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第44話 鍛冶屋親子

「―ここです」


 そうして、孤児院からみんなを連れて俺が向かったのは街外れにある小さな鍛冶屋だ。周囲にはあまり人もおらず、客も少なさそうなその店を前に、ミュラとマフィが呆れた様子で声を上げる。


「またなんか怪しいお店……」

「レシアーナのお店もだけど、シュウってこういうお店どこで見つけて来るんだろうね……」

「えぇ!? ちょ、ちょっと待って下さい! さり気なくうちの店が怪しいって言ってません!?」

「まあ……実際、路地裏に構えてるし、あの見た目だしね……」


 ミュラとマフィの言葉にレシアーナが抗議する中、ツィオラさんは肩をすくめながら自嘲気味に声を返していた。自覚はあったんだ……。


 そんな中、バルフォードさん達はその鍛冶屋を前に興味深そうに眺めながら声を返してくる。


「まあ、でもよ、確かにこんだけ人目に付きづらい場所なら例の話をするには良いんじゃねぇか? 王国の連中の耳に入るとまずいっつー話だったしな」

「そうね……入るのは少し勇気が要るけれど……」

「ところどころ煙が出てるしね……」

「鍛冶屋ですし、剣を打ってるだけですよ」

「いや、それは分かるけど……煙突からじゃなくて窓から煙出る? 普通……」


 クラムさんの言う通り、目の前の鍛冶屋には煙突が備え付けられているものの、煙突どころか窓からも煙が出ており、さらに怪しさ満点の見た目になっていた。まあ、確かに普通はならないな……。


「安心して下さい。見た目はアレですけど、中の人達は面白い人達ですし、悪い人じゃないですから」

「シュウ、このお店に入ったことあるの?」

「え? あ~、まあ……そういう評判ってだけだよ」


 そんな俺の言葉にエリシルが疑問の声を上げると、俺は誤魔化すように声を返す。しまった……まだこの店に直接入ったことないし、迂闊なことは言わないようにしないと。


「ともかく、入ってみましょう。人目に付かない鍛冶屋なんてそうそうありませんから―」


 そう言って、周囲が訝しげな視線を向けてくる中、俺が鍛冶屋の扉に手を掛けようとした瞬間―ボォン! ともの凄い量の煙とともに扉が開かれた。


「げほっ、げほっ……! ま、またやっちゃった……」


 すると、その声とともに俺が一方的に見慣れた少女が出てきて目に入った煙で涙目になっていた。


「……え? あ、あの、もしかして、お客さん?」

「もしかしなくても、お客さんです」

「…………」


 俺と顔を合わせていた少女はしばらくポカーンと呆気に取られた顔をしていた。


「パ―じゃなかった、親父! 客だよ、客!」

「な、何イイイイイ!?」


 そうして、奥から聞こえてくる声に仲間達の視線はさらに険しくなっていった―。





「―うちに来るたぁ、見る目があるじゃねぇか」


 そんなこんなで店に入った俺達を出迎えたのはいかつい男のコドン、そしてその娘のラクシアだ。 そう……この二人こそ、『プリテスタファンタジー』で序盤から最後まで世話になる鍛冶職人であり、父親と娘の二人で鍛冶屋をしている。


 ゲーム内ではそもそもプレイヤー側からは他の利用客なんて分からなかったけど……見た感じ、これは俺達以外ほとんど客居なさそうだな。すると、ラクシアはそんな俺達を興味深そうに見ながら声を返してきた。


「あたいはラクシア、そっちは親父のコドンさ。それにしても、見ない顔だね……しかも子供まで連れてるし……あ、もしかして、稽古用の剣でも直しに来たのかい?」

「あ、いや、その……なんだ……」

「なんて言えば良いのかしら……」

「……?」


 ラクシアの質問にバルフォードさんとルアールさんがどう答えようか悩む中、俺はラクシアに声を返した。


「いえ、ここに腕利きの鍛冶職人の方が居ると聞きまして……周囲には他言無用で引き受けて欲しい仕事があって来たんですよ」

「他言無用って……子供なのにずいぶんと難しい言葉を知っているじゃないか。ま、どうせ子供が言う秘密なんて大したことじゃないだろうけどね」


 そうして、俺の言葉にラクシアさんが無邪気に笑う中、ふとツィオラさんと師匠も言いよどむように声を返していた。


「いや、それはどうかしら……」

「ああ……今回ばかりは確かに他言無用としか言いようがないからな……」

「ん……? お、おい、あんたよく見たら『宮廷魔導師』をしていた魔女じゃないか! それに、そっちは元騎士団長さんじゃねぇのか!?」

「え……!? そうなの!?」

「ええ、まあ……」

「ああ……今は騎士団を引退して今はそこに居る子供達の稽古をしているがな」


 そんな二人にラクシアさんとコドンさんが驚くと、二人は俺達に背を向けてひそひそと話し始めてしまう。


「……ねえ、パパ。引退した元騎士団長に宮廷魔術師って……この人達の依頼引き受けて大丈夫? 最近、騎士団の噂も酷いし、変に国に目を付けられでもしたら……」

「人前でパパはやめろって言ったろ……いや、しかし、最近まったく仕事はねぇからな……」

「いや……でも、子供はともかく、あまり見たこともない人も居るし、そんな怪しい仕事を引き受けるのはちょっと……」


 まあ、バリバリ聞こえてるけどね。

 しかしまあ、バルフォードさん達は『オクトール王国』の人間だし、『宮廷魔導師』に元騎士団と全く関わり合いのなさそうな人間の集まりであることは間違いない。さて、ここはやはり俺のゲーム知識による『交渉術』が役に立つ時だろう。


 実は『プリテスタファンタジー』には「世間話をする」というコマンドがあり、そこでは物語とは関係のないどうでも良い情報を知れるのだが……それらも全て記憶している俺には彼女を『説得』する


 そう……ラクシアさんは実はレシアーナのように父親であるコドンさんのお気に入りの剣を一本折ってしまっているのだ。本来ならゲーム内で活かされることはないこの要素……しかし、今という状況ではこれ以上にないくらい『説得』としては充分だろう。


「ラクシアさん、ちょっと良いですか?」

「え? あ、なんだい? えっと……ん? なんか、あんたどっかで見たような……」

「シュウと言います。この街の孤児院に住んでるので、どこかで見掛けたことがあるかもしれないですね」

「あ、孤児院に……なんか悪いこと聞いちまったね」

「いえいえ。それより、ラクシアさんにちょっとお聞きしたいことがありまして」

「あたいに聞きたいこと? なんだい?」

「ラクシアさん……何か隠し事、ありますよね?」

「……っ!?」


 俺の言葉に明らかに動揺した様子を見せるラクシアさん。そんな彼女の様子にレシアーナが「あぁ……」とかジト目を向けてくるが、気にせずに俺は話を続けていく。


「な、なんのことだい? そりゃ誰だって隠し事の一つや二つくらい―」

「え? 一本だけでも問題なのに、まさか二本も折っちゃったん―むぐっ」


 俺が笑顔でそう言うと、すぐ後ろに居るコドンさんが首を傾げる中、ラクシアさんは焦りながら俺の口を両手で塞いできた。


「あ、あんた!? 一体、何を知ってるんだい!?」

「何って、たまたまここの前を通った時にラクシアさんが一本―」

「あー! あー!」

「……おい、ラクシア? さっきからどうしたんだ?」

「な、何でもないって!」


 あまりにも慌てる娘の行動が分からず疑問に抱いたコドンさんが声を掛けると、ラクシアさんは落胆した様子で声を返してくる。


「なんてこった……まさか、あれを見られてたなんて……」

「……ねえ、ラクシアさん」

「な、なんだい……?」

「人間、誰でも一つや二つ……秘密があるんですよね?」

「うっ……!?」

「秘密って……一人より二人で共有した方が良いと思いません?」

「あ、あたいを揺すってるつもりかい!?」

「え~? 僕まだ子供なので揺するって言葉分からないな~」

「こ、この子……!」


「それはそうと、他の人には黙ってて欲しい仕事があるんですけど……秘密を守ってくれそうな鍛冶職人が知り合いに居なくて……」

「ぐっ……!」

「あ~あ……秘密を、守ってくれる、鍛冶職人が居たら、俺も秘密を守るんだけどなぁ~?」

「っ~……! あぁもう! 分かったよ!」


 そんな俺の言葉に観念したラクシアさんは顔を真っ赤にして立ち上がると、ますます怪訝な顔をしたコドンさんが心配そうに声を返してくる。


「おいおい……さっきからどうしたんだ?」

「え? あ~、いや……」

「心配しないで下さい。実はラクシアさんとは仲良くしていたので、それで依頼の件を相談していただけですから」

「え!?」

「あん? なんだ、そうだったのか?」

「あ、あ~……う、うん、まあ、そんなところ……」

「ったく、それならそう言えって。他言無用だなんて言うから少し身構えちまったが、ラクシアの知人ってんなら歓迎するぜ。よぉし、久しぶりに仕事だ! だーはっはっはっ!」

「あはは……」


 テンションが高いコドンさんに対してラクシアさんが涙目で恨めしそうな顔で俺を見てくるが、話がまとまって良かった良かった。そんな対照的な二人の様子に何やら勘付いた仲間達から呆れた視線が向けられる中、俺は二人に声を返す。


「それでお二人にはとっておきの素材を加工してもらいたいんですよ」

「とっておきの素材……?」

「ええ。それと、さっきも言った通り、このことは他言無用にして欲しいんです」

「他言無用ねえ……ま、ラクシアの知り合いってんなら悪さをしてるわけじゃねぇだろうし構わないぜ」

「ありがとうございます。それじゃあ、今からその素材がある森まで案内しますが……量が量なので、大きな荷車も用意していきましょう」


 そんな俺の言葉に二人は訝しげに顔を合わせたのだった―。

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