第39話 国王登場
そうして、俺が視線を向けたことに気付いたみんなが視線を返してくると、俺は笑顔で褒めてあげることにした。
「みんな、よく似合ってるじゃないか」
「別に……」
「ミュラったら素直じゃないんだから……ありがと、シュウ」
「こういう服着るの初めてだから緊張する……」
「大丈夫、三人ともよく似合ってるから」
慣れない服で不安がっていたようで、ミュラもエリシルもマフィも喜んでいた。しかし、そんな中でレシアーナは相変わらずというか誤魔化すように声を返してくる。
「べ、別に~? シュウさんに褒められても、全然嬉しくないですけどね~?」
「あれ? そういえば、誰かさんが壺を割って―」
「う、噓です噓ですっ! 本当はすごい嬉しいですっ! 素直に言わなくてすいませんでしたぁっ!」
「はっはっはっ、レシアーナは素直だな~」
「んぎぎ……絶対いつかシュウさんの秘密を手に入れてぎゃふんと言わせてやりますよ……!」
「こらこら、女の子がそんな声を出すもんじゃないぞ? それと、そんなことお前には絶対無理だから考えるだけ無駄だから」
「むきぃ~!」
喚き散らして俺を叩いてくるレシアーナに俺が笑顔で返していると、そんな俺達を呆れたように見ていたツィオラさんと小さく笑みを浮かべて見ていた師匠がパーティの中心に視線を向けながら声を返してくる。
「それにしても、王族の誕生会って相変わらず派手ね」
「ああ。護衛の時は外から見ていたが、参加するとなるとやはりまた別だな」
「こう言っちゃなんですけど、街で騎士団が起こしてる騒動とは無縁って感じですよね」
「まあ、ここに居るのはお金持ちの貴族達だからね……わたし達みたいな一般人のことなんて噂で聞くことはあっても関係ない、って感じなんでしょ」
「そうだな……。彼女の言う通り、騎士団の件はあくまでも一般人にのみ危害が加えられているだけ……彼らにとってはわたし達のことは些事に過ぎないのだろう」
「なんていうか……格差社会ですよね、この世界って」
「世の中、そんなものよ」
「それはそれとして、ツィオラさん、みんなの服を用意してくれてありがとうございます」
「別に気にしないで良いわよ。そうそう着る服じゃなかったし、その子達に着てもらった方が良いし」
「でも、ツィオラさんも似合ってますよ」
「ん? ……そ、ありがと」
そう言って、ツィオラさんは軽く答えた後、近くを通ったワインを配る人からワインをもらって俺達に背を向けてワインを軽く飲む。何年生きているかは教えてくれないけど、やっぱり大人だなぁ……と思うが、なんか褒めたら背を向けてるけどあれ絶対恥ずかしがって逃げたな。よく見ると少し顔赤いし。
「ツィオラさん、もしかして照れてます?」
「そんなわけないじゃない。見て分かるでしょ? お酒を飲んだから熱いだけよ」
「いや、まだ飲んだばっかりですよね」
「あまり強くないから飲まないの。それより、料理取り分けて来てあげる」
「あ、お師匠、逃げましたね―あ痛ッ!」
「レシアーナ、変なこと言わないの。罰としてあなたも手伝いなさい」
「え~!? そんな~!? 本当のことを言っただけ―むぎぃ!?」
「はいはい、さっさと行くわよ」
レシアーナはその口を引っ張られながらツィオラさんに引きずられていくが、「口は禍の元だぞ」と言うだけ無駄な奴なので放っておく。あいつはその騒がしさが取り柄みたいなキャラだし。
そんな中、少し離れた場所でパーティの様子を見ていた師匠の隣に並んで声を掛けた。
「師匠も似合ってますよ」
「む? そうか? わたしもこのような服を着たのは初めてで勝手が分からなくてな……まあ、似合っていると言われて悪い気はしないな」
「確かに、師匠って騎士団が長いって話でしたもんね」
「ああ。鍛えること以外に興味がなかったからな。騎士団に入ったのも、己の強さを磨き、正しい力として使いたかったからだ。もっとも、今の騎士団にはかつてのわたしが思い描いていたような理想はなくなっているようだがな……」
「そうですね……できればそれを止められれば良いですけど」
「ああ……その為にも今はアティル様が頼りだが―」
「―シュウ様! 皆様も! いらして下さったのですね!」
「アティル様……」
そうして、俺が師匠と話していると、アティル様が大勢の人達を連れて満面の笑みで現れ、その周りに居た側近や貴族の人達が俺達を軽く見ながらアティル様に声を掛けていた。
「アティル様、あの者達は……?」
「わたくしの客人です。わたくし自ら彼らを招待いたしました」
「ほう? アティル様自ら……では、どこかの貴族の方ということですか?」
「ん? ほう? よく見れば、かつて『宮廷魔導師』をしておられたツィオラ様と元騎士団の団長殿もおられるではないか」
「ええ。色々あって久しぶりに交流があり、呼ばせて頂いたのですよ。失礼ですが、今はあの方達とだけ話させて下さい」
「はっ……かしこまりました」
「では、皆様、また後ほど」
そう言って、側近を止めたアティル様がドレスの裾を掴んで挨拶すると、他の人達は戻っていき、それぞれ話に興じていく。そして、俺達の下へと来たアティル様のドレス姿に俺は声を返した。
「アティル様、誕生日おめでとうございます。今日も一段とお綺麗ですね。そのドレス、よく似合っていますよ」
「本当ですか!? シュウ様にそのように言って頂けるなんて感激です……! ありがとうございます!」
うーん、なんかアティル様の中の俺の株が上がり過ぎてるような? まあ、夢の中の人物がいると思わなかったし、仕方ない……のか?
そうして、俺が疑問に抱いている中、ふとアティル様は何か思い出したように周囲の様子を見て俺達以外に人が居ないことを確認すると、俺の耳元でこうささやいてきた。
「シュウ様……この後、父も来られます」
「国王陛下が……」
「ええ……わたくしは主賓なので、この後すぐにあちらの席に向かいます。父はその隣に座る予定です……あ、父が来られたようですね」
ドアが開く音が聞こえると、アティル様がそう声を返し、俺もその方向に視線を向ける。さて、いよいよ、一面のボスと対面か……。
「陛下だ!」
「陛下が来られましたわ!」
そんな俺の思いとは違い、周囲が国王の登場に声を上げ拍手が上がる中、俺が視線を向けようとした時だった。
―ドクンッ!
言いようのない気配を再び感じ、自分の胸が締め付けられるような気持ちになった俺は思わず息をのんでしまう。
――なんだ、すごい嫌な感じがする……? まるで、エリシル達が死にそうになった時みたいな……。
そんな気配に冷や汗が流れていく中、俺はゆっくりと入ってきた国王に視線を向けていく。すると、俺は自分の目を疑った。
――なんだ? あの黒いオーラみたいなのは……? あれ、本当に序盤で倒される国王なのか?
周囲がその登場に騒ぐ中、そこからまるで黒いオーラが湧き出ているその光景を見ていると、まるでエリシル達を失いそうになったあの時と同じ感覚になり、思わず俺が顔を強張らせていると、それに気付いたミュラ達が声を掛けてきた。
「シュウ……? どうしたの? 大丈夫?」
「ミュラ……いや……」
「もしかして、体調でも悪いの?」
「ほんと? それならお師匠様に声を掛けて来ようか?」
「エリシル、マフィ……みんな、あれが見えてないのか?」
「あれ……? 王様のこと……? 別にここからでも見えてるけど……」
俺の言葉にミュラが不思議そうな表情で首を傾げる。いや、ミュラだけじゃない……レシアーナ、ツィオラさん、師匠やバルフォードさん達も心配そうな顔で俺を見ていた。
――つまり、俺にだけあの黒いオーラみたいなのが見えるってことか? よく分からないけど、ちょっと国王のステータスでも見てみるか……。
そうして、そのステータスを見ようとしたが―
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??? Lv ???
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「なっ……!? レベルもステータスも全部見れない!?」
どういうことだ!? 俺以外でこんなの初めてだぞ……!?
そんな俺の言葉にみんなが心配そうな顔を向ける中、アティル様の隣に立った国王は声を上げた。




