第八話 再会
この世界に来てから三か月が経った。
ようやくだ。ようやく、軍の準備が整った。
決行は三日後。それからは一気に侵攻し、三週間で王都を陥落させる。
部隊の編制は終えたし、作戦もたてた。
これはもう不退転の闘いだ。メイド達も連れ、全軍で侵攻する。
その時だ。全軍の指揮官を命じたおかげで、最近忙しくなったであろうアルファが執務室に戻って来た。
「どうしたんだ? 何か異常事態か?」
『ハア、陛下ヘノ謁見ヲ申シ出テオリマシテ……』
「何だと? 森に住まう亜人か?」
『イエ……、黒イ髪ノ娘デス……』
「ッ!? 今すぐここに通せ」
アルファにただちに命じる。
俺はずっと、配下に絶対に殺すなという人物を伝え、それを厳命していた。
黒い髪の女性……。
まさか。いや、違う。
だって今は王都にいるはずで……。
「宮田君?」
「如月?」
アルファに案内されてやって来たのは、如月だった。
異世界の防具に身を包み、腰には細剣が差している。
数々の修羅場を潜り抜けたのだろう、如月の眼差しはかつてとは別物になっていた。
それでも、その瞳には雫が溜まり、今にも流れ落ちそうになっていた。
今すぐに大丈夫だよ、と抱き締めに行きたい。
「……っ、如月」
でも、駄目だ。
俺の手はもう汚れている。
汚いこの手は、如月の手を取る事を許さない。許してはいけない。
そうで無くてもこれから俺は王国と全面戦争になるんだ。
負ける可能性もあるだろう。そんな戦いに如月を関わらせたくないんだ。
「今すぐどこかの国に流れろ。【剣聖】ならばどこの国でも国賓の扱いを受けるだろう」
これは情報源から聞いた、確実な情報だ。
やはり【剣聖】は貴重な職業で、どこの国であっても王族並みの暮らしが確約される。
ならばこれから滅びる王都よりも、周辺の国に行った方が安全だろう。
この西大陸には世界樹の森に住まう亜人達や、軍王国や共和国もある。
どこに行っても優遇される。
「嫌だよ。私は絶対に行かない」
しかし、如月は首を縦に振らなかった。
言葉遣いが前よりも幼くなった気がする。
「っ、黙れ。これは命令だ」
「従う道理が無いもん。私は宮田君に会いに来たんだから」
なんで、どうして言う事を聞かない。
俺がどんな思いで如月を突き放しているのか……。
「……良いだろう、この城で過ごすという事がどういう事か教えてやる」
外を見れば、すっかり夜も更けていた。
疲れ知らずなこの身体では、昼夜が逆転してもおかしくない。
時間帯もちょうどいい頃だろうと俺は如月の手を無理に引っ張り、寝室へと向かう。
「よく、俺だって分かったな」
「分かるよ。だって、宮田君だもん」
「…………そうか」
道中、そんな会話をした。
骸骨になったこの姿を、如月が気付いてくれるとは思っていなかった。
そして寝室に入る前に、「この部屋に誰も入れるな」と見習いメイドのベータに厳命しておく。
そして部屋に入った途端、レベルアップして強化された腕力で如月の衣類を引き千切った。
能力低下で身体を不自由にし、【剣聖】お得意の身体能力すら奪った。
「きゃっ」
産まれたままの姿となった如月は両手で恥部を隠し、可愛らしい声を上げる。
見惚れてしまいそうな身体だったが、今は興奮しないこの骸骨の身体に感謝する。
「このままお前を襲うぞ! それでも――――」
「舐めないでよ、宮田君。これが、私の答えだよ」
皮膚も無く、何も感触が無いはずの唇に柔らかいものが当たった気がした。
何が何だか分からない分からずに呆けていると如月は再び俺に顔を近付け、骨となった口にキスをした。
危ない、ベータを男の娘って表記するところだった……
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