第36話 王女襲来
―前回までのあらすじ。
『プリテスタファンタジー』というゲームの世界の男主人公シュウに転生した俺は、 ゲーム内でラスボスになるミュラと主人公マフィが争い合って悲惨なバッドエンドを迎えさせないため、ゲーム内では設定しか存在しなかったミュラが姉のように慕っているエリシルの命を助けたり、同じくパーティキャラクターであるレシアーナの慕っているツィオラさんを助けたりして、少しずつ原作から離れていきハッピーエンドに向かっていたのだが……気付いたら、ゲーム中盤で出会うはずの王女様なぜか孤児院に来ていた……終わり。
「―あれ? どうしてこうなった?」
そう言うと、俺は思わず机に突っ伏しながら頭を抱える。すると、そんな俺を王女様が気遣うように声を掛けてきた。
「どうかされましたか? もしや、ご気分が優れないとか……」
「いえ、何でもないです」
「あなたが来たのが予想外過ぎて頭を抱えてます」とは言えず、そう返すしかない俺。昨夜、城に潜入した時に王女様がなんか言ってたけど……まさか、一晩で俺を探し出すとは思わないよ……。
色々あって現実世界とゲーム世界の両方の記憶が曖昧に絡み、どこからどこまでが記憶なのか疑問に思ったりしてる中、ミュラがラスボスになるフラグ……孤児院を王国に壊され、孤児達が殺されるという最悪のイベントを防ぐべく、王国にある城へ潜入した……そこまでは良い。
しかし、そこで俺は本来ならずっと先に会うはずの王女様に顔バレした……まあ、それでも、探すことなんて出来ないだろう……そう思っていたが、甘かった。
「―申し遅れました。わたくしの名前はアティル・フィスタリア。この国の王女を務めております」
いかにも古い孤児院の中、あまりにも不釣り合いな豪華な服装をした少女は俺達に向かって上品な仕草で一礼した後、笑顔でそう口にした。
孤児院にはミュラとエリシル、マフィと師匠、レシアーナとツィオラさん、それに見舞いに来てくれたバルフォードさんやルアールさん、クラムさんも来ていた。さらに、孤児院のミエク先生も同席しており、特にミエク先生は複雑な表情で俺と王女を交互に視線を向けている。
――まあ、ミエク先生からしたら孤児院を取り壊そうとしてる国王の娘だもんな。そりゃ複雑だろう。
しかし、それは事情を知っている他の人達も同じだ。そんな中、王女は優しい笑みを浮かべると、俺の手を両手を掴みながら嬉しそうに声を上げてきた。
「まさか、シュウ様が本当にいらっしゃるなんて……」
「ちょっと、シュウ! 一体、王女様と何があったのよ!?」
「昨夜はあまりにも嬉しくて眠れませんでした」
「さ、昨夜!?」
「シュウ……あなた、本当に王女様と何があったの?」
「え? いや~……」
突然のことにミュラとエリシルが驚く中、マフィが声を向けてくると、俺はどう言って良いか分からず曖昧に濁す。城に潜入した、なんて言ったら絶対怒るもんな……。
「それはそうと、王女様はどうしてここに?」
「もちろん、シュウ様にお会いするためです」
「ですよねぇ~……というか、昨日の今日でどうやって俺を探し出したんですか? さすがに一回会っただけの人間を探すなんて、いくら王族の方でも難しいと思いますけど……」
「大変失礼かと思ったのですが、家来に探させて頂きましたの」
「へぇ~……」
いや、失礼通り越して怖いんですが。王族半端ねぇ……。
「あー……でも、そもそも家来の人達には俺の顔とか分からないはずですよね? それだと探すのは大変だった思うんですけど……」
「あ、それはですね……」
そう言って、王女様は懐からごそごそと何やら取り出すと、それを俺達に見えるように広げて満面の笑みを向けてきた。
「わたくし、実は子供の頃から夢に見たシュウ様のお顔を忘れないためにずっと似顔絵の練習していたんです」
「うわぁ……お上手ですねー……」
「そ、そんなことは……! でも、シュウ様にお褒め頂けるなんて……」
そう言って、頬に手を当てて恥ずかしがる王女様の絵だが……なんか少女漫画の男キャラみたいにキラキラしていた。いや、よくこれで見付けられたな……ほとんど別人ですよ、これ。
「シュウ様を夢に見たのはずっと未来のこと……なので、まさか街中に居るは思わず、その時をただ待つだけでした。その間、わたくしはただ毎晩シュウ様の似顔絵を書き続けていたのですが……昨晩、現れた方がシュウ様だったことに運命を感じたんです」
「運命……? って、もしかして、あの時も俺の似顔絵を……?」
「もちろんです! まさか、シュウ様がベランダからいらしてくれるなんて……まるで物語のようでとても嬉しかったんです」
そう言って、乙女モード全開で照れる王女様に俺は言葉を失っていた。あれ? もしかして、俺、自分から変なルート開拓しちゃった?
「夢の中……未来……? それって……」
そうして俺が自らの行いに頭を抱えていると、エリシルが驚いたような声を上げながら視線を向けていることに気付き、声を掛ける。
「実は王女様はエリシルと同じで夢の中でずっと未来を見ていたんだってさ」
「え? そうなの?」
「ああ。王女様、こちらが昨夜話した未来を夢に見ると話したエリシルです」
「まあ! あなたがシュウ様がおっしゃられていたわたくしと同じような夢を見る方なのですね!」
「あ、えっと、王女様と同じかは分からないですけど……」
エリシルの手を掴んで喜ぶ王女様にエリシルが困惑した表情で笑みを浮かべる中、ツィオラさんとレシアーナも呆れた様子で声を向けてくる。
「王女様と知り合いだったのは驚いたわね。何をどうしたらそんなことになるのやら……」
「そ、そうですよ! 昨晩って何の話なんですか!?」
「まあ、色々あるんだよ……」
そうして、王女様の登場で困惑する中、俺達の様子を見ていたミエク先生は大きくため息を吐くと、王女に声を返した。
「……それで? 王女様が何の用だい? 悪いけど、この孤児院を取り壊そうっていう陛下の話なら受けるつもりはないよ。こっちは日々頑張って生きてるんだ。いきなり出てけ、なんて言われても認められるわけないじゃないか」
「え……? この孤児院を取り壊す……? 父はそのようなことをおっしゃっているのですか……?」
「何だい? 王女様は知らなかったのかい?」
「ええ……最近、父が街で色々なことをしていたことは存じていましたが……父はなぜ、そのようなことを……」
「この孤児院を取り壊して街の開発を進めたいんだとさ。ここを潰した後は工場を建設するそうだよ」
「そんなっ……!? 父はなんてことを……!」
王女が言葉を失う中、バルフォードさん達が声を返す。
「なんだ? 国王がヤバい奴だから、てっきり王族みんなそんな奴らばっかりだと思ってたが、王女様は違うのか?」
「そうみたいね……」
「王女様は良い人そうで良かった……」
そうして、騒ぎ出す中、師匠が前に出てくると王女様の前に跪きながら声を返した。
「お久しぶりです。アティル様」
「フェレール……! まさか、あなたまでここに居るなんて驚いたわ」
そういえば、師匠は騎士団の団長だったから王女様とは顔見知りなのか。ゲーム内でも設定はあったけど、王女様が主人公達の陣営の指揮を執るようになってからは戦闘の連続でそういうイベントはほとんどなかったから忘れてたよ。
「はい。わたしはそこに居るシュウを含め、子供達に剣を教えておりました」
「まあ! フェレールがシュウ様にも剣を……すごい偶然……いえ、これは運命としか言えません」
「そう……ですかねぇ?」
王女様の言葉にレシアーナが何とも言えない顔で俺を見る。いや、俺が言いたいよ。
そんな中、ふと王女様は沈痛な面持ちで話を再開する。
「それにしても、父がそのようなことを……やはり、あの夢は現実になるしかないのでしょうか……」
「そういや、さっきも夢がどうこう言ってたな。坊主、どういうこった?」
「うーん……」
これって話しても大丈夫なのか? まあ、将来的にはみんな組むわけだし、ここまで来たら話した方が良いよな。
そんな俺に王女様は不安そうな表情で声を向けてくる。
「シュウ様……」
「大丈夫ですよ。この人達は俺の仲間ですし、信用できる人達です。彼らなら力になってくれると思いますし、例の夢の話を俺からしても良いですか?」
「分かりました……では、お願いいたします」
そうして、王女様に頷き返した俺はバルフォードさん達に簡潔に説明していく。
「実は王女様は子供の頃からある夢を見ているそうなんですが……その夢というのは、将来、王女様が国王を倒してこの国を治めるようになる、というものなんです」
「え!? それって、つまりお父さんを殺すってこと……?」
「……」
「あ、ご、ごめんなさい……」
「いえ、気になさらないで下さい。実際、その通りですから……」
失言だと思ったルアールが訂正する中、王女様は悲しそうな笑みでそう答えるが、その隣に居たバルフォードさんは「うーん……」と両腕を組みながら声を返した。
「しっかし、夢で未来を見るってのはにわかには信じられねぇが……」
「普通ならそうだと思います。ただ、これに似た話がエリシルにもあります」
「そっちの嬢ちゃんにもか?」
「はい。バルフォードさん達にも話しましたが……前に孤児院に騎士団が来た時、エリシルが殺されかけたって話……実はエリシルはその時のことを小さい頃から夢で何度も見て悪夢としてうなされ続けてたんですよ」
「そんな……」
「……」
クラムさんが両手で口元を覆いながら驚く中、エリシルは笑みを返してきた。
「でも、今は大丈夫です。シュウが助けてくれたから……」
「なるほどな……そっちの嬢ちゃんが夢の通りになったってことは姫さんの夢も正夢になる可能性があるってことか。納得したぜ。しっかし、やるじゃねぇか、坊主。さすが『ヒュド―」
「ちょっと、お父さん!」
「おっと、いけねぇ……」
「ヒュド……? もしや、それは『ヒュドラ』のことでしょうか?」
「え? あ~、いや~……」
口を滑らせたバルフォードさんをルアールさんが止めたが時すでに遅し。
まあ、王女様も秘密を話してくれてるわけだしな……。周りがため息を吐く中、俺は観念して話すことにした。




