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らいとにんぐエッチ 百合編2 1/3

ユリの休暇二日目から三日目の話です。

チュンチュンチュン

日の出、小鳥たちの鳴き声がわずかに聞こえてくる。

「・・・・・・・」

無言で、レインはむくりと起き上がった。

まだ酔いが覚め切らないのか、しばし沈黙。


〈何か昨夜のことが断片的にしか思い出せないわね・・・でも、もしかして?

とんでもないことが起こらなかったかしら?〉


と思いだしてみると、じわじわと記憶が呼び覚まされていく。

いわゆるフラッシュバック


「・・・・!?」


あわてて、レインは自分の体を観察する。

胸の周りやお腹、肩や腕、内ももやヒザ、手の甲まで。

至る所に虫刺されのような赤い痕が目についた。

〈やっぱり、夢じゃない・・・〉

周囲を簡単に見回すが、既にユリの姿はない。

自分の着ていた服が、乱雑に床にブチまけられている。

ふいに、ベッド脇の灯を文鎮がわりに、紙が置かれていたことに気づいた。

何か書いてある。


《昨夜はごめんなさい。

どうしても、自分を抑えられなくてあんたことしてしまって。

わるいと思っています。

私もこの気持ちと一緒に綺麗に忘れようと思います。

ですから、できればレインさんも、昨日のことは忘れてください

今日はもう仲間たちの元へ帰らないとならないので、

レインさんのこと起こさないようにして失礼します

ユリ・レビアン より≫


それを呼んでレインはまず最初に感じたのは

〈・・・なんて自分勝手な子なのかしら〉であった。

だが何故か、そこに怒りの感情は感じられない。

ただ、どうせなら自分が目を覚ますまでいて欲しかったかな?

という寂しさに近い感情が、わずかに湧いてくる。

チュク

とりあえず起きようと、立ち上がろうとした際、デリケートゾーンから

何やら湿っぽい音がした。

「・・・・やだ、私ったら・・・」

そう小さく呟く。赤面する。

その体は、まだ昨夜のほてりが残っていた。

〈忘れろだなんて・・・・私、そこまで嫌だった・・・わけじゃ〉

言いかけて、ブンブンと首を振るう。

いけないいけない、気持ちを切り替えなきゃ。

そろそろ朝の支度を済ませて用事を片付けなくちゃ。

今日からの2日間は特別な日。

レインの子育てが大変だからと、月に2回、同じ町に住む父方の義両親か

自分の両親のもとに子供達を2日ほど預かってもらうと

約束しているのだった。


まず濡れた布で自分の体を拭いた。ここには風呂やシャワーがないし、

銭湯にいく時間もない。次に衣服を整え、着る。

シフトドレス〈シュミーズと同じ肌着であるが、こちらは昼と夜で呼び分けている〉に袖を通し、

膝上までの長さの靴下を履く。

その上から、ずり落ちないようにするためヒザ下の位置に細いリボンを巻く。

そして靴を履いた。


続いてステイズ〈補正下着。

コルセットと似た物であるがこちらはバストを安定させブラジャーの役割も担う〉

それをベストのように両腕を通して、胸の前の所で、シューズの

靴紐のように何重にも紐を通して、結んで閉める。


そしてその結び目の隙間にストマッカーという胸当てを差し込んで、

ステイズの隙間から見えるシフトドレスを隠してしまうのだ。


次にポケットを取り出す。

この頃のポケットはズボンの付属品ではなく、服の横にかける小物入れであり、

外付け式だった。それを腰に巻いて固定する。


その上からペティコードを着る。これは一番外側に着るスカートのようなもので、

腰に巻いたポケットに手を差し込む隙間がありながら、

そのポケットが外から見えないように自然と隠しておける。


その次に髪型のセットに入るのだが、今日は先日のようにシニヨンを作る気力が

出ず、このままストレートで行くことにした。

いつも几帳面に髪型を気にするレインであったが、今日だけは仕方ない。

特別だ。大雑把でいくことにした。

本来なら頭にキャップも付けて髪型が崩れないようにするのだが、

今日明日は休日としているので問題ないだろう。


最後にネックチーフという、スカーフのような物で首の後ろを隠し、

首筋が見えなくする。

ネックチーフの端はステイズの隙間に挟み固定。

髪型はずぼらでも、これを付けることだけは忘れない。

女性としてそのぐらいしないと恥ずかしいという感覚が彼女にある。

〈それに〉

またもフラッシュバック。

ユリがレインの全身を舐めまわし、執拗に首筋に吸い付いてきていた。

きっと、見えないけれど、首筋辺りにも赤い痕が付いているかも

知れないと思った。

その時のことを思いだした時、ふいに自分の今の服装に違和感を覚える。

厚く着込んだ服装では足の付け根に手が届かない。

胸もストマッカーとステイズで阻まれる。何故だか妙にもどかしい。

〈ってダメダメ!何考えてるのよ私。これじゃなんだが、まだ・・・〉

レインは必死で頭を振り、部屋を出る。


朝食作りは少々時間をかける。

マジックコンロに魔力を注ぎ、着火。ポッドに水を蓄えて火にかけ、

同時にフライパンを用意。

そうしてマッシュルーム、ベーコンを炒め、目玉焼きを順に作る。

パンは食パンが主だが、今日は、昨日買ったバケットが未だ残って

いるので、それを分厚く切る。

調理が完了次第、一つの大きな皿にそれらを並べ、ワンセット完成だ。

ジャムの瓶もテーブルに出す。

そうして作っている間にポッドから湯気を噴き出しているのを見て、

取り上げる。そのポッドにそのまま茶葉をダイレクトに投入。

むらしに入る〈カップに注ぐ際に、茶葉を濾しとる〉

子供用には、コップに水とミルクを1:1の割合で混ぜものを用意。

三人分の朝食が用意できた所で、レインは子供部屋に向かうのだった。

「ほら、サニー、クラウドぉ。そろそろ起きなさい。

今日はお爺ちゃん達の所にお泊りの日でしょ」



「では義父さん、義母さん、子供たちのことよろしくお願いしますね」

「ああ、任せなさい」

「貴女もゆっくりと休んでね」

時は昼過ぎ、レインは予定通り義両親の元へ子供達を預けてその家を離れた。

午前中いっぱい自分もお世話になり、昼食まで頂けたのは非常に助かった。

子供達もお爺ちゃんお祖母ちゃんが大好きで、お泊り会を楽しみに

しているようで、別れ際にも楽しげに私に手を振っていた。

義父は元騎士爵であった。家臣もなく、子供に爵位が受け継がれない

下級貴族の身であるが、その年金の額は私と夫の収入を上回る。

だからか、たまの祖父母の家に行くと与えられる、甘味や玩具の誘惑は

孫らには非常に強力である。

時には自分たちの稼ぎが悪いような気がして、コンプレックスもあったのだが、

「自分らは長く生きてきたからそれだけ蓄えがあるだけ。

貴方たちもまだまだこれからよ」

という暖かな言葉に随分と救われた。

おかげで、自分も子供達のことを一切気にせずにヒマを頂くことができるのだから、今となっては文句はない。

さて、今から明後日の朝方〈子供達を迎えにいく頃〉までどう過ごそうかしら、

と思って道を歩いていた矢先である。

「れーいん、さん!」

ふいに背後から、何者かに抱きつかれた。

「えっ・・ユリちゃん!?」

びっくりしたレインは二歩三歩とユリから距離を取ってしまう。

「アハハ、ごめんなさい。ビックリさせちゃいましたか?

道を歩いてたら見かけちゃったんで、つい・・・」

ユリは悪びれもせず、後ろめたさも感じさせずにただ笑顔を浮かべていた。

距離を離しても、ユリは離された同じだけ歩み寄ってくる。

「ええっと・・・ええええええ・・・・・」

一方、唇がパクパクするだけで、言葉が出てこなくなるレイン。

強烈な気まずさに襲われ、ついユリから逃げようとしてしまう。

テクテクとユリに背を向けて、人通りの多い街道から逸れて、何を思ったか

細い裏道へと入ってしまった。

それでもカツカツとユリの足音が背後から近づいてくる。そしてついに

「なんで逃げるんですか、レインさーん」

ユリの手が伸び、レインは腕を掴まれた。

「えっ、ちょ!」

掴まれた手をそのまま引き寄せられる。そうしてレインはユリにギュッと抱きしめられてしまうのだった。

〈わ・・わわわわわ、わー!〉

頭が混乱する。なんでかよくわかんない。怖いでもなく、恐ろしいでもなく、

嬉しいようなないような?

色々な感情が高まって、一度に押し寄せてくる、このどうしようもない言葉にならない何かをレインは感じていた。

だがユリの動きはそのままでは終わらず、周囲を見渡す。

今いるところが、大通りから少し離れた裏路地で、周りの建物の裏戸には

いずれも人気がない。少し影が差して、外からは視界が悪い。

そう判断すると、ユリは事もあろうにレインを近くの壁に押し付けた。

「あっ・・・」

あまり痛くない。だが背中に触れた壁がひんやりとしている。

ユリは静かにレインの顔を優しく撫でる、その唇に指を這わせる。

そしてレインの顔を真っすぐに見つめると、ゆっくりと顔を近づけていく。

チュッチュウ

しっとりと深くキスをするのだった。

最初は一瞬触れ、離す。また唇を合わせる。が、二度目は長く。

そしてレインの口の中からチュウっとツバを吸おうとする音が鳴り

響いて、うっかりとレインの舌が動いたかと思うと、そのままユリの舌に絡めとられてしまう。

「ンッチュ・・・レロ・・・ン・・チュプ」

「ンンン!・・・ンクッ・・ん・・・ンハフ、ん、ちゅ」

レインは始め、ユリの体を押したり抵抗を見せる。

だが、自分の非力さでは戦士として鍛えてきたユリの体はピクリともしなかった。

しばしその抵抗は続いたのだが、次第に諦めたのか、レインはその体を

ユリにゆだねてしまう。そうしてひとしきりその唇を堪能すると、

ユリはやっとレインから唇を離す。

その時、二人の口の間には透明な粘液の橋がかかるのだった。

いささか腰砕けにされたレインはユリに寄りかかった。

「・・・もお、ダメよこんな・・・昨日のことはこれっきりって、

忘れるって言ったじゃない」

赤面して、レインがユリの耳元へポツリとそんなことを漏らす。

「昨日のことですか?・・・・ごめんなさい。そんなこと、

何があったか私、忘れちゃいました。チュッ」

〈何よそれ・・・ズルい子ね〉

ユリはレインの耳元へそう囁くと、もう一度、彼女の唇を奪うのだった。




そうして話は夜に進むことになる。

あの後、ユリはまた一つの待ち合わせの約束をして離れていった。

「今日の夜、日が沈みきった頃に中央ギルド館南口前に来てください」

それだけを言われて、レインはそれに合わせて家を出る。

時計なんてない。ただ日の傾き方や周囲の同業者が動き出したからこちらも、

という具合に街や人はその雰囲気を変える。

そんな街の空気を感じてレインは、一枚のフードを頭の上から

しっかりと被って、家を出た。

集合場所につくと、幸運にも間を置かずにユリと合流できた。

彼女に連れられるまま、その日の目的地に同行することになるのだった。

目的地は南側の商業区にあった。

日中はあくまでも普通に商店や食事処、バザーで賑わいをみせるのだが。

その実、この商業区の建物の内、昼間に開業しているのは3分の2程度であり、

こんな夜に出歩くことはなかったレインにとって、その夜間にのみ営業を

行っている店が開いている様を見るのは、あまり無いことだった。

いつも空いている店がしまっている、いつもは食事処だった店は酒場へと

姿を変え、昼間とは違って騒がしい客も多い。

店によってはこのバリサドレ名産の色付きガラスを用いたランプに火を灯し、

赤や青、紫といった普段見られない明かりを放っている。

その様は、レインには馴染のない光景だ。

そしてそういったお店では、美しく着飾った女性たちが客引きを行っており、

鼻の下を伸ばした客が引き寄せられていく。

ふいにその客引きの女性と目が合う。見ず知らずのその美女は

こちらに向けて優しく手を振った。

すると悪気はないのだが、レインはなんというか、気恥ずかしさに似た何かを

覚えて、そちらから視線をそらし、

ユリの腕にギュッとしがみついてしまった。

「大丈夫ですか?もうちょっとなんで、安心してください」

言い終わって、ユリは先ほどレインに向けて手を振っていた美女をきつく

睨みつけた。

〈この人は今晩、私のものなんだからね!色目使おうとすんなアンジェラ!〉

レインは気づかなかったのも無理からぬことであるが。その美女の名は

アンジェラ。

ユリの知人であり、マッサージ店「フェアリーキッス」の従業員であり、

バイセクシャルである。

故に彼女は油断できない。きっとレインのエロスフェロモンを嗅ぎつけたんだ。

今の内に誰のお手付きだか、しっかりと伝えておく必要があるとユリは考えた。

そうして一難去って少し歩いていると、なんと目的地は商業区の賑やかな

辺りではなかった。そこから過ぎて、バザーの開かれる広場の手前、

倉庫が立ち並ぶ辺りに、その目的地はあるらしい。

「あの・・・ユリちゃん?ここに本当に、楽しいお店があるの?」

辺りをキョロキョロと見回して不安がるレインに、ユリはひと際明るい調子で答える。

「ええ、ここって実は穴場なんですよ。ほら、そこの看板見てください」

ユリが指さすと、確かに不思議なことに、貸倉庫として利用されている一つの

倉庫の裏手に、地下へ続く階段が見えた。

その階段の手前には分かりづらいが、夜だけ掲げられる明かりのない看板があり、

その先の地下で、一部の人間だけが知るお店が存在していたのだった。

名を『Violet lips』と在った。

「ほら、暗いから危険ですし、お手をどうぞ」

ユリは自然とレインに手を伸ばした。レインはその手を繋ぐと、

二人で一歩ずつ慎重に階段を下りてゆく。


その階段を20段ばかり降りると、折り返しがあり、今まで下りた向きとは

反対方向にまだ下り階段が続いていた。

その先を見ると、明かりの灯った扉が目に入る。

不特定多数の人々には、まさかこんな所に店があるとは誰も思うまい、

という隠されたお店なのだった。

その明かりのついた扉の店構えを目にするだけで、

〈ああ、本当に営業しているんだ〉とレインはホッとする。

そうしてユリに手を引かれつつ、レインはその扉の中へと足を踏み入れるのだった。

次回更新はまたこちらのシリーズで、25日水曜日深夜です。

もうちょっとお付き合いいただければと思います。

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