第31話 記憶の中の光景
そんなバルフォードさんやミュラ達を横目に、最後の『ヒュドラ』の首の攻撃を引き付けていた俺をレシアーナとツィオラさんが援護してくれるが……最後の一つになった『ヒュドラ』の猛攻はこれまでとは比べ物にならないものだった。
「グオオオオオオッ!」
「危ねっ!?」
「きゃあっ!?」
「くっ……! 最後の悪足搔きか……!」
もはや、他の首もなくなった『ヒュドラ』は縦横無尽に遠慮なしに周囲に炎をまき散らし、全員が後退せざるを得ないもので、苦戦したバルフォードさんや師匠達が声を上げる。
そんな中、俺は一度避けて少し後退したものの、すぐに『ヒュドラ』へ向かっていくと、そんな俺に気付いた師匠とツィオラさん、そしてレシアーナが驚いた様子で声を向けてきた。
「シュウ!? 何をしている!? お前は足止めをしてくれれば良いと言ったはずだ! 危険だ! 一度下がれ!」
「彼女の言う通りよ! 一度態勢を立て直すべきよ!」
「そ、そうですよ、シュウさん! 一人で行くなんて危ないですよ!?」
「そんなこと言ってる場合じゃない!」
三人の言葉にそう答えた俺は足を止めることなく、『ヒュドラ』に向かって走っていく。すると、それに気付いた『ヒュドラ』が俺に向けて炎を吐いてくる。
「くっ……!?」
だが、俺はそれを避けながらも徐々に『ヒュドラ』へと近付いていくと、レシアーナに向かって声を返した。
「これだけ暴れてたら一度離れたら近付くのはもう不可能だ……! それに、この暴れよう……ダンジョンに逃げ帰るどころか、街に向かっていきかねないぞ!」
「そ、それはそうかもしれないですけど……!」
「だから、ここで『ヒュドラ』にとどめを刺す!」
「そ、そんな、無茶ですよ……!?」
「シュウ!?」
「坊主、無茶するんじゃねぇ!」
ミュラやバルフォードさん達が俺を止める声が聞こえる中、俺は構うことなく『ヒュドラ』の下へ走っていくと、その巨大な体を前に立ち止まる。
――まだあの胸騒ぎが止まらない……だから、このままじゃきっと悲惨なことになる。それを止めるためにはどんな強敵が相手でも倒さないといけないんだ!
そうして、『ヒュドラ』を前にした俺は再び吐き出してきた炎を避けると、一気に最後の首に向かって距離を詰めていく。
「今だっ……!」
他に首はなく、今までの炎には発射まで一定の間隔があった。ゲームと同じ仕様なら次に撃つまでに時間がある。この隙を狙えば―
「シュウ! 『ヒュドラ』がまた炎を吐き出すわ!」
「―え?」
マフィの言葉に俺は目の前の『ヒュドラ』に改めて視線を向ける。すると、そこにはまるで最後のあがきとばかりに、今までで一番でかい炎を俺に放とその口を開いているのが見えた。
「そんな……!? ゲームと動きが違う……!?」
「シュウ!?」
それに気付いた時はもう遅かった。
みんなが俺を呼ぶ声が聞こえる中、俺は『ヒュドラ』の炎に体を包まれたのだった―。
◇
この世界に来た時からずっと疑問に抱いていたことがある……そもそも、本当にこれはゲームの世界なのか、と。
確かに、俺は現実世界の記憶を持っていた。ただ、それは本物なんだろうか?
ずっと、違和感があった。
時々蘇る記憶……それはゲームの中とは思えないほど鮮明なものあって、俺がミュラと戦った時の記憶もある。俺はここに来た時、転生が初めてだと思っていた……だが、本当にそうなんだろうか?
しかし、同時にそこには俺ではない別の記憶……まだ幼かったミュラの目の前でエリシルの首が飛ばされた時の記憶―これは、ゲームなんかじゃない。現実に……この世界線ではない別の世界線で何度もミュラに起こっている絶望の記憶だ。
そして、俺の知るゲームとは違う、まるで古い映像のようにあふれてくるもう一つの記憶……『女帝』として王国に牙を向け、魔力で自分を強化し、強大な存在となったミュラ。その彼女と俺と同じように死闘を繰り広げ、とどめを刺したマフィはそんな彼女の下に歩いていき、涙ながらに声を上げていた。
――……どうして、私達が戦わないといけなかったんだろう。
――……なぜ、泣いているの? 敵であるわたしを倒したのよ、誇りなさい……。
――ううん……あなたと私は似てる……私もあなたも孤児でずっと孤独で……誰にも理解してもらえなかった。
――……あぁ。
――もっと早くあなたと出会っていれば……あなたと一緒に居たら止められたかもしれないのに……。
――……そうね。わたしも、あなたともっと早く出会っていたかった……もし、そんな世界があれば―
そうして、ミュラは目をつぶって声を返した。
――友達に、なれたかもしれないのにな。
それは確かにゲームの中のやり取りだ。しかし、その記憶は『偽物』ではない。
ミュラとマフィ、そしてシュウが戦った悲しい記憶が流れ込んでくる……こんなものゲームじゃありえないし、二人はきっと、俺が知らないだけで何度もそれを繰り返し、その度に泣いていたんだ……。
そんな悲しい記憶がただ、俺の脳裏に焼き付いて消えなかった―。




