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第37話 王女の悪夢

「この事は国王様に秘密にしておいて頂きたいのですが……」

「もちろんです。ということは、もしや、その『ヒュドラ』を……?」

「ええ、みんなで力を合わせて『ヒュドラ』を倒しました」

「すごいっ……! 王国の騎士団や他の国も倒すことができなかった『ヒュドラ』を倒すなんて……さすがシュウ様ですっ!」


「ん? あれ? 倒したのが俺だけになってません?」

「つってもまあ、トドメを刺したのは坊主だしな。あながち間違いじゃないだろ」

「そうね……私達は最後見てるだけだったし……」

「最後が一番暴れ回ってたし、私達だけだったら手に負えなかったもんね……」

「そうですかね?」


 バルフォードさん達の言葉にそう答えると、ツィオラさんやレシアーナも頷きながら声を返してくる。


「実際、彼女達の言う通り『ヒュドラ』の最後は凄まじかったしね……そもそも、本来なら私が死ぬ気で足止めするつもりだったんだから……」

「非常に認めたくないことではありますが、一応、あの場で一番活躍したのはシュウさんでしたからね」

「いや、そうだとしても俺一人で倒したわけじゃないんだが……」


 俺がそう答えると、目を輝かせた王女様が声を返してくる。


「こんなに大勢の人々から慕われているなんて……さすがはシュウ様です!」

「あれ? なんか王女様の中でやたら俺の株が爆上がりしているような……」


 ゲーム内じゃこんな風じゃなかったはずなのに……どうしちゃったの、王女様?


「まあ、それはともかく……どうあれ、エリシルが夢で未来を見ていたってこともありますし、王女様の夢の件も同じように未来を見てるのなら、これは国王相手に有利になると思うんです」

「つまり、未来が見えてる分、国王が何かするにも先に手を打てるってことか?」

「そうです。例えば、国王は将来、王女様を幽閉している間に自分に逆らう者達を始末しようと、街に騎士団達を放つという強硬手段に出ますが、その場所が分かれば手の打ちようはいくらでもありますからね」

「夢の中で確かに父がそのようなことをしていたという話を聞いたことがありましたが……あら……? わたくし、シュウ様にそのお話をしましたっけ……?」

「……えっと~」


 やっべぇ、思わずゲーム内で起こるイベントそのまま話しちゃったよ……。本来なら王女様の口から話させることで辻褄を合わせようと思ってたのに、ついネタバレみたいな感じで口にしちゃった。


 周りからすごい驚いた目を向けられてるし……ここはどうにか誤魔化さないと。


「……いえ、王女様の話を聞いて、もしやそういうこともあるのではないかと思った次第でございまして」

「夢の話を聞いただけで、そんなことまでお分かりになられるのですか!? すごいです! まさに、シュウ様のおっしゃる通りです! そんなことまで分かるなんて……! まるでわたくしの夢を知っているかのようです! やはり、シュウ様は夢の中に出てきたシュウ様なのですね!」

「すげぇな、こいつは……俗に言う『神童』って奴じゃねぇのか、こりゃ」

「いやぁ、ははは……」


 「いやまあ、ゲーム内で見てますからね」とは言えず、徐々に墓穴を掘るだけなのでこれ以上は何も言わなかった。もう何を言ってもプラスにしか取られなさそうだ、これ……。


「ともかく、俺達は王女様の味方としてやっていきたいと思うんです。みんなもそれで大丈夫ですか?」

「ま、こっちとしても、坊主達の襲うことを命じるような国王の横暴を見て見ぬふりするつもりはねぇからな」

「わたしも賛成よ」

「うん。一緒に頑張ろうね」


 そんなバルフォードさん達に続き、ミュラとエリシル、それにマフィと師匠も強い目で声を返してきた。


「わたし達だって王様がそんな酷いことをするのは許せない……だから、シュウと一緒に戦うわ」

「そうね。それに、孤児院のことだって絶対守ってみせる」

「うん。お師匠様に教えてもらった剣はこういう時にこそ、使うものだしね……そうですよね?」

「……本来なら、お前達に戦わせるのは遠慮したいところだが、『ヒュドラ』の件でお前達の成長を見た以上、そうも言っていられんな。元騎士団に務めていた身としても、騎士団や国王の暴走を止めなければならん……その時はわたしも一緒に戦おう」

「ありがとうございます、師匠」


 そして、レシアーナとツィオラさんが声を返してくる。


「お師匠……わたし達も……」

「ええ……君、確か魔導師を探していたってレシアーナに言ったそうね?」

「あ、はい」

「なら、レシアーナはまだ半人前だし、いざという時はわたしも同行してあげる。まあ、『ヒュドラ』の時にあんな情けない姿を見せちゃったわたしが言うのもなんだけどね……」

「そんなことないですよ。ツィオラさんが最初に『ヒュドラ』の頭を一つ倒したからこそ、俺達で倒せたんですから。なので、ツィオラさんのことをあてにさせてもらいますね」


「まったく……生意気なことを言うわね。そういうわけで、アティル様、わたしも彼らと同じくアティル様のお力にならせて頂きます」

「まあ! ツィオラ様が手伝って下さるなら、とても心強いです」


 そういえば、ツィオラさんって元は『宮廷魔導師』だったんだよな。そうして、俺が納得していると、ふと王女様は周囲のみんなに視線を向けて声を上げた。


「実はあなた方のお顔も夢の中で見たことがあるんです」

「え? そうなの?」


 王女様はルアールさんの言葉に「はい」と頷きつつも、どこか悩むような仕草で声を返す。


「ただ、シュウ様のことや父を倒した時と違い、何というかもやがかかったような感じで……はっきりとは思い出せないのですが、顔にどこか見覚えがあるような……そんな感じがするのです。あなたのこともどこか見覚えがあって……」

「え? わたし……ですか?」


 そして、王女様はミュラの方に視線を向けながらさらに首を傾げながら続けていく。


「はい。夢の中に出てきたことは間違いないのですが……申し訳ありません、変なことを言ってしまいましたね。忘れて下さい」

「えっと……はい……」


 まあ、本来ならミュラは王女と敵対してたしな。ゲーム内でちゃんと顔を見る機会もほとんどなかったし、その影響もあるのかもしれない。


 そうして、話がひと段落すると、王女様が声を返してきた。


「では、今後、わたくしは夢の内容のことやそれと可能な限り城の内部から父の情報などを集めるなどして微力ながら協力させて頂きます」

「それは嬉しいですけど……良いんですか?」

「はい。正直、夢のことを信じて下さる方が居て安心したというのもありますし、そのお相手がシュウ様というのは本当に心強く嬉しかったです……しかし、それと同時にそちらの方のように夢が未来を映している正夢となるのなら……やはり、何もしないままというわけにはいきませんから」


「王女様……」

「アティル」

「……ん? えっと?」

「王女様などとそのように他人行儀になさらないで下さい。わたくしのことはアティルと呼び捨て下さい」


 いや、いきなりハードル高いな。

 そりゃゲームのキャラクターを呼び捨てするのはおかしくないけど……さすがに現実で呼び捨てする勇気なんてないよ、俺。それこそ、お付きの人に「不敬な! 侮辱罪で処刑する!」なんてシチュエーションはごめんなんですが……。


「あ~、え~と……」

「……」


 何そのわくわくみたいな純粋な目……しかも、なんか女性陣の視線がなんか怖い。

 よく分からないけど、このイベントをこなさいと先には進めないってことだろうけど……仕方ない。


「アティル……様、でどうでしょうか?」

「……むぅ、仕方ありませんね。今はそれで我慢しましょう」


 ふぅ……どうにか切り抜けたか……って、あれ? なんか悪寒がすごい?

 おかしい……みんな俺がさっさと名前を呼ぶように急かしてたんじゃないの?


 そうして、俺が女性陣達の鋭い視線に晒されていたのだが……イベントはまだ終わっていなかった。


「さて、方針が決まったところで……時に、シュウ様。こうしてお会いできたのも縁……ぜひ近日行われる誕生会に参加しては頂けませんか?」

「え? 誕生会ですか?」

「はい。実はわたくし、明日は十二になり、それを祝うのですが……シュウ様にはぜひ参加して頂きたく、それで側近を使って探させて頂いたのです」

「あぁ、そういう……とはいえ、俺が参加するのはちょっと……なので、申し訳ですが辞退させて頂こうかと―」


「そんな……!?」

「いや~、でも、さすがに俺みたいに王族どころか貴族ですらない孤児院の子供が俺が王族の方々のパーティに参加するわけには―」

「そんな……!?」

「ん? 何これ、強制イベントかな?」

「いえ、シュウ様が参加して頂けるまで粘ろうと思いまして」


 この王女様、なんか笑顔ですげぇこと言ってるんですが。というか参加して頂けるまでって……それ強制イベントですよ。

 すると、アティル様は周囲の仲間達に向かって声を上げる。


「もちろん、シュウ様だけではなく、他の人達も招待させて頂きます」

「え? わたし達も?」


 驚いたルアールさんが声を上げると、アティル様は笑顔で頷き返しながら声を返す。


「はい。誕生会には豪華な食事を用意していますし、皆さんにもぜひ堪能して頂ければと思っています」

「豪華な飯だと……!? そりゃあ、美味そ―ンンッ! おい、坊主……こりゃあ、敵情視察には持って来いじゃねぇか。こいつは願ってもねぇチャンスだ……と俺は思うんだが、どうだ?」

「せめてその口から出てるよだれを拭いてから言ってくれません?」


 みっともない大人を前に俺は脱力しながらそう答える。そういう人でしたね、この人……。


 しかし、城のパーティという話に女性陣は浮足立っていて、さっきまでの殺伐とした雰囲気はどこへやら、完全に誕生会に参加することを前提とした会話が繰り広げられており、そんな中、ツィオラさんと師匠が横に並びながら声を返してくる。


「城の王女様の誕生会パーティね……王族の誕生会は本来なら警備は厳重だし、他の人は参加できる場所じゃないから浮足立つのも分かるけどね」

「ああ。当日は我々が案内することになりそうだな」

「お二人は参加されたことがあるんですか?」

「国王様や王妃様の護衛としてね。各国から貴族なんかが集まる大規模なお祭りみたいなものよ」

「わたしは警備を任されていたが、参加する者達はどれも名のある貴族達ばかりだ。そんなパーティに招待されるというのはかなりのことだぞ」

「まあ、そうですよねぇ……」


 なんか、とんでもないことになってきたな……。

 そうして、俺がため息を吐いていると、アティル様が笑顔で言葉を返してきた。


「ふふ、明日が楽しみです」

「はは、そうですね……」


 何も起きなければ良いんだけどね……。

 こうして、俺はゲーム内に存在しないイベントにまた参加することになったのだった―。

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