プロローグ:デザートになんてなりたくない
「まだ……早いんじゃないでしょうか。先ほど夕食を、召し上がったばかりですのに」
寝台に押し倒されてもなお、フレアージュは強気な視線を向け続けた。
美しくも恐ろしい魔族の王太子、スピネルの赤い宝石眼が、すぐ目の前で自分を正確に捕えている。
逸らせば命の危険があると本能的に感じた。
「だって、デザートは別腹でしょ?」
フレアージュの両手を軽々と頭上でひとくくりにし、片手でシーツに縫いつけながら、彼は唇を冷笑で歪めた。
「君も知ってるはずだよ、僕達がどうやって人間を食すのか。脳みそはプディングのようにスプーンですくって、心臓はチョコケーキのように頬張って。目玉はキャンディーのように口の中で何度も転がす……」
「うぅ……」
想像するだけで胃の中がひっくり返りそう。
我慢できなくなって、フレアージュはとうとう顔を背けてしまう。
でもそれを許さず、スピネルは彼女の顎先をクィッと持ち上げて正面へと向けた。
「ねえ。だったらその他は、どうやって食べるのか知りたくない?」
冗談じゃない。
新婚初夜に、身をもって経験するのだけは絶対にイヤ。このまま死んだら誰にも伝えられないし。
でも恐怖で声を出すことはできなかった。
スピネルはそんな姿をどこか楽しそうに見下ろしながら、フレアージュの長くふわふわと柔らかい髪を一房すくって口づけを落とす。
「ふふ。君は髪の先まで甘そうだ」
(やっぱり今夜、食べられちゃうのかしら。1日でも長く生きのびて、王国と魔国の友好の懸け橋になりたいのに……)
フレアージュは固く目をつむり、つい3日前の自分におきた出来事を、走馬灯のように思い出す。
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