第20話 バジリスク戦
「キシャアアアアアアッ!」
トカゲのような見た目で蛇のように舌を何度も出す『バジリスク』を前に、すでに戦っていた他の人間達が少しずつ後ろに下がっていた。うっわ、でけぇ……あんなでかい化け物、元の世界に居たら大騒ぎだな。
しかし、驚いたのはそれだけではなかった。俺が乗っていた荷車のすぐ横がガタガタと動いていたかと思うと、次の瞬間、そこから恐怖に身を固めたレシアーナが出てきたのだ。
「あ、あれが『バジリスク』……!?」
「レシアーナ!? ど、どうしてここに……!?」
「あ、え、え~と……」
ツィオラさんの声にはっとなったレシアーナさんはバツが悪そうに苦笑いを浮かべると、縮こまりながら声を返していた。
「い、いや、その……いきなりそっちの人が居なくなったから、もしかしたら師匠のところに行くのかなぁと思って付いて行ったら、この荷車に乗るを見掛けてそれで……」
「……君」
「えっと……まあ……あはは」
まさか、俺の行動で別のイベントが発生してしまうとは……。
ツィオラさんに睨まれて空笑いを浮かべるしかなかったが、やがて俺達が乗った馬車が近付いてきたことに気付いた男が顔を向けると、そこに乗っていたのがツィオラさんだと気付き驚いた様子で声を返してきた。
「つ、ツィオラ様!? 『元宮廷魔導師』が応援に駆け付けて下さるとは……!」
「街には一応私の孫ってことになってる子も居るから被害を与えるわけにはいかないから……まあ、その子も付いて来ちゃったんだけどね」
「ま、孫……? いつの間にご結婚を……それにしても、子供どころか孫……?」
そんなツィオラさんの発言に周囲が困惑した様子で声を上げる。どう見ても若いし、普通は驚くよな。
そして、ツィオラさんは誤魔化すように咳払いをすると、周囲の人々に声を返した。
「そ、そんなこと今はどうでも良いの! それより、あれが例の『バジリスク』ね……」
「は、はい……向こうに居る者達が己を犠牲にして、どうにか一匹は討伐できたのですが……残り四体もの『バジリスク』を討伐できるほどの戦力がなく、防戦一方となっておりまして……早々に倒して助けに向かいたいのですが、このままでは……くっ……!」
隊長らしきその男が声を上げると、周囲の人々も顔を伏せて悔しそうにしており、その視線の先に目を向けると、怪我をした数人が『バジリスク』に囲まれており、まさに絶体絶命の状況に陥っていた。すると、それを見たツィオラさんは周囲の人々を気遣うように声を返した。
「安心して……自分で言うのもなんだけど、私が来たからにはもう大丈夫。あの子達も助けて、無事にみんなを助けてあげるから」
「おぉ……!」
ツィオラさんの言葉に周囲に希望が見え、「さすがツィオラ様だ……!」というような歓声が聞こえ始める。しかし、俺は見逃さなかった……周囲に励ましの言葉を投げかける瞬間、ツィオラさんの手が震えていたのを。
――いくらツィオラさんでも、無事にここを突破するのはどう見ても不可能だ。実際、ゲーム内にはツィオラさんは登場してない……つまり、ここがツィオラさんの死亡イベントってことだ。そして、ツィオラさんも自分が助からないことを悟ってる……それでも、他の人達や街を優先するなんて、なんやかんやレシアーナと同じでとんだお人好しだよな。
そうして、『バジリスク』が少しずつ奥の仲間達に迫り、周囲に緊迫した空気が流れる中、『バジリスク』のステータスを見た俺は軽く声を上げた。
「レベル15か……まあ、あれなら俺一人でも十分倒せるな」
「こ、子供……!? どうして子供がこんなところに……つ、ツィオラ様、そちらの子供は一体……」
「え、え~と……」
「馬車の荷車に隠れて付いて来ちゃったのよ……」
『バジリスク』に感心しながら荷車から現れた俺と両手の指を突いて気まずそうに現れたレシアーナに周囲が驚いた様子で声を上げる。そして、そんな俺達に目を向けたツィオラさんは呆れた様子で言葉を続けた。
「まったく、ただでさえ『バジリスク』との戦いは命懸けだっていうのに……っていうか、さっき君、変なこと言ってなかった? 『バジリスク』を一人で倒せるとかなんとか……」
「あ、はい。一匹一匹のレベルは15しかないですし、一撃で倒せると思いますよ」
「なに馬鹿なこと言ってるの……君みたいな子供があんなのを倒せるわけないでしょ? 悪いことは言わないから、レシアーナと一緒に荷車に隠れてなさい」
「そ、そそそうですよ! シュウさん、師匠の言う通り、邪魔にならないようにここは隠れておきましょうよ!」
「大丈夫だって。『バジリスク』くらい何度も倒したことあるし」
ゲームの中で、だけど。
「はいはい……ともかく、君はレシアーナと一緒に隠れてなさい」
そんな俺の言葉にツィオラさんが呆れた様子でため息交じりに声を返してきた時だった。
「……シュウ、それは本当なのか?」
そう言って現れたのは他の馬車に乗ってきた師匠だった。




