第28話 決戦の火蓋
『ヒュドラ』に剣を構えた俺は自分の横に表示されたステータス画面に視線を向けると、そこに追加されていたスキルに目を向けた。
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竜属性ダメージ軽減
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そして、そのスキルを横目にボスに対峙した俺は冷や汗を流しながら心の中で呟いた。
――危ねぇ……つい勢いに任せてツィオラさんを助けに来たの良いけど、どうやって『ヒュドラ』の炎を受けようか考えてたら……『竜属性ダメージ軽減』か。まさか、こんなスキルが出てくるなんてな……おかげで『ヒュドラ』の炎を受けてもダメージはほとんどなかった。まあ、かなり熱かったけど……。それにしても、なんでこんなスキルが……? もしかして、『バジリスク』を倒しまくったからクラスチェンジしたとか? 一応、『バジリスク』にも竜属性は攻撃があったし……いや、でもそもそも俺はクラスが固定されてなかったけど……。
そうして、俺がステータス画面に視線を向けていた俺は再び『ヒュドラ』へと視線を戻すと、軽く深呼吸をして息を整える。
――それより、今は『ヒュドラ』だ。『バジリスク』を倒したおかげでレベルが1上がったけど……それでもLv36。Lv90の『ヒュドラ』の足元にも及んでない……でも、ここでツィオラさんを助けるにはこの『ヒュドラ』を倒さないといけないんだろうな。どっちにしろ、このまま街に逃げたらツィオラさんの言う通り、街が大変なことになる……街には孤児院や他の人達も居るし、それだけは避けないと。
『ヒュドラ』と向き合った俺がそんな風に考えていると、師匠が驚いた様子で声を返してきた。
「シュウ!? 大丈夫なのか!? 先ほど『ヒュドラ』の炎を受けたようだが……」
「あ、はい。幸い軌道を逸れたみたいで、そんなに熱くありませんでしたよ」
「軌道を逸れた……? いや、あれはどう見ても直撃していたが―っ!?」
そこまで言った師匠だったが、『ヒュドラ』が再び炎を吐き出し、それを避けると、俺の近くまで飛んできて声を上げた。
「話は後だ! シュウ、ミュラ達を連れて逃げろ!」
「いえ、俺は逃げませんよ」
「シュウ!?」
俺の言葉に師匠が驚いて顔を見てくるが、そんな師匠を横目に俺はツィオラさんに視線を向けると、声を掛ける。
「ツィオラさん」
「え? あ、な、何……?」
「レシアーナを―あいつを一人にしないであげて下さい。あいつ、あれでも結構寂しがりやなんですよ。まあ、俺に言われなくても、ツィオラさんならよく知っているんじゃないですか?」
「それは……」
「師匠……!」
「レシアーナ……」
「良かった……良かった……!」
そうして、俺の言葉に詰まったツィオラさんの下に涙を浮かべたレシアーナが駆け付けると、の体に体を埋めながら声を上げていた。そんな二人を横目に、俺は再び炎を吐き出そうとする『ヒュドラ』を前に剣を握り締める。
――いくら『竜属性ダメージ軽減』があるとはいえ、このレベル差だ……。正直、さっきのもかなり熱かったし、あとどれだけ防げるか分からない……。エリシルが狙われたり、数年後にミュラ達が危険な目に遭ったり、ツィオラさんが死んだり……相変わらず心を折って来るよな、この世界は。けど、絶対にそんなことさせるもんか。
心の中でそう呟いた俺は『ヒュドラ』に向かって一気に駆け出した。
「はあああっ!」
師匠と連携して俺も『ヒュドラ』の炎を避けながらその首を狙うが―
「くっ……! やっぱり、物理は効かないか……! 耐性が多いのは原作通りってことかよ……!」
「グオオオオオオッ!」
「うわっと!?」
剣が弾き返された俺に他の首が嚙みつこうとしてくるが、それを避けてツィオラさん達の下まで戻ると、それを見ていたミュラ達が声を上げた。
「シュウ!? 私達も行くわよ……!」
「うん、分かってる!」
「シュウ! お師匠様! 私達も戦います!」
「ミュラ、エリシル、マフィ……」
「ガキ共にばっかり負担掛けさせられるかよ! お前ら! 俺達も加勢するぞ!」
「ええ、行くわよ!」
「うん、行こう!」
「バルフォードさん達まで……」
そうして、決起した仲間達が『ヒュドラ』の炎を避けながら攻撃を開始すると、レシアーナに肩を貸してもらったツィオラさんがそれを見ながら深いため息とともに呆れた様子で笑みを浮かべる。
「……ほんと、君のせいでせっかくみんなを逃がそうとしたのに台無しよ」
「すいません。でも、ツィオラさんを置いて逃げるなんて出来ませんでしたから」
「ふぅ……まったく、困った子ね。やっぱり、子供って大人の言うことをなかなかきかないものね」
「そうですよ。それに、ツィオラさんは俺とも約束したじゃないですか。それなのに、一方的に破られるのは困ります」
「え? 君と約束を……? えっと、ごめんなさい……私達今日会ったばかりよね? それなのに、約束なんてした記憶は―」
「しましたよ、今日」
「今日……?」
「はい。帰ったらレシアーナと一緒にお説教するから、って」
「あ……」
俺の言葉が意外だったのか、ツィオラさんは呆気に取られた顔を見せる。しかし、それで少し元気を取り戻したようで、すぐに笑みを浮かべたツィオラさんが声を返してきた。
「ふふ、なるほどね……私は知らない間にレシアーナだけじゃなく、あなたとの約束を破るところだったわけか……」
「そういうことです。約束を破るのはいけないことですよ? だから、ちゃんとここで生き抜いて約束を守って下さい」
「これは一本取られたわね……なら、私は意地でも生きて約束を守らないといけないわね」
「はい」
「まったく……そんな笑顔で言われたら怒るに怒れないわね……。仕方ない……レシアーナ」
「え? あ、は、はい!」
「見ての通り、私はもうほとんど動けないわ……でも、少しくらいなら魔法が使えるわ。だから……手伝ってもらえる?」
「あ……は、はい! 任せる下さい! わたしだって魔法が使えますし、手伝います!」
そう言って、レシアーナとツィオラさんも杖を構え、俺も『ヒュドラ』に立ち向かうべく剣を構える。
そうして、俺達と『ヒュドラ』の決戦の火蓋が切られたのだった―。




