第46話 酒場
「―とりあえず、『ヒュドラ』の素材はうちで預かってやるよ。こいつで何が作れるか……久しぶりの大仕事だ。腕が鳴るぜ」
「近いうちに試作品を作ってみるから、今度またうちに寄って行ってくれよ」
そんなこんなで、コドンさんとラクシアさんが『ヒュドラ』の素材を預かってくれることになり、気付けば周囲は日も暮れていたため途中でバルフォードさん達と別れた俺達は孤児院の方へと戻って来ていた。
そして、沈んでいく夕陽に軽く視線を向けた師匠は俺達に視線を向けつつ声を返してくる。
「さて……あのまま例の魔物を放置していては安心できなかったが、ようやくこれでひと段落したか……今日はもう遅い。修行は明日にして各々休みを取っておくように」
「はい」
師匠の言葉に俺達が返事を返すと、師匠はマフィの方に視線を向ける。
「マフィ」
「あ、はい。何でしょうか?」
「悪いがお前は先に帰っていてくれ。わたしは酒場に寄ってから帰る」
「分かりました。では、帰ったら宿舎の方で先に寝ていますね」
「ああ、頼む。あまり遅くならないうちに帰る」
「酒場……?」
そんな師匠とマフィが話す内容にふと俺は声をこぼしてしまう。
――そういえば、『プリテスタファンタジー』では先に進むのに酒場で情報収集が必要だったりするんだよな。しかも、これが結構面倒なシステムで、このヒントがないと先に進むことができずに詰むという……俺もなかなか進めずに苦戦していた記憶がある。
そうして、酒場のことを考えていると、師匠の下にやってきたツィオラさんが声を返してきた。
「じゃあ、わたしも一緒に付いていって良いかしら?」
「ツィオラ殿もか? もちろん、構わないが……」
「例の件とか騎士団のこと……王族のことも話しておきたいこともあるからね」
「ふむ、確かにな……分かった。では、一緒に行くとしよう」
「ええ。レシアーナ、悪いけど、あなたも先に帰っててくれる?」
「あ、はい。まあ、良いですけど……」
そうして、二人が酒場へ向かおうとする中、ふと俺はちりっと鳥肌が立つような何か違和感を覚えていた。強い胸騒ぎのようなもので、エリシルやツィオラさんの時みたいに嫌な予感がしてならなかった。
――またこの感じか……そういえば、師匠がゲーム開始時に怪我を負っている理由って分からないんだよな。今までの感覚を考えると……まさかこの後に師匠の身に何かあるかもしれないってことか?
これまでの状況を考えるとこの胸騒ぎを無視することはできない。そう考えた俺は師匠とツィオラさんに向かって声を掛ける。
「師匠、ツィオラさん……俺も酒場についてっても良いですか?」
「ん? シュウも酒場に? それは構わないが……酒も飲めないお前が付いて来ても面白いことはないと思うぞ?」
「ええ。周りは酔っぱらった人ばかりだし、嫌な思いをすることもあるかもしれないわよ?」
「大丈夫です。そういうのは慣れているので」
主に会社の飲み会とかで。
そんな風に何気なく口にした俺の言葉に師匠とツィオラさんは怪訝な顔で向き合うと、何か疑うような目を俺へと向けてくる。
「慣れている? なんだ、シュウ。酒場に入ったことがあるのか?」
「そういえば、君……なんていうか、妙に難しい言葉を知っていたりするし……もしかして……」
「も、もしかして……なんですか?」
あれ? 中身が大人だってばれた?
いや、さすがにそれは考えにくいと思うけど……。
そんな風に俺がツィオラさんから疑いの眼差しを向けられ息をのむ中、ツィオラさんはゆっくりとそれを口にしてきた。
「―実は酒場とかに入り浸ってるんじゃないの?」
「……へ?」
思わぬ言葉に俺が呆気に取られていると、ツィオラさんは子供をたしなめるような口調で続けてきた。
「あ、その反応……やっぱりそうなのね? ダメよ? 未成年が入り浸るところじゃないし、お酒を飲んだりしてないでしょうね?」
「ああ、いや。ただ路上で酔っぱらった人を見掛けることがあるってだけなので……」
「そう? なら良いけど……でも、本当にお酒を飲んだりしてないでしょうね?」
「大丈夫です、してないですよ」
ふう……びっくりした……。
いやまあ、俺の中身を知る方法なんてないだろうし、焦る必要はないんだけど……『宮廷魔導師』って言われている人だし、何かのきっかけでバレないとも言えないからな。
そうして、俺が安堵の息を吐いていると、そんな俺達のやり取りを見ていた師匠が声を上げる。
「まあ、あまり酔った者に関わるのはやめておいた方が良い。何があるか分からんからな」
「はい。気を付けます」
「ふむ……とはいえ、私達が見ている間は大丈夫だろう。では、行くか」
そうして、師匠に頷き、俺は師匠とツィオラさんに付いていこうとしたのだが―
「―あ、あの!」
「ん? ミュラ、どうかしたか?」
そんな俺達をミュラの声が引き留め、視線を向けると、ミュラの他にエリシルとマフィ、それにレシアーナまでもが何やら切羽詰まった表情を師匠達に向けていた。まさか―
「わ、わたしも付いて行きたいです!」
「やっぱり……」
不安が的中して思わずそうこぼすと、ミュラに続いてみんなも声を返してくる。
「みゅ、ミュラやシュウが行くなら私も付いて行かせて下さい」
「えっと、お師匠様…… 私も付いて行っても良いですか?」
「私も! お師匠! 私も連れていって下さい!」
必死に片手を上げてぴょんぴょんと飛びながらアピールするレシアーナも含め、子供達が声を上げると、ツィオラさんは片手を額に充てて呆れた様子でため息を吐いていた。
「……あのね? 酒場は子供達が行くようなところじゃないのよ? さっきも言ったけど、酔っぱらった人が多いし、怖い思いをするかもしれないんだから……」
「……ふむ」
そんなツィオラさんに対して師匠は何やら考え込むような仕草をすると、意外にも乗り気な様子で声を返してきた。
「まあ、良いだろう。いずれお前達も行く場所だ。今日は稽古もなかったし、たまにはそういうところを案内してやっても良いだろう」
「え? 本気?」
「ああ。エリシルなどの話もここで整理しておいても良いと思ってな。それに、例の件が片付いたことを祝うというのも悪くないだろう」
「それはまあ……そうかもしれないけど……」
「というわけだ。お前達、行くのなら準備をしろ」
そんな師匠の言葉にみんなは顔を合わせると笑顔を浮かべる。なんか、すごいことになったな……。




