第40話 怪しい国王
「……此度は我が娘の誕生会に参加してくれたこと、大いに感謝する」
いかつい顔でそう言う国王に周囲の人々が声を上げる中、俺は言いようのないその感覚に身を包まれながら息をのむ。国王はその間も周囲に視線を向けながら低い声で話を続けていく。
「我が国はやがてこの大陸にある全ての物を手に入れることであろう……そして、それは物だけではなく国も同じ……全ての国はやがて私にくだり、それら全ては我が国を成長させるために働くであろう。そして、約束しよう―」
そう言って、国王は手元に持ったワイングラスを掲げながら大きな声で叫ぶように宣言した。
「―我が国に、永遠の繁栄をっ!」
すると、アティル様の誕生会だというのに主賓である彼女を差し置いて国王の声に貴族達が続いて声を上げる。なんだ、この異様な光景……。
――さすが物語開始してすぐ隣国の『オクトール王国』を襲撃するように命じる人ってところか……やっぱり、この時点ですでに動き始めてるんだな。
そんな光景に圧倒されていると、ツィオラさんが周囲に聞こえないよう配慮した声を向けてきた。
「……驚いた? あれがこの国の王様よ。誕生会だけじゃない、国王主催のイベントはいつもこんな感じなの」
「つまり、アティル様の誕生会はそれの隠れ蓑……実際には貴族達からの支援を受けることを確認するための儀式のようなものに使われている、ということですか?」
「まあ、そんなところだけど……隠れ蓑って、君、難しい言葉を知ってるのね?」
「いやまあ、暇な時に本を読んだりして勉強してるので」
元は社会人経験もありますし。
「そうなの? 偉いじゃない。それにしても、こんな空間にいなければならないアティル様が可哀想ね」
「ええ、本当に……この様子を見ると、アティル様が俺達を呼んだのはそういう寂しさもあったのかな、って気がします」
「そうね……それはあるかもしれないわ」
そうして、俺がツィオラさんと話していた時だった。
奥でアティル様を連れて貴族の人達と話していた国王が俺に視線を向け、その瞬間、背筋がぞわっと何か冷えるような感覚がよぎる。
しかし、それも一瞬で国王は俺から視線を再び貴族の人達へと戻し、横に居たツィオラさんが心配するように声を掛けてきた。
「どうかした?」
「いえ……今、国王から視線を向けられていたようだったので……」
「さっきの件を考えれば、名のある貴族の中に身に覚えのない人間が混じっていたから……と考えたいところだけど」
「そうですね……」
あの目……間違いなく俺を見てた。
そんな国王の視線に言いようのない感覚を覚え、俺はその手を強く握りしめると、国王がずんずんと大きな体で近付いてくるのが分かった。
「陛下がこっちに来るわよ……」
「はい……」
まさか、国王と直接対面するとは思わず手に力が入る。そして、周囲の視線が集まる中、俺の目の前で止まった国王はその目で俺を見ると、アティル様を横目に低い声を向けてきた。
「……その者達はお前が呼んだという客人か?」
「あ……ええ、お父様。以前、こちらで騎士団の団長を務めていらしたフェレールに剣を教わっている方々です。街の住人達と定期的な交流をしていますが、その際に偶然フェレールと会い、この方ともお会いいたしました」
「陛下。お初にお目にかかります。アティル様にお招き頂きましたシュウと申します」
本当に人なのかと思うほどの圧が発してくる国王に冷や汗を流しつつも、俺は丁寧な仕草で頭を下げる。すると、それを見ていた国王はやがて静かに声を返してきた。
「……良い。我が娘の誕生を祝う席だ……何者であれ、歓迎しよう」
「ありがとうございます、陛下」
その言葉に見透かしてくるような何かを感じて息をのむが、今はあくまでも自然でいないといけない……そう思って平静を装う中、国王はその視線をツィオラさん達へと向けていった。
「……そこに居るのは魔導師か。久しいではないか」
「ええ。ご無沙汰しております、陛下」
「またお目に掛かれ、光栄です」
「うむ……しかし、騎士団の元団長と元宮廷魔術師とは……妙な縁があるものよ」
そうして、ツィオラさんと師匠の言葉に国王は再び俺に視線を向け、そんな国王を怖がったミュラやエリシル、マフィやレシアーナが俺の服を掴んで後ろに隠れるものの、国王の目は俺だけを見ていた。
「……せいぜい今日は楽しんで行くが良い」
しかし、やがて国王は背を向けると、心配そうな顔を見せるアティル様を連れて去っていき、そんな状況にみんなの中に張り詰めていた空気が取れてため息がもれる。
――あれが国王? 噓だろ? ゲームの中のイメージと全然違うじゃないか……本来、序盤のボスという設定だからいかにも弱そうなイメージのキャラクターのはずなのに……あれじゃ、まるでラスボスだよ。
近くに居るだけで圧倒され、流れた汗を拭きつつそんなことを考える。
そうして、国王の動きに警戒しつつパーティは続いていったが……その後は意外にも誕生会パーティで国王と接触することもなく、あっけなく終わりを告げたのだった―。




