第18話 ifストーリー回収
「『バジリスク』と戦いたいって……本気なの?」
「はい」
俺の言葉に師匠と目を合わせたツィオラさんは呆れたように肩をすくめた後、言い聞かせるように声を返してきた。
「あのね……そんなこと大人の私が許すとでも思った? 『バジリスク』は強力なモンスターとあなた達みたいな子供が戦っても勝負にもならないし、そんな危険な場所に連れて行くのは許可できないわ」
「彼女の言う通りだ。他のモンスターならいざ知らず、大人ですら対処することが難しい『バジリスク』と戦うなど無謀以外の何物でもない。それに、街の外に『バジリスク』が居る以上、しばらく街の外でモンスターと戦うことは難しいだろう。残念だが、いつも通り剣の稽古をするとしよう」
「でも、ツィオラさんはその『バジリスク』を退治しに行くんですよね?」
「そりゃまあ、私に加勢して欲しいって要望があったくらいだし、向こうも苦戦しているみたいだからね」
実際、『プリテスタファンタジー』でツィオラさんは名前すら存在せず、ゲーム開始前に死んでるからな……この『バジリスク』との戦いが相当ヤバいのは間違いない。とはいえ、このまま説得するのは難しそうだな……。
「……分かりました。ちなみに今後の参考に聞きたいんですけど、こういう非常事態の時って薬とか包帯とか結構荷物が必要になりますよね? それってどうやって持ち運んでるんですか?」
「え? あぁ、まあ、そこに馬車とか荷車があるでしょ? あれで荷物を運ぶのよ。今日はあれを使うつもりよ」
「へぇ、そうなんですね。ありがとうございます。勉強になりました」
「……本当に勉強のために聞いているだけよね?」
「え? 他に何かあるんですか?」
「……まあ、それもそうよね」
明らかに疑っているツィオラさんの目に満面の笑みを返すと、どこかまだ納得していないツィオラさんがため息交じりにそう口にする中、不安そうな表情を浮かべたレシアーナがツィオラさんの下へゆっくりと歩いていき声を掛けていた。
「……ちゃんと帰ってきますよね?」
すると、ツィオラさんはレシアーナの頭の上に手を乗せ、笑顔と共に安心させるよう声を返していた。
「当たり前でしょ? 私を誰だと思ってるの? 『宮廷魔導師』をやってた凄腕の魔導師なんだから大丈夫に決まってるじゃない」
「そ、そうですよね……」
そんなツィオラさんの言葉にレシアーナは安心したように息を吐いたのだった。
◇
「―なんて言ってたけど、本当に大丈夫なんでしょうかあああああ!」
そうして、ツィオラさんと別れ、ひとまずレシアーナの店の方に戻っていた俺達だったが、頭を抱えて絶望した表情で声を上げるレシアーナ。まあ、心配な気持ちは分かる。
「まあ、本人が大丈夫って言ってたんだし、大丈夫だろ。あの人、『宮廷魔導師』だったんだろ?」
「そ、それはそうなんですけど……『バジリスク』ってすごい強いモンスターだって聞きますし……」
「安心しろ。お前達を店の方まで送った後、私も参加するつもりだ」
「ほら、師匠も参加してくれるって言ってるし、心配要らないって」
「あ、ありがとうございます……」
とはいえ、やはり心配なのかレシアーナは顔を俯かせていた。あえて大袈裟な反応をしてるけど、本当に心配なんだな。そんなレシアーナにミュラ達も顔を合わせてどう声を掛けるべきか悩んでいるようだった。
―さて、と。結構離れたし、そろそろ良いかな。
そんなことを思った俺は徐々に足取りを遅くしていく。そして、地面に膝を付くと、目を見開きながら声を上げた。
「ぐああああっ!? きゅ、急に腹が……!?」
「え? しゅ、シュウ? いきなりどうしたの?」
突然のことにマフィが驚いて声を上げ、ミュラとエリシルが顔を合わせ、声を掛けてきた。
「だ、大丈夫?」
「もしかして、お昼に食べたものが当たったとか?」
「わ、分からん……! あ、いや、さっきそこら辺に生えてた美味そうな草を食べたのがあたったのかもしれない……!」
「ちょ、ちょっと! いつの間にそんなもの食べてたの!?」
「そういうのは駄目だっていつも先生に言われてじゃないっ! 何やってるのよ、もうっ!」
「あわわ……! わ、私、お店にある薬を持って来ます! あ、でも、ど、どこに置いたか覚えてないっ!?」
「な、何!? く、くそ……! す、すまんが、みんなもレシアーナと一緒に行って薬を探すのを手伝ってやってくれないか!? し、死にそうなくらい腹が……ぐあああああっ!」
エリシルとミュラが俺の横に並んで交互に声を掛けてくる中、慌てた様子で店に掛けて行こうとするレシアーナにそう声を掛けると、真剣な表情でマフィが声を上げた。
「分かった! レシアーナ、急いで行きましょう!」
「は、はいっ!」
「シュウ、ここで安静にしててね!?」
「もう、こんな時にほんと何やってるのよ……」
そうして、道の傍らにある木陰まで連れて行ってくれたエリシルとマフィが俺にそう言うと、四人は急いで店の方へと走っていった。そんな中、その四人を横目に一人だけこの場で冷静な声を向けて来る人が居た。
「……それで? その辺りに生えていた草は美味かったのか?」
呆れた様子のその声はさっきのが『演技』だったことに気付いているのが伺える。いや~、さすがに大人を騙すにはまだ演技力が足らないか~。
とはいえ、一度付いた噓はつき通さなければならない。俺は目を見返したらバレると思い、俯いたまま声を返した。
「あ、味はもう覚えないんですよね……そ、それより、師匠もお願いします……! あ、あいつらだけじゃ心配なんで……!」
「ふぅ……仕方ない」
そんな声とともに四人の後を追おうとする師匠だったが、ふと足を止めると横目で俺を見ながら声を返してきた。
「……妙なことは考えるなよ?」
「……だ、大丈夫です……薬を飲めば治ると思うんで……」
「……それを返事と取れるかは微妙だが、仕方ない」
そうして、再び師匠は俺の言葉にため息を吐くと、今度こそ四人の後を追って行った。さすがは師匠、なんでもお見通しですね。
「さて、と―」
ふむ。現実でもまともに演技なんてしたことなかったけど、我ながら名演技だっただろう。いや、子供の頃にやってた劇とかはあるけども。
そんなこんなで、俺はパッパッと服に付いた埃を払うと、さっきまで歩いてきた道に目を向けながら声を上げる。
「―ifストーリー回収といくかな」




