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第七話 常識

 それからと言うもの、俺は順調に配下を増やしていった。


 時たま、襲撃されても気付かない程に辺鄙な村を襲い、ゾンビを増やしていく。村を襲った時に墓があれば、その墓からスケルトンを呼び起こし配下に加える。


 同時に森の中から魔物を見つければ殺し、ゾンビにする。


 その繰り返しで現在の軍の総数は八千。着実に勢力を拡大して行った。


「さて、どこまで話したか……」

「金銭についてです、陛下」

「そうだったか。では頼む」


 貴重な情報源として、村から連れ帰った男は十分な働きを見せていた。


 情報は命よりも大事だからな。


 この男と娘には目的を果たした後、生涯その身の安全と共に金銭面で困らない生活を約束した。


 男が娘を俺に差し出そうとした時は流石にキレそうになったが、ここまで役に立った男だ。その功績に免じて、怒りを鎮めて断った。


 今は娘の方は幽霊(ゴースト)達の指導の下、メイド見習いとして働いている。


 別になにもしなくていいのだが、働いていた方がトラウマを思い出さずに済むらしい。


 ……今考えると、娘には見せなくて良かったか? いや、だが調子に乗らせないためにもああいう見せしめは必要だ。


 俺に逆らうと死ぬんだぞと、その身を持って知るのが一番だ。


「この国の通貨は“リル”と呼ばれておりまして、この硬貨によって取引されます」


 男が机の上に並べたのは、四枚の硬貨だった。


「順番に金貨、銀貨、銅貨、鉄貨です。金貨は百万リル、銀貨は一万リル、銅貨は千リル、鉄貨が百リルです。私は持ち合わせておりませんが、金貨の上にさらに白金貨という物がありまして、一枚で一億リルの価値を有しております。ここまで行くとほとんどの人間が一生見る事が無いまま、人生を終えます」


 正直、この身体では使う事は滅多にないだろうが、国を滅ぼした後のことも考えれば、覚えておいて損は無いだろう。


「リルがどの程度の価値なのか、イメージだけでも知りたいんだが、千リルから単位が一つ上がるごとに何が買えるか教えてくれ」

「かしこまりました。まず千リルですが、店で食事をするには大体がこの値段で収まりますな。一万リルあれば粗悪品ですが鉄の剣一本、衣類の上下を揃えるのにもこれだけあれば足りるでしょう。十万リルあれば装備一式が揃い、百万リルもあれば学校に通えます。一千万リルあれば家が建ちます。一億リルあれば……、大抵の事は出来ますな」

「ふむ。一つ質問だ。学校に入れるとあるが、学校は誰でも入れるものでは無いのか?」

「その通りですな。かなりの高額な費用が必要で、私も娘を通わせておりましたが、村では他に誰も通わせてやれていませんでした」


 日本では考えられない事だな。


 義務教育という制度が無いのだろう。


 まあ、この世界の生活水準が中世ヨーロッパ程度だと考えれば妥当か。


 だとしてもぼっとん便所だけはどうしても受け入れられない。今は骸骨だが人間に戻った時が最悪だ。早急に水栓便所は開発したいので、その辺りの専門家を従えないとな。


「それと、例の件はどうなった?」

「…………」


 男は首を左右に振った。


 例の件とは解呪の方法についてだ。


 解呪の方法は444万人の命を捧げる事だが、それ以外にも何か方法を探していたのだ。殺さなくていいなら、それに越した事は無いからな。


 この男はかなり大量の本、その中には呪いに関する本も持っていた。調べさせていたが、やはりだめだったか……。


「陛下?」

「ん、ああ。すまない。今日はもう帰って良いぞ」


 集中力が落ちているな。


 これでは学ぶ事も出来ない。


 今日はこれでお開きにしようと思ったが、男はその場を動かなかった。


「陛下……、私からも質問させていただいてもいいですか?」

「何だ?」

「陛下は何を目指しているのですか?」


 意を決した様で、男は聞いて来た。


 確かに踏み入った質問だ。


 出会った当初であれば殺しただろうが、今はこの男の利用価値に気付いたからな。


「聞かない方が良い。その頃にはお前は一般人に戻してやるつもりだからな」


 そうだ。言わない方が良い。


 役立った人間は殺してやりたくないからな。


「…………かしこまりました。今後も、陛下のお役に立てる様に身を粉にして働かせて頂きます」

「ああ」


 男はそれ以上、何も聞かずに俺の執務室を後にした。


 俺はそのままソファに寝転がり、天井の染みを見て思案を巡らせる。




 この世界はいくつもの国が存在して、正確に言えば違うんだがここグロバル王国は西大陸に位置する。周辺にはバルバト共和国、ユウラシアン軍王国があり、世界樹の森にいる亜人達を含み、四つの国が敷きめき合っているのだ。


 東大陸や島国もあるらしいが、そこは省く。


 世界的に共通しているのは「職業」が人生を決める程の才能である事と、「冒険者」の存在であった。


 冒険者は様々な国に支部を設置しており、民間経営でありながらも民間や貴族からの依頼で、理不尽な人殺し以外なら何でもやる連中だ。対魔物のスペシャリストで敵に回すと厄介そうだ。


 続いて国にすら対抗できる巨大な勢力『教会』だ。唯一神アトムを崇拝していて、世界の八割の人間が入信している。彼らが動けば国が揺らぐと言われる程で、中には教会が国の中で教えを説く事を禁止している国もあるそうだ。いつの時代も宗教とは面倒なものだな。

そして神聖魔法を得意にする者が多く、聖水や十字架も持っていて、アンデットの俺にとっては天敵の様な相手だ。早急に対策を考えねばならない。


 まあ大体はそんなところか。


 はあ、頭が痛い。


 そんな奴らとこれから戦わないといけないわけだ。


 非常に厄介だし面倒だが、全ては四百四十四万人を殺すため。


 許してくれ。とは言わない。


 俺が俺のために、お前達を踏み台にするんだ。


 俺を恨め。俺を憎め。


 そして、王国に産まれてしまった不運を呪え。




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