汗が背中を伝う。

――やばい。

十七歳の俺は、ルシフェルを“世界を滅ぼす魔王”として設定していた。

しかも、創造主を恨んでいるという設定までつけていた。

完全に黒歴史だ。

だが、今はそれが現実になっている。

「お前のせいで、私はこの世界に閉じ込められた」

ルシフェルが一歩、こちらへ踏み出す。

そのたびに地面が黒く染まり、魔力が渦巻く。

「お前が描いた設定のせいで、私は“滅びの王”として生まれた。

お前が作った世界で、お前が決めた運命を背負わされ、

お前が放棄した物語の中で、永遠に孤独を味わった」

胸が痛む。

十七歳の俺は、そんなこと考えもしなかった。

「……悪かった。そんなつもりじゃ――」

「黙れ」

黒い魔力が空気を裂く。

ルシフェルの瞳が、怒りと悲しみで揺れている。

「創造主よ。お前を許すつもりはない。

だが――お前を殺せば、私は自由になれる」

黒い魔法陣が展開される。

空気が震え、世界が軋む。

――まずい。

十七歳の俺は、ルシフェルに“絶対魔法”というチートを与えていた。

発動すれば、俺なんて一瞬で消し飛ぶ。

だが。

俺には、ルシフェルの“弱点”を全部知っているというチートがある。

十七歳の俺が、ノートにびっしり書いた設定。

その中に――

「絶対魔法は、詠唱の最後の一文字を変えると暴発する」

という、今思えば意味不明な弱点があった。

ルシフェルが詠唱を始める。

「――闇よ、我が敵を――」

俺は叫んだ。

「最後の一文字、間違ってるぞ!」

ルシフェルの動きが止まる。

「……何?」

「“滅せよ”じゃなくて、“滅ぼせ”だろ。お前の魔法、詠唱ミスると暴発する設定だったじゃん」

ルシフェルの瞳が揺れる。

「……そんな設定、私は知らない」

「そりゃそうだ。俺が勝手に書いたんだから」

次の瞬間。

ルシフェルの魔法陣が暴発した。

黒い光が逆流し、ルシフェル自身を吹き飛ばす。

地面が抉れ、森が揺れ、空が震える。

ルシフェルは膝をつき、苦しげに息を吐いた。

「……創造主のくせに……なぜ、そんな……」

「作者だからだよ。お前の弱点は全部知ってる」

俺はゆっくりと歩み寄り、倒れたルシフェルを見下ろす。

ルシフェルは悔しそうに、しかしどこか寂しげに呟いた。

「……やはり、お前は……私の上位存在……」

「違う。俺はただの凡人だよ」

「ならば……なぜ……私を……」

言葉が途切れる。

ルシフェルはそのまま意識を失った。

俺は深く息を吐いた。

「……最悪の再会だな、ルシフェル」

だが、胸の奥には奇妙な感情が渦巻いていた。

懐かしさ。

後悔。

そして――

もう一度、こいつの物語を書き直したいという衝動。

俺は倒れたルシフェルを見つめながら呟いた。

「……今度は、ちゃんと向き合うよ。

お前の物語を、最後まで書くために」


________________________________________

第2話:創造主拒絶 ― ルシフェルの覚醒と宣戦布告

ルシフェルが倒れた森の中は、異様な静けさに包まれていた。

黒い魔力の残滓が空気を震わせ、焦げた地面から煙が立ち上る。

俺はしばらくその場に立ち尽くしていた。

十七歳の頃に描いた“黒歴史キャラ”が、今こうして目の前にいる。

しかも、俺を殺そうとして。

「……どうして、こうなったんだよ」

呟いても答えは返ってこない。

だが、倒れたルシフェルの表情は、怒りよりも――孤独に近かった。

俺はしゃがみ込み、彼の顔を覗き込む。

「お前……ずっと一人だったのか」

十七歳の俺は、ルシフェルを“孤独な魔王”として設定した。

仲間もいない。

理解者もいない。

世界から恐れられ、憎まれ、戦い続ける存在。

その設定を、俺は途中で放り出した。

――物語を完結させなかった。

その結果、ルシフェルは“永遠に孤独な魔王”として、この世界に取り残されたのだ。

「……悪かった。本当に」

謝罪の言葉は、風に消えた。

そのとき――

ルシフェルの指が、ぴくりと動いた。

「っ……!」

俺は反射的に後ろへ飛び退く。

次の瞬間、黒い魔力が爆ぜ、ルシフェルがゆっくりと立ち上がった。

赤い瞳が、俺を射抜く。

「……創造主。なぜ、私を助けた」

「助けたっていうか……放っておけなかっただけだよ」

「愚かだな。私はお前を殺そうとしたのだぞ」

「知ってる。でも……お前を見捨てるのは、もっと嫌だった」

ルシフェルの眉がわずかに動く。

怒りでも憎しみでもない、別の感情が揺れている。

「……創造主よ。お前は、私を“救う”つもりか?」

「救うっていうか……もう一度、ちゃんと向き合いたいだけだ」

「向き合う……?」

ルシフェルはゆっくりと翼を広げた。

黒い羽が舞い、空気が震える。

「ならば、証明してみせろ」

「証明?」

「私の運命を変えられるというのなら――」

ルシフェルの魔力が爆発した。

「まずは、この世界で生き延びてみせろ!」

黒い光が奔り、地面が裂ける。

俺はとっさに飛び退き、木の陰に身を隠す。

「おいおい、いきなり殺しに来るのかよ!」

「当然だ。創造主が“私の物語を書き直す”など、信じられるはずがない」

ルシフェルの声は冷たい。

だが、その奥に――期待のようなものが微かに混じっていた。

「……本気で来い、創造主。

お前が私を作ったのなら――お前にしか、私を止められない」

黒い魔法陣が展開される。

さっきよりも大きく、強い。

――やばい。

十七歳の俺は、ルシフェルに“連続詠唱”というチートまで与えていた。

詠唱を省略して魔法を撃てる、完全にバランス崩壊の能力だ。

「死ぬなよ、創造主」

「死ぬ気はない!」

俺は走り出す。

ルシフェルの魔法が地面を抉り、木々を薙ぎ倒す。

だが、俺には“作者知識”がある。

ルシフェルの攻撃パターン。

魔法の癖。

弱点。

全部、俺が作った。

「そこだ!」

俺はルシフェルの足元に転がっていた石を拾い、魔法陣の中心へ投げつけた。

石が魔法陣に触れた瞬間、魔力が乱れ、暴発する。

「っ……!」

ルシフェルが後退し、魔法が霧散した。

「……なぜ、そんなことまで知っている」

「作者だからだよ!」

ルシフェルは悔しそうに歯を噛みしめた。

「……創造主。お前は本当に……私のすべてを知っているのだな」

「当たり前だろ。お前は俺の“推し”なんだから」

その言葉に、ルシフェルの瞳が揺れた。

怒りでも憎しみでもない。

もっと複雑で、深い感情。

「……ならば、証明しろ。

お前が私を捨てた創造主ではなく――

私の物語を完結させる“作者”であることを」

ルシフェルは翼を広げ、空へ舞い上がった。

「私はお前を試す。

この世界のすべてを使ってな」

黒い光が空へ消える。

残された森に、俺だけが立ち尽くしていた。

「……試す、ね」

胸の奥が熱くなる。

恐怖でも、後悔でもない。

十七歳の頃に忘れていた“創作の衝動”が、再び燃え上がっていた。

「上等だよ、ルシフェル。

今度こそ、お前の物語を――最後まで書いてやる」

________________________________________

第3話:世界のバグ ― 黒歴史設定の暴走開始

ルシフェルが空へ消えていったあと、森には再び静寂が戻った。

だが、さっきまでの静けさとは違う。

空気がざわつき、世界そのものが不安定に揺れているような感覚があった。

「……なんだ、この違和感」

風が逆流するように吹き、木々がざわめく。

まるで“世界が呼吸を忘れた”みたいだ。

俺は周囲を見渡しながら、胸の奥に嫌な予感が広がるのを感じていた。

――黒歴史設定の暴走。

十七歳の俺は、勢いだけで世界設定を作っていた。

整合性なんて気にしない。

思いついたものをそのまま書き込む。

その結果、矛盾だらけの世界が出来上がった。

例えば――

「森の奥には“時空の裂け目”があり、過去と未来が混ざり合う」

「魔力が濃すぎる場所では、キャラの設定が勝手に変異する」

「未完成の設定は“バグ”として世界に影響を与える」

今思えば、完全に中二病の産物だ。

だが、この世界はその設定を“現実”として抱えている。

「……まずいな」

ルシフェルが動き出したことで、世界のバランスが崩れ始めている。

俺が放置した設定が、今になって牙を剥き始めたのだ。

そのとき――

森の奥から、低い唸り声が響いた。

「……う?」

地面が震え、木々が揺れる。

何か巨大なものが、こちらへ向かってくる。

俺は反射的に身構えた。

次の瞬間、森を割って現れたのは――

巨大な狼だった。

いや、狼“だったもの”と言うべきか。

体の半分が透明で、輪郭が揺らいでいる。

まるで“読み込み中のポリゴン”みたいに、形が安定していない。

「……バグ狼かよ」

十七歳の俺が設定した“未完成モンスター”。

設定が途中で止まっていたため、形が定まらず、存在が不安定なまま暴走する。

よりによって、こんなものが最初の敵か。

「ガアアアアアッ!」

バグ狼が飛びかかってくる。

透明な爪が空気を裂き、地面を抉る。

「うおっ……!」

俺は転がるようにして避ける。

だが、バグ狼はすぐに方向転換し、再び突進してきた。

――まずい。

俺には戦闘スキルなんてない。

あるのは“作者知識”だけだ。

「バグ狼の弱点……弱点……」

必死に記憶を探る。

十七歳の俺は、バグ狼に“致命的な弱点”を設定していた。

それは――

「名前を呼ばれると、設定が確定して弱体化する」

なんだその設定。

十七歳の俺、どうかしてる。

だが、今はそれに頼るしかない。

「おい、お前の名前……なんだっけ……」

記憶を必死に掘り返す。

バグ狼の名前。

名前。

名前……。

「……あっ、そうだ!」

俺は叫んだ。

「《フェンリル・プロトタイプ》!」

その瞬間、バグ狼の動きが止まった。

透明だった体が徐々に実体化し、輪郭が固まっていく。

揺らいでいた形が安定し、巨大な狼の姿がはっきりと現れた。

「ガ……ア……?」

バグ狼――いや、フェンリル・プロトタイプは困惑したように俺を見つめる。

「悪いな。お前の名前、ちゃんと覚えてたよ」

次の瞬間、フェンリルの体が光に包まれ、爆発的に弱体化した。

筋肉が縮み、体が小さくなり、牙も爪も丸くなる。

「キュウゥン……」

完全に“ただの大きめの犬”になった。

「……弱っ!」

俺は思わずツッコんだ。

だが、これで助かった。

フェンリルは尻尾を振りながら俺に近づいてくる。

どうやら敵意は完全に消えたらしい。

「よしよし……って、なんで俺、バグ狼を撫でてんだ」

自分で自分にツッコミを入れながら、ふと気づく。

――この世界は、俺の黒歴史設定で動いている。

つまり、俺が覚えている設定は“全部チート”になる。

ルシフェルの弱点も。

世界の構造も。

未完成の設定も。

全部、俺の武器だ。

「……やれるかもしれないな」

そのとき、空が再び震えた。

黒い光が森の奥から立ち上り、空へ伸びていく。

ルシフェルの魔力だ。

彼は動き出している。

俺を試すために。

この世界を揺るがすために。

「……行くか」

俺はフェンリルの頭を軽く叩き、森の奥へ歩き出した。

黒歴史の世界。

未完成の設定。

暴走するキャラたち。

その中心にいるのは、俺の“推し”であり、俺が作った“魔王”。

「ルシフェル。

お前の物語、今度こそ書き直してやる」

風が吹き、森がざわめく。

世界が、俺を待っているようだった。

________________________________________

第4話:未完成の街 ― 黒歴史設定の連鎖

フェンリル・プロトタイプを連れて森を抜けると、視界が一気に開けた。

そこには、俺が十七歳の頃に描いた“最初の街”が広がっていた。

だが――

「……うわ、ひどいなこれ」

街は半分だけ存在していた。

建物の一部はしっかりと形を成しているのに、

その隣は“白い空間”のまま、何も描かれていない。

まるでゲームのマップが読み込み途中で止まったような光景だ。

俺は思わず頭を抱えた。

「そういえば……この街、設定途中で飽きて放置したんだった」

十七歳の俺は、街の名前だけ決めて満足してしまい、

細かい設定を作らずに次のキャラ設定に飛んでしまった。

その結果――

「未完成のハーフロード

という、名前だけ立派で中身がスカスカの街が生まれた。

フェンリルが不安そうに鳴く。

「キュウゥン……」

「いや、俺も不安だよ……」

街の入口には、看板だけが立っていた。

《ようこそ、ハーフロードへ!》

その下に、十七歳の俺が書いた落書きが残っている。

《ここは主人公が最初に訪れる街。

いろんなイベントが起きる予定!》

予定。

予定ってなんだよ。

未来の俺に丸投げする気満々じゃないか。

「……まあ、行くしかないか」

俺はフェンリルを連れて街へ足を踏み入れた。

すると――

「――あっ、来た!」

「やっと来た!」

「主人公だ!」

街の住人らしき人々が、一斉にこちらへ駆け寄ってきた。

だが、彼らの姿はどこかおかしい。

顔の輪郭が曖昧で、目や口が“仮の線”で描かれている。

服も色が塗られておらず、白黒のまま。

まるで“ラフ画”だ。

「……お前ら、もしかして」

「はい! 私たちは“未完成NPC”です!」

「設定が途中なので、性格も曖昧です!」

「とりあえず主人公を歓迎するように書かれてます!」

テンションだけはやたら高い。

俺は頭を抱えた。

「十七歳の俺……なんでこんな中途半端な設定で放置したんだよ……」

「主人公さん!」

NPCの一人が手を挙げた。

「あなたには、この街で“最初のイベント”をこなしてもらう予定です!」

「予定って言うな!」

「でも予定なんです!」

NPCたちは口々に喋り始める。

「街の中心に“未完成ダンジョン”があります!」

「そこに“設定ミスの魔物”が住み着いて困ってます!」

「倒してくれれば、街の設定が進みます!」

「進むのかよ!」

「進みます! 作者が来たので!」

俺は深くため息をついた。

だが、同時に理解した。

――この世界は、俺が動けば動くほど“完成”していく。

未完成の街。

未完成のNPC。

未完成のダンジョン。

全部、俺が放置したせいだ。

そして今、俺が戻ってきたことで、世界が“続きを要求している”。

「……わかった。ダンジョンに行けばいいんだな」

「はい! お願いします!」

NPCたちが拍手する。

フェンリルも尻尾を振っている。

「キュウゥン!」

「お前も行く気満々かよ……」

俺は苦笑しながら街の中心へ向かった。

すると、遠くに巨大な建造物が見えてきた。

だが――

「……なんだあれ」

ダンジョンの入口は、明らかに“未完成”だった。

階段は途中で途切れ、壁は線画のまま。

扉は片方だけ描かれていて、もう片方は白紙。

そして、入口の上には十七歳の俺の走り書きが残っていた。

《ここに強敵を配置予定!

名前はまだ決めてない!》

「……おい」

俺は思わず看板にツッコんだ。

「名前くらい決めとけよ、十七歳の俺!」

その瞬間――

ダンジョンの奥から、低い唸り声が響いた。

「……グルルルル……」

空気が震え、地面が揺れる。

未完成のダンジョンの奥から、巨大な影が姿を現した。

輪郭が揺れ、形が定まらない。

だが、さっきのバグ狼よりもはるかに巨大で、凶悪な気配を放っている。

「……またバグかよ」

だが、今回は違う。

NPCが震えながら叫んだ。

「そ、それは……“設定ミスの魔物”です!」

「名前は……?」

「ありません! 作者が決めてません!」

「だよな!」

未完成の魔物は、俺を見つけると咆哮した。

「グアアアアアアアッ!」

フェンリルが吠える。

「ワンッ!」

「いや、お前じゃ勝てないだろ!」

俺は後ずさりしながら、必死に記憶を探る。

十七歳の俺は、この魔物に“ある設定”を付けていた。

それは――

「名前を与えられると、従属する」

なんでそんな設定にしたのかは覚えていない。

だが、今はそれが唯一のチートだ。

「……よし」

俺は魔物に向かって叫んだ。

「お前の名前は――《ノーネーム・ベヒモス》だ!」

その瞬間、魔物の動きが止まった。

揺れていた輪郭が固まり、巨大な体が安定する。

赤い瞳が俺を見つめ、ゆっくりと頭を下げた。

「……グルゥ」

「おおおおおおっ!」

NPCたちが歓声を上げる。

「すごい! 魔物が従った!」

「さすが主人公!」

「作者パワーだ!」

俺は額の汗を拭いながら、ベヒモスを見上げた。

「……よし。これで街の設定も少しは進むだろ」

そのとき、空が再び震えた。

黒い光が空へ伸びる。

ルシフェルの魔力だ。

彼はどこかで、俺の行動を見ている。

「……見てろよ、ルシフェル」

俺は拳を握った。

「お前の世界、ちゃんと完成させてやる」

________________________________________

第5話:黒翼の使者 ― 魔王からの“試練”

未完成のハーフロードを後にし、ベヒモスとフェンリルを連れて街道を進んでいると、空気が急に冷たくなった。

風が止まり、鳥の声が消え、世界が一瞬だけ“静止”したように感じる。

「……来るな」

俺が呟いた瞬間、空が裂けた。

黒い羽根が舞い散り、空間がねじれる。

その中心から、ひとりの少女がゆっくりと降り立った。

黒いローブ。

銀色の髪。

そして背中には――ルシフェルと同じ“黒翼”。

だが、彼女の翼は片方だけだった。

もう片方は、根元から“欠けている”。

「……片翼の使者ハルカか」

十七歳の俺が、ルシフェルの“従者候補”として描いたキャラ。

だが、設定途中で放置したため、片翼のまま未完成になっていた。

ハルカは無表情のまま、俺を見つめる。

「創造主。魔王ルシフェル様より、伝言を預かってきました」

声は冷たく、機械のように感情がない。

「伝言……?」

「はい。『この世界を歩む資格があるか、試す』とのことです」

やっぱりか。

ルシフェルは俺を“試す”と言っていた。

その最初の試練が、こいつというわけだ。

「試すって……どういう方法で?」

「簡単です」

ハルカは片翼を広げ、黒い魔力を纏った。

「私を倒せば、次の試練へ進めます」

「倒す……?」

「はい。殺しても構いません」

その言葉に、胸がざわついた。

ハルカは未完成のキャラだ。

性格も、背景も、目的も、途中で放置されたまま。

だからこそ、彼女は“自分の存在理由”を知らない。

そして――

「創造主。あなたは私を“どう扱う”つもりですか?」

その問いは、まるで俺の胸を刺すようだった。

十七歳の俺は、キャラを作っては放置し、また別のキャラを作っていた。

ハルカもそのひとりだ。

彼女は“未完成のまま捨てられたキャラ”。

だからこそ、今こうして俺に問いかけている。

「私は……あなたにとって何なのですか?」

その瞳には、怒りも悲しみもない。

ただ、空虚な“問い”だけがあった。

俺は息を吸い、ゆっくりと答えた。

「……お前は、俺が作ったキャラだ。

でも、捨てたつもりはなかった」

「では、なぜ放置したのですか?」

「……俺が未熟だったからだよ」

ハルカの瞳がわずかに揺れる。

「未熟……?」

「そうだ。十七歳の俺は、キャラを作ることだけに夢中で、

そのキャラの“人生”を考えていなかった」

ハルカは黙って聞いている。

「でも今は違う。

お前の物語も、ルシフェルの物語も――

全部、最後まで書くつもりだ」

その瞬間、ハルカの表情が初めて変わった。

驚き。

戸惑い。

そして――微かな期待。

「……創造主。あなたは、本気でそう思っているのですか?」

「ああ。本気だ」

ハルカは片翼を閉じ、静かに目を伏せた。

「……ならば、証明してください」

「証明?」

「はい。私を倒すのではなく――」

ハルカは顔を上げ、まっすぐ俺を見つめた。

「私を“完成”させてください」

その言葉に、俺は息を呑んだ。

倒すのではなく、完成させる。

未完成のキャラを、作者として“救う”。

それが、ルシフェルの試練なのか。

「……どうすればいい?」

「私の設定には、欠けている部分があります」

ハルカは片翼を広げる。

「この翼。

本来は“二枚”あるはずでした。

ですが、あなたが設定を途中でやめたため、片方しか存在していません」

「……悪かった」

「謝罪は不要です。

必要なのは――“設定の補完”です」

ハルカは俺に手を差し出した。

「創造主。あなたの言葉で、私の翼を完成させてください」

俺は深く息を吸い、ハルカの片翼を見つめた。

十七歳の俺が描いた“片翼の使者”。

未完成のまま放置されたキャラ。

だが、今なら――

「……わかった」

俺はハルカの手を取った。

「お前のもう一つの翼は――

“創造主を守るための翼”だ」

その瞬間、ハルカの体が光に包まれた。

黒い羽根が舞い、空気が震える。

光が収まったとき、ハルカの背中には――

二枚の黒翼が広がっていた。

ハルカは驚いたように自分の翼を見つめ、そして俺を見た。

「……これが……私の……」

「お前の“本来の姿”だよ」

ハルカはゆっくりと膝をつき、頭を下げた。

「創造主……いえ、作者様。

私は、あなたに従います」

その瞬間、空から黒い羽根が舞い落ちた。

ルシフェルの魔力だ。

彼はどこかで、この光景を見ている。

「……見てろよ、ルシフェル」

俺は空を見上げ、拳を握った。

「お前の世界、必ず完成させてやる」

________________________________________

第6話:魔王の影 ― 世界に広がる“未完の呪い”

ハルカを仲間に加え、フェンリルとベヒモスを連れて街道を進む。

空は晴れているのに、どこか不穏な気配が漂っていた。

風がざわつき、空気が重い。

まるで“世界そのものが怯えている”ような感覚。

「……嫌な予感しかしないな」

俺が呟くと、ハルカが静かに頷いた。

「創造主。この世界は今、“未完の呪い”に侵されています」

「未完の呪い……?」

「はい。あなたが十七歳の頃に書き残した“未完成の設定”が、世界に歪みを生んでいます」

ハルカは片翼――いや、今は両翼を広げ、空を見上げた。

「本来、この世界はあなたの創作によって形作られました。

しかし、設定が途中で止まった部分は“空白”となり、

その空白が魔力を吸い込み、呪いへと変質しているのです」

「……つまり、俺の黒歴史が世界を壊してるってことか」

「簡単に言えば、そうなります」

ハルカは淡々と言うが、俺の胸には重く響いた。

十七歳の俺は、勢いだけで設定を作り、途中で飽きて放置した。

その結果、世界に“穴”が生まれ、そこから呪いが溢れ出している。

「……ルシフェルは、この呪いを知ってるのか?」

「はい。魔王ルシフェル様は、世界の異変を最も早く察知しました」

ハルカの声が少しだけ震えた。

「そして……創造主であるあなたを呼び戻すために、

世界の魔力を使って“召喚”を行ったのです」

「……ルシフェルが、俺を呼んだ?」

「はい。あなたにしか、この世界を修復できないからです」

胸が熱くなる。

ルシフェルは俺を恨んでいる。

だが同時に――俺を必要としている。

その矛盾が、彼の苦しみを物語っていた。

「……行くしかないな」

「はい。ですが――」

ハルカが急に立ち止まった。

「創造主。前方に“呪いの濃度”が高い地点があります」

「呪いの濃度……?」

「はい。未完の設定が暴走し、世界が“書き換わり続けている”場所です」

そのときだった。

空が一瞬だけ暗転した。

太陽が黒い靄に覆われ、世界が薄暗くなる。

「……来たな」

俺は息を呑んだ。

街道の先に、黒い霧が渦巻いている。

地面はひび割れ、木々は枯れ、空気が歪んでいる。

まるで“世界のデータが破損した”ような光景。

「ここが……未完の呪いの発生源か」

「はい。ですが、これはまだ序の口です」

ハルカが片手を上げると、黒い霧がわずかに晴れた。

その奥に――“何か”がいた。

輪郭が揺れ、形が定まらない。

人のようで、人ではない。

獣のようで、獣でもない。

まるで“設定途中のキャラ”が、そのまま具現化したような存在。

「……あれは?」

「“未完の影”です」

ハルカの声が低くなる。

「あなたが途中で描くのをやめたキャラの“残骸”。

設定が不完全なまま、呪いに飲まれて怪物化した存在です」

胸が痛んだ。

十七歳の俺は、キャラを作っては飽きて捨てていた。

その“捨てられたキャラ”が、今こうして怪物になっている。

「……俺のせいか」

「責めるつもりはありません。

ですが、あなたにしか救えない存在でもあります」

未完の影がこちらを向いた。

目がない。

口もない。

だが、確かに“俺を見ている”と感じた。

「グ……ァ……」

声にならない声が漏れる。

苦しんでいる。

存在そのものが不安定で、形を保てない。

「……助けられるのか?」

「はい。あなたが“名前”を与えれば」

「名前……?」

「未完のキャラは、名前を与えられることで“存在が確定”します。

そうすれば、呪いから解放されます」

名前を与える。

それは、キャラに“存在理由”を与えること。

十七歳の俺が放置したキャラに、今の俺が責任を取るということだ。

「……わかった」

俺は未完の影に向かって歩き出した。

影は苦しげに揺れ、形が崩れそうになっている。

「お前の名前は――」

俺は深く息を吸い、言葉を紡いだ。

「《レムナント》だ」

その瞬間、影が光に包まれた。

揺れていた輪郭が固まり、形が安定する。

黒い霧が晴れ、影がゆっくりと膝をついた。

「……グ……ァ……」

声が変わった。

苦しみではなく、安堵のような響き。

「……これで、お前は“存在”になれた」

レムナントはゆっくりと頭を下げた。

その姿を見て、ハルカが静かに言った。

「創造主。あなたはまた一つ、世界を修復しました」

そのとき、空から黒い羽根が舞い落ちた。

ルシフェルの魔力だ。

彼はどこかで、この光景を見ている。

「……見てろよ、ルシフェル」

俺は拳を握った。

「お前の世界、必ず救ってみせる」

________________________________________

第7話:魔王の城からの呼び声 ― “黒歴史イベント”発動

未完のレムナントを救ったあと、世界の空気がわずかに澄んだ気がした。

だが、それはほんの一瞬だった。

次の瞬間、空が震えた。

黒い雷が走り、雲が渦を巻く。

風が逆流し、地面が低く唸る。

「……来るな」

俺が呟いた瞬間、空に巨大な魔法陣が浮かび上がった。

黒翼の紋章。

赤い瞳の紋様。

そして中央には――

《魔王ルシフェル》の名が刻まれていた。

「創造主。これは……」

ハルカが警戒するように翼を広げる。

「ああ……十七歳の俺が作った“黒歴史イベント”だ」

胸が痛くなる。

あの頃の俺は、ルシフェルを“最強の魔王”にしたくて、

世界中に“魔王の影響”が広がるイベントを作っていた。

その名も――

《魔王の呼びルシフェル・コール

世界中の魔力を揺らし、

未完成の設定を暴走させ、

魔物を強化し、

世界を“魔王の色”に染めるイベント。

十七歳の俺は、これを“物語の中盤”に置くつもりだった。

だが今――

「……序盤で発動してんじゃねぇよ、十七歳の俺……!」

空から黒い羽根が降り注ぎ、地面に触れた瞬間、

草が枯れ、土が黒く染まる。

フェンリルが怯えて吠えた。

「ワンッ! ワンッ!」

ベヒモスも低く唸る。

「グルルル……」

ハルカが俺の前に立ち、片手を掲げた。

「創造主。魔王ルシフェル様は、あなたに“次の試練”を与えています」

「試練……?」

「はい。『この世界の変化を受け止め、なお進む覚悟があるか』と」

空の魔法陣が輝き、黒い光が地上へ降り注ぐ。

その光が触れた場所から、次々と“異変”が起き始めた。

木々が黒く変色し、

川が逆流し、

空気が重く濁る。

そして――

「……あれは……」

遠くの山の上に、巨大な影が現れた。

黒い塔。

赤い光を放つ窓。

空を貫くような鋭い尖塔。

十七歳の俺が描いた、ルシフェルの居城。

黒翼城コキョクジョウ

だが、俺の記憶にあるものよりも、はるかに巨大で、禍々しい。

「……なんでこんなにデカいんだよ」

「魔王ルシフェル様は、あなたが不在の間に“進化”しました」

「進化……?」

「はい。あなたが設定した以上の力を得て、

自ら世界を“書き換える”存在になったのです」

胸がざわつく。

ルシフェルは、俺が作ったキャラだ。

だが今は――

「……俺の手を離れてるってことか」

「はい。ですが、それは“悪いこと”ではありません」

ハルカは静かに言った。

「キャラが作者の手を離れ、自立する。

それは創作において、最も美しい瞬間です」

その言葉に、胸が熱くなる。

だが同時に、強烈な不安も湧き上がる。

「……でも、ルシフェルは俺を殺そうとしてるんだぞ」

「それは、彼が“あなたに期待している”からです」

「期待……?」

「はい。

あなたが本当に“作者”としてこの世界に向き合うのか。

それを確かめるために、彼はあなたを試しているのです」

空の魔法陣が消え、黒い羽根が舞い落ちる。

その羽根が地面に触れた瞬間、

黒い炎が立ち上がり、そこから“何か”が姿を現した。

黒い鎧。

赤い瞳。

そして背中には、小さな黒翼。

「……あれは?」

「魔王ルシフェル様の“使い魔”です」

使い魔は無言で俺に近づき、膝をついた。

そして、胸の前で手を組み、低い声で告げた。

「――創造主よ。魔王ルシフェル様は、あなたを“城へ招待”すると仰せです」

「招待……?」

「はい。

ただし――」

使い魔は顔を上げ、赤い瞳で俺を見つめた。

「黒翼城へ辿り着けるのなら、の話ですが」

挑発的な言い方だ。

「……つまり、道中が地獄ってことか」

「その通りです。

魔王ルシフェル様は、あなたが“本気”かどうかを見極めたいのです」

ハルカが一歩前に出る。

「創造主。黒翼城へ向かうには、三つの“未完領域”を越える必要があります」

「未完領域……?」

「はい。

あなたが途中で放棄した設定が、呪いとなって形を成した場所です」

ハルカは指を三本立てた。

「第一領域《虚無の森》

第二領域《反転の谷》

第三領域《終わらない街》」

どれも、十七歳の俺が途中で投げた設定だ。

「……全部、俺の黒歴史じゃねぇか」

「はい。ですが、それを修復できるのはあなたしかいません」

使い魔が立ち上がり、黒い炎に包まれながら告げた。

「創造主よ。

魔王ルシフェル様は、あなたを“待っている”。

この世界の頂で――」

炎が弾け、使い魔は消えた。

残されたのは、黒い羽根だけ。

俺はそれを拾い、空を見上げた。

遠くにそびえる黒翼城。

その頂に、ルシフェルがいる。

「……行くしかないな」

「はい、創造主」

ハルカが微笑む。

フェンリルが吠える。

ベヒモスが地面を踏み鳴らす。

俺は黒翼城を見据え、拳を握った。

「ルシフェル。

お前の試練、全部乗り越えてやる」

________________________________________

8話:第一領域《虚無の森》 ― 設定が“消えた”世界

黒翼城へ向かうため、俺たちは第一領域《虚無の森》へ足を踏み入れた。

森の入口には、十七歳の俺が書いた落書きが残っている。

《ここは“設定が消えた森”。

何が起きるかわからない!》

「……わからないって、お前がわからないまま放置しただけだろ、十七歳の俺」

思わずツッコむが、笑えない。

森の中は、明らかに“異常”だった。

木々の幹が途中で途切れ、葉が描かれていない。

地面はところどころ“白紙”になっていて、踏むと足が沈む。

空気は薄く、音が吸い込まれるように消えていく。

まるで、世界が“描かれ忘れた”ような空間。

「……ここが《虚無の森》か」

俺が呟くと、ハルカが頷いた。

「はい。創造主が設定を途中でやめたため、

“存在しているのに存在していない”という矛盾が生まれています」

「存在してるのに、存在してない……?」

「はい。

例えば――」

ハルカは近くの木に触れた。

その瞬間、木が“砂のように崩れた”。

「……っ!」

「この木は、幹の設定だけが存在し、

材質や強度の設定が欠けているため、触れると崩壊します」

フェンリルが怯えて後ずさる。

「クゥン……」

ベヒモスも低く唸った。

「グルル……」

俺は深く息を吸い、森の奥を見つめた。

「……ルシフェルは、こんな場所を通れって言ってるのか」

「はい。

魔王ルシフェル様は、あなたが“未完の世界”と向き合うことを望んでいます」

そのとき――

森の奥から、低い“ざわめき”が聞こえた。

風ではない。

動物でもない。

もっと不気味で、もっと“空虚”な音。

「……何かいるな」

「はい。未完の影とは別の存在です」

ハルカが翼を広げ、警戒態勢に入る。

「《虚無の森》には、“設定が消えたキャラ”が彷徨っています」

「設定が……消えた?」

「はい。

名前も、性格も、目的も、外見も――

すべてが途中で消えたキャラです」

そのとき、白紙の地面から“何か”が這い出てきた。

人の形をしている。

だが、顔がない。

手足の長さが左右で違う。

輪郭が揺れ、形が安定しない。

「……うわ……」

十七歳の俺が、キャラを描きかけてやめたときに生まれた“残骸”。

ハルカが低く呟く。

「《ノーフェイス》です。

設定が消えたキャラの末路」

ノーフェイスは、俺を見つけると、ゆっくりと手を伸ばしてきた。

「……ア……ア……」

声にならない声。

苦しみとも、助けを求める声とも取れる。

「……助けられるのか?」

「はい。

“設定の断片”を与えれば、存在が安定します」

「設定の断片……?」

「名前、性格、目的――

どれか一つでも与えれば、ノーフェイスは“キャラ”として再構築されます」

俺はノーフェイスの前に立ち、深く息を吸った。

「……お前の名前は――《ホロウ》だ」

その瞬間、ノーフェイスの体が光に包まれた。

輪郭が固まり、顔が形成され、手足が整う。

光が収まると、そこには――

少年の姿が立っていた。

「……あ……」

少年は自分の手を見つめ、震える声で呟いた。

「……ぼく……ぼくは……ホロウ……?」

「ああ。お前はホロウだ」

少年は涙を浮かべ、俺に抱きついた。

「……ありがとう……ありがとう……!」

胸が熱くなる。

十七歳の俺が捨てたキャラを、今の俺が救っている。

そのとき――

空気が震えた。

森の奥から、巨大な“何か”が近づいてくる。

地面が揺れ、木々が崩れ、白紙の空間が波打つ。

「……来るな」

ハルカが翼を広げる。

「創造主。

《虚無の森》の“主”が現れます」

「主……?」

「はい。

あなたが十七歳の頃に描きかけて放置した、

“最強クラスのキャラ”です」

胸が凍りつく。

十七歳の俺は、勢いだけで“最強キャラ”を量産していた。

その中でも、特に危険な存在が一体いた。

名前は――

《虚無のキング・オブ・ナッシング

設定途中で放置された、世界最大級の“未完キャラ”。

その影が、森の奥から姿を現した。

巨大な体。

顔のない頭部。

腕が四本。

輪郭が揺れ、存在が不安定。

だが、その気配は――圧倒的だった。

「……マジかよ……」

ハルカが低く呟く。

「創造主。

これが、第一領域の“試練”です」

虚無の王が、ゆっくりとこちらへ手を伸ばした。

その動きだけで、空気が震え、世界が軋む。

「……ルシフェル。

お前、本気で俺を殺す気だな」

だが、逃げるわけにはいかない。

俺は拳を握り、虚無の王を見据えた。

「――行くぞ」

________________________________________

第9話:虚無の王との対峙 ― “設定の力”を取り戻せ

虚無のキング・オブ・ナッシングが姿を現した瞬間、森の空気が一変した。

風が止まり、音が消え、世界が“呼吸を忘れた”ような静寂が訪れる。

巨大な影がゆっくりとこちらへ歩み寄るたび、

地面が白紙に戻り、木々が砂のように崩れ落ちる。

「……これが、十七歳の俺が作った“最強クラス”かよ」

自分で作ったとは思えないほど、圧倒的な存在感だった。

ハルカが前に出て、翼を広げる。

「創造主。虚無の王は“設定が途中で止まったまま”の存在です。

本来なら、あなたが最強の敵として完成させるはずでした」

「……でも、俺は途中で飽きて放置した」

「はい。その結果、虚無の王は“存在の意味”を失い、

世界を喰らう怪物になってしまったのです」

虚無の王が、顔のない頭部をこちらへ向けた。

目も口もないのに、確かに“俺を見ている”と感じる。

「……ア……アア……」

声にならない声。

苦しみとも、怒りとも、悲しみとも取れる。

フェンリルが怯えて吠えた。

「ワンッ! ワンッ!」

ベヒモスも低く唸る。

「グルルル……!」

だが、虚無の王は一切動じない。

その存在は、ただ“空虚”だった。

「創造主。虚無の王を倒すには、二つの方法があります」

ハルカが静かに告げる。

「一つは、力で破壊すること。

もう一つは――“設定を与えて完成させる”こと」

「……完成させる?」

「はい。虚無の王は、あなたが途中で放棄したキャラです。

あなたが“続きを書く”ことで、存在が安定し、呪いから解放されます」

胸が熱くなる。

十七歳の俺が捨てたキャラを、今の俺が救う。

それが、この世界を修復する唯一の方法。

「……わかった」

俺は虚無の王に向かって歩き出した。

その瞬間、虚無の王が動いた。

四本の腕が一斉に振り下ろされ、

地面が白紙に戻りながら波のように崩れ落ちる。

「っ――!」

俺はとっさに跳び退く。

ハルカが翼で俺を庇い、黒い魔力で衝撃を相殺する。

「創造主、危険です!」

「わかってる! でも――」

俺は虚無の王を見据えた。

「こいつを救えるのは、俺しかいない!」

虚無の王が再び腕を振り上げる。

その動きは遅いが、世界そのものを削り取るような重さがある。

「ハルカ、フェンリル、ベヒモス! 時間を稼いでくれ!」

「了解しました!」

「ワンッ!」

「グルルル!」

三体が一斉に虚無の王へ突撃する。

ハルカの黒翼が閃き、魔力の刃が虚無の王の腕を切り裂く。

フェンリルが足元に噛みつき、ベヒモスが体当たりをかます。

だが――

「……効いてない……!」

虚無の王は揺れもしない。

存在が不安定すぎて、物理も魔法も通じないのだ。

「創造主! 早く!」

「わかってる!」

俺は虚無の王の前に立ち、深く息を吸った。

十七歳の俺が描いた“設定の断片”を思い出す。

虚無の王は――

《世界を喰らう存在》

《孤独を恐れる》

《本当は誰かに認められたい》

そんな、幼稚で、痛々しくて、

でもどこか“人間らしい”設定が残っていた。

「……お前は、孤独だったんだよな」

虚無の王の動きが止まる。

「俺が放置したせいで、存在の意味を失って……

誰にも見てもらえなくて……

ただ、空虚の中で彷徨ってたんだよな」

虚無の王の体が揺れる。

「……ア……アア……」

その声は、確かに“悲しみ”だった。

「ごめん。

十七歳の俺は、お前のことをちゃんと考えてなかった。

でも今は違う」

俺は虚無の王に向かって手を伸ばした。

「お前の名前は――《ヴォイド・ロード》だ」

その瞬間、虚無の王の体が光に包まれた。

揺れていた輪郭が固まり、

四本の腕が整い、

顔が形成されていく。

光が収まると、そこには――

巨大な鎧を纏った“王”が跪いていた。

「……我が名は……ヴォイド・ロード……」

低く、重い声。

だが、その声には確かな“意志”があった。

「創造主よ……

我を……救ってくれたのか……?」

「ああ。お前はもう、虚無の王じゃない」

ヴォイド・ロードは深く頭を下げた。

「……感謝する……作者よ……」

その瞬間、森に満ちていた“虚無の呪い”が晴れた。

白紙だった地面に色が戻り、

崩れていた木々が再生し、

空気が温かさを取り戻す。

ハルカが静かに言った。

「創造主。

第一領域《虚無の森》――

完全に修復されました」

そのとき、空から黒い羽根が舞い落ちた。

ルシフェルの魔力だ。

彼はどこかで、この光景を見ている。

「……見てろよ、ルシフェル」

俺は拳を握った。

「お前の世界、必ず最後まで書き切ってやる」

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第10話:第二領域《反転の谷》 ― “善悪が逆転する”黒歴史設定

第一領域《虚無の森》を修復したあと、俺たちは黒翼城へ向かう街道を進んでいた。

空は晴れているのに、どこか不穏な気配が漂っている。

風がざわつき、空気が重い。

まるで“世界が次の異変を予告している”ようだった。

「……そろそろだな」

俺が呟くと、ハルカが頷いた。

「はい。まもなく第二領域《反転の谷》に入ります」

「反転……?」

「はい。

創造主が十七歳の頃に書いた“善悪逆転設定”が暴走している場所です」

胸が痛む。

十七歳の俺は、当時ハマっていた“ダークヒーロー”の影響で、

世界の善悪が逆転する設定を作っていた。

だが、途中で飽きて放置した。

その結果――

「……世界の倫理がバグってるってことか」

「簡単に言えば、そうなります」

ハルカが谷の方角を指差す。

「この領域では、

“善”と“悪”の概念が逆転し、

正しい行いが“罪”として扱われます」

「……めんどくせぇ設定だな、十七歳の俺……」

フェンリルが不安そうに鳴く。

「クゥン……」

ベヒモスも低く唸った。

「グルルル……」

谷に近づくにつれ、空気がどんどん重くなる。

まるで“世界そのものが俺たちを拒絶している”ようだった。

そして――

谷の入口に到達した瞬間、空が反転した。

青空が黒く染まり、

太陽が闇に覆われ、

影が光を放つ。

「……うわ……」

世界が“裏返った”ような光景。

地面は白黒反転し、

木々は黒い葉をつけ、

川は逆流している。

「ここが……《反転の谷》か」

「はい。

この領域では、あなたが作った“善悪逆転設定”が完全に暴走しています」

そのとき――

「――止まれ!」

鋭い声が響いた。

谷の奥から、黒い鎧を纏った騎士たちが現れた。

だが、彼らの鎧には“天使の紋章”が刻まれている。

「……天使騎士団ホーリーガード?」

十七歳の俺が作った“正義の騎士団”。

本来なら、弱きを助け、悪を討つ存在。

だが今は――

「貴様ら! なぜ“魔物”を連れている!」

騎士団長らしき男が俺を指差した。

「魔物……?」

フェンリルとベヒモスのことか。

「彼らは仲間だ。俺が――」

「黙れ!

魔物と行動を共にする者は“悪”!

この谷では、善行は罪とされる!」

ハルカが小声で囁く。

「創造主。

ここでは“魔物を助ける=悪”という扱いになります」

「……マジかよ」

騎士団長が剣を抜き、俺に向けて叫ぶ。

「貴様は“悪”だ!

よって――処刑する!」

「いやいやいや! 話聞けよ!」

「聞く必要はない!

この谷では、悪は即処刑と決まっている!」

十七歳の俺、どんな倫理観してたんだよ……。

騎士団が一斉に突撃してくる。

「創造主、危険です!」

ハルカが前に出ようとした瞬間――

「待て、ハルカ!」

俺は手を伸ばして制止した。

「ここは……俺がやる」

「ですが――!」

「この領域は、俺の黒歴史そのものだ。

俺が向き合わなきゃ意味がない」

ハルカが一瞬だけ迷ったが、すぐに頷いた。

「……わかりました」

騎士団が迫る。

剣が光り、地面が揺れる。

だが――

「お前らの設定、覚えてるぞ!」

俺は叫んだ。

「ホーリーガードは“絶対に罪なき者を傷つけない”!」

その瞬間、騎士団の動きが止まった。

「……な……に……?」

「お前らの設定は“正義の騎士団”。

どれだけ善悪が逆転しても、

“罪なき者を斬れない”って設定が残ってる!」

騎士団長が苦しげに剣を震わせる。

「ぐ……あ……!

なぜ……体が……動かん……!」

「設定が矛盾してるからだよ!」

俺は騎士団長の前に立ち、静かに言った。

「お前らは、本来“正義”なんだ。

こんなバグった倫理観に縛られる必要はない」

騎士団長の瞳が揺れる。

「……正義……?」

「ああ。

お前らは弱きを助ける騎士団だ。

その設定は、十七歳の俺がちゃんと書いた」

騎士団長は剣を落とし、膝をついた。

「……我らは……正義……」

その瞬間、谷の空気が震えた。

黒い空が割れ、光が差し込む。

騎士たちの鎧が白く輝き、

天使の紋章が本来の光を取り戻す。

「……創造主よ。

我らを……救ってくださったのか」

「ああ。

お前らは“悪”じゃない。

正義の騎士団だ」

騎士団長は深く頭を下げた。

「……感謝する、作者よ」

その瞬間、谷に満ちていた“反転の呪い”が晴れた。

空が青に戻り、

川が正しい方向へ流れ、

世界が正常に戻っていく。

ハルカが静かに言った。

「創造主。

第二領域《反転の谷》――

完全に修復されました」

そのとき、空から黒い羽根が舞い落ちた。

ルシフェルの魔力だ。

彼はどこかで、この光景を見ている。

「……見てろよ、ルシフェル」

俺は拳を握った。

「お前の世界、必ず最後まで書き切ってやる」

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