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「さぁ、やって参りましたね! 再びこの期間が……!」

「い……イェーイ。でいいのかな?」

「まぁ、後少し頑張れや、終われば夏休みだ」

「よし、じゃあやろうか」


 いつものファミレスにまた四人が集結した。

 中間テスト以来集まらなかった四人だが、ついに期末テストが始まるという事で、再び勉強をしようと謙太が言い出してこの会が実現した。


 えにしは、あれから数日休んだものの元通りに戻ってきてくれた。

 放課後に陸上部の練習風景を廊下から覗いた時のえにしは、楽しそうに走っていた。

 三年生や、生徒会長は練習にはいなかった。

 きっともう引退していったのだろう。

 未だに、生徒会長のした事が許せる気はしないが、えにしが元気を取り戻せた事を今は喜ぶべきだろう。

 目の前で、期末の勉強に頭を抱えているのは、いつも通りという事で大丈夫だ。


「ねーねー、夏休みさぁ、みんなで夏祭りに行かない?」


 珍しく全員が無言で勉強していた所に、謙太が爆弾の様な発言を投下する。

 一気に休憩モードにスイッチが切り替わった。


「あー! 近くでやってるあの花火が有名な夏祭り! いいね! 行きたい!」


 えにしが、当然の様に話に薪をくべる。

 それよりも、今日は、少しテイストを変えて、久しぶりに、メロンソーダを飲んでみたが、案外美味しいものだ。

 リピートしてもいい。


「あの夏祭り人が多いんだよなぁ」


 珍しく、長澤も参戦してきた。

 もう勉強は一時中断確定の様相を呈していた。

 手持ち無沙汰に、ポテトをつまむ。

 こちらも、昔から考えると意外な程進化していてかなり美味しい。

 これもリピートありだ。


「由香ちゃん! 俺、花火がすごく綺麗に見える穴場知ってるよ!」

「え! そうなの! 謙太君すごい! 楽しみだなー!」

「……おいおい、私は、まだ行くとは――」

「八代君も楽しみだね!」

「ん? あぁ、そうだね」

「……いつにも増して、聞かねぇな」

「由香ちゃん、一緒に浴衣着て行く?」

「……はいはい」


 あの長澤が、たじたじにされている。

 いつもクールでも、えにしの前では大変そうだなと、ポテトをかじりながら氷の様な鋭い顔が歪んでいるのを眺めている。


「なんだよ、文句あんのか?」

「いえ、ありません」


 凍てつく様な視線を避ける様に、僕は、再び勉強に戻った。

 僕が勉強をし始めると、長澤が小さな舌打ちをして、それに続き、その後も謙太とえにしは長々とお祭り話に花を咲かせていたが、次第に勉強に戻っていった。


 しばらく、勉強に精を出していたが、真っ先に手を止めたのは他でもない僕だった。

 メロンソーダが切れてしまったのだ。

 ポテトとメロンソーダの組み合わせが、ここまで手を止められないものだとは思わなかった。

 ドリンクバーに行き、メロンソーダを注ぐ。

 その間に、携帯を確認すると、一件メールが来ていた。

 確認せずとも分かる。これは川島からだ。


『夏休みに行われる、近くの夏祭りに一緒に行きませんか』


 何故こうも、みんな揃って夏祭り、夏祭りと言いまくるのだろうか。

 メロンソーダの泡立ちを、ため息混じりに見つめながら、

 先約が入っていて、行けない事を伝えると、珍しくすぐに返事が来た。


『もしかして、あの方達と行くのでしょうか?』


 不安な文言だった。

 そうだ、と伝えると、すぐ様携帯から着信音が鳴り響いた。

 僕の不安は的中していた。

 メロンソーダの入ったコップを持って、邪魔にならない様な隅に身を置いた。


「もしもし、突然のお電話申し訳ございませんわ、先ほどのお話し、少し異議がありましてよ」

「……ん? 何の事?」


 異議、という言い回しが強く引っかかった。


「あなたに拒否権は、ない。という事ですわ。夏祭り、悠壱さんは、私と一緒に行くんです」

「いや、だから先約が――」

「あの、寿命が1の子、自分の寿命を知ったらなんて言うのでしょうか、気になりますわね」

「――!!」


 信じられなかった。

 同じ寿命が見える者として、いや、人として、その発言を許容する事は到底出来なかった。

 来ないと、寿命をバラす――もしかしたら、それ以上の事だってやられかねない。


「自分の言ってる事分かってる?」

「えぇ、分かっておりますわ。あなたを夏祭りに連れて行きますの」


 全く分かっていない様だった。

 そもそも、僕の事が好きでアプローチしているはずなのに、僕の嫌がる様な事をしているのは一体何故なのだろうか。

 しかし、ここは従うほかなかった。


「分かった。一緒に行こう」

「やった! 嬉しい! あっ……コホン、では当日、お待ちしておりますわね」


 どうしてそんなに無邪気にはしゃげるのだろうか。

 目の前にいたら、手に持っているメロンソーダをぶちまけていたかもしれないくらいに、こちらは、はらわたが煮え繰り返っていると言うのに。

 携帯をそっとしまい、一つ深呼吸をしてみんなのいる机に戻った。

 意外にも、まだ真剣に勉強をしていた。

 僕も、再び机に戻り、勉強へと向かう。

 しかし、先程の事がちらついて全く離れてくれなかった。

 えにしの頭の上の寿命をちらりと覗く。

 心臓が握られる様な痛みが、じわじわと湧いてくる。

 ペンを握る手に力が入らない、教科書の文字が異国の文字の様に見えた。


 僕は、帰ってきて早々、お手洗いに席を立った。


「お、なんだ、珍しくそわそわしてー、メロンソーダ飲み過ぎたか? 俺も行くー」

「あぁ、そうみたいだ」


 隣の謙太も僕に続いて、席を立った。


 二人で歩いていると、謙太が僕の肩をツンツンとつついてきた。


「何?」

「俺さー、夏祭りで由香ちゃんに告白しようと思うんだー!」

「そうか、ついに諦めたか」

「なんで告白がゲームオーバーみたいになってるわけ!」

「逆にいけると思うのか?」

「やってみなきゃわかんないだろー。そこでさー、いい感じのタイミングでえにしちゃん連れてって、俺らを二人きりにして欲しいわけよー! お礼は……そうだな、考える」

「すまないが、それは出来ないな」

「なんで!?」


 僕が来る事を信じて疑わなかったのか、茫然自失といった表情だ。


「僕は、みんなで一緒に夏祭りに行けそうにない」

「……へ!?」


 さっき川島から誘いを受けた事、そして、それを断れない立場にある事を伝えた。


「そうか……例の秘密の事なんだな?」


 こんな言い方をさせてしまって、謙太には、本当に申し訳ないが、こればかりは言ってしまうと謙太本人の人生の在り方を変えてしまうかもしれない。

 そうなっては取り返しがきかない。

 だから、もっと僕達が成熟したタイミングじゃないといけない。


「うん、そう」

「そうか……なら、俺があの二人に上手く言っといてやる。後は……えにしちゃんに頼むとするかな! くぅー! 緊張するぜ!」


 おちゃらけているが、悲しそうな目をしたのを僕は見逃せなかった。

 つくづく、友達想いのいいやつだ。


「すまない」

「謝るなよ、それと一つだけ、朗報があるぜ」


 朗報、という言葉に、僕は一筋の希望を見出す事が出来た。

 川島に対する、たった一つと言える可能性のある対抗手段。


「まさか……見つけたのか?」


 謙太は、自信満々にピースサインを僕に向けてきた。


「おうよ! 意外と簡単だったぜ!」


 正直、無理だと思いつつ頼んでみたのだが、謙太は僕の想像を超える程に、見えているものが広いのかもしれない。

 やはり、謙太は大物になる、いや、もう既に大物かもしれない。

 僕はあまりの仕事ぶりの良さに舌を巻いた。

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